記録.61『英雄のガワを被った邪悪Aと邪悪B』
前話のあとがきにて、遺跡についての説明をしています。
最後の行だけでもお読みください。
「もうちょっとなー!もうちょぉっと頑張ろうなぁ!!!??」
「力ってやつが足りないんだよ。空を飛ぶんだ、空を。空は希望に満ちてるよ」
新たに解放された〔ミカイ〕の街で、俺とプロペラは他の廃人連中を煽り倒した。
なにせ、俺達は未開放領域踏破者だ。
この日本サーバーで!初めての!!
奴らは何も文句なんて言えやしない。言ってしまったら、その大きな価値を穢してしまう。ゲーマーであればゲーマーであるほど、この功績は重要だと気付ける。
日本と言う島国が、巨大すぎる海外を出し抜いたのだから。
奴らに文句を言う権利はないし、俺達が遠慮して引き下がる理由も無い。
おい!杏、お前も言っとけ!俺達が最強だ!ピュヒュイ君にも自慢しようぜ!
俺がしどろもどろになっている杏にそう言うと、杏はおどおどとしながら俺の背中に隠れてしまった。人を煽るっつー行為は苦手か?…んじゃ知り合い連中に後で自慢しに回ろうな。ここで採れたアイテムでも持ってよー、これ俺達が解放したとこのアイテムなんすよーってな。
杏の閉じた扉を無理矢理開いて、土足で上がり込み、職業の強制進化をさせた俺は杏の行く末を見る役割がある。下手に放り出していいもんじゃない。
しかし、それはそれ。これはこれだ。
俺は再びプロペラと共に廃人共を煽り倒すのに戻った。
よっしゃ!プロペラ君!
煽り巡りだ!廃人共が運営するギルド、全部回って根こそぎアイテムぶんどりながら煽り散らかそーぜ!奴ら、きっと愉快な顔するに決まってる!
「いいね!」
ターミナルがいるならば、もっと楽しいもんになるが、奴はどうやら他のプレイヤーと会いたくないようだし仕方が無い。俺とプロペラは転移門を使って、廃人共のギルドハウスが集まる〔サイショ〕の街に転移するのだった。
◇■◇
「おらぁ!金品出せやぁ!!!」
「こんちはー」
俺とプロペラは押し入り強盗みたいな感じで廃人共のギルドに侵入して、金品を漁り始めた。
「ちょ!何やってるんですか!」
何も事情を知らないルーキーが、俺達を止めようと近付いてくる。
プロペラが風魔法を使い、牢獄に送られないレベルで拘束する。突然、身体が動かなくなったルーキーは、地面へと転がり、混乱しながらも俺達に罵声を浴びせた。
「犯罪ですよ!貴方達、一体どういうつもりですか!!?」
喚くルーキーを、一人の廃人が静かに止めた。
くけけ……!おいおい、分かってんじゃねぇか。やっぱ、ルーキーより廃人だ!物分かりもいいし、何より価値を理解している!
俺がけらけらと笑っていると、プロペラがルーキーに近付いていく。
「君の選択は間違っていないよ、ビギナー君」
拘束され、地面へと転がったルーキーと少しでも目線を合わせようとしたのか、プロペラは低くしゃがんで言葉を並べた。
確かに、間違っちゃいない。
俺もそう思う。ルーキーは正しい事をしようとした。ただ、時には正しい事が正しくならない事もある。今が正にその状況っつー訳だ。
「ただね、廃人さん達は皆揃って醜いから、そのせいで正しい選択が正しさを伴わない事もあるんだ」
ルーキーは、訳が分からないといった表情でプロペラを見つめていた。
ルーキーの傍で、廃人が無念の表情で目を瞑っている。誰しもが、正しい選択を取れるわけじゃない。このルーキーは将来有望だ。いや、有望だった…。
プロペラが言葉を紡ぐ。
隣で、廃人が震えながらかぶりを振った。
「―――このゲームは、醜さこそが正義なりうる」
ゴミが集まり、ゴミュニケーションを形成するこの世界において、正しさは上手に機能しない。
くけけ…!良い時代になったもんだぜ。
なぁ、そうは思わねぇか?プロペラ。
金品を亜空間に放り込みながら、俺はしゃがんでいるプロペラにそう聞いた。
「うんっ!」
プロペラは俺の方を向いて、明るい声で肯定した。
その足元で、一人のルーキーの心が折られているにも関わらず……。
◇■◇
「へーい!元気―?」
廃人共が運営するギルドハウスの扉を蹴破って、サングラスをかけた俺とプロペラがズカズカと入り込む。
おいおーい!相も変わらず人として廃れてることしてまっかー?調子どうだよ、気分は好調か?
「いぇーい、こんちはー」
ポケットに手を入れたチンピラ二人を見て、廃人共がギョッとした様子で奥の部屋へと逃げ込んでいく。どこ行くんだよ、寂しいじゃねぇか。なぁ、プロペラ。俺達なんか悪いことしてるか?
「んーん」
だよなぁ。なーんも悪い事なんかしてないよなぁ。
寧ろ、なんか良い事した気がするなー!あー、なにしたんだっけ!?プロペラ、お前覚えてる~?
「覚えてないなー、誰かの口から聞いたら思い出せるかも~」
おお!そりゃ名案だ!
早速聞きに行こうぜ。幸運にも、近くにプレイヤーがいっぱいいる事だしさ。
下卑た笑みを浮かべて俺とプロぺラは、廃人共が逃げ込んだ奥の部屋へと進んでいく。ついでにそこら中にある値が付きそうなものは全て奪い取る。密漁船に乗ったのに結局金が稼げなかったからな。少しでも、あの労力に意味があったって思わなきゃな。
廃人共が逃げ込んだ部屋の扉の前に立つ。
今度はプロペラが風魔法で扉をぶち抜いた。轟音が鳴り響き、木製の扉が木片を散らしながら、奥へと吹っ飛んでいく。
「よぉ」
「やー」
俺とプロペラはしっかりと挨拶をしながら、その部屋へと足を踏み入れた。
やっぱ、人間挨拶が大事だからな。
そう思うだろ?なぁ?
俺は暖炉の前で毅然と立ち尽くす、一人の廃人にそう問い掛けた。
「あれ?他の人たちは?」
プロペラは良くも悪くも純粋だ。
疑問に思ったことは口に出すし、人が気にしているような事もズバズバと言ってしまう。狐面と同じ、悪辣なまでの天然タイプだ。
仕方が無いので俺は疑問を垂れるプロペラを抑える。
まぁまぁ、プロペラ君。
こいつは確かここのギルマスだ。リーダーとしての矜持っつーのがあるんだろうよ。このギルドは生産特化のギルドだし……そうだろ?な?
「……悪魔が」
え?なんて言った?
俺は両手を耳の後ろに当てて、舌をぺろりと出しながらそう言った。
プロペラ君、今なんて言ったか聞こえたか?
英雄である俺達に、あいつ何を口走ったか聞こえた?俺は聞こえなかったなー!どうも最近、耳の調子が悪くてな~。
「え?だいじょぶ?運営に一応報告しとけば?」
ぷ、プロペラ君……。
俺はプロペラ君の優しさに触れて、一瞬何とも言えない感情になったがすぐに立て直して再び廃人へと語りかけた。
よぉ、一体全体どうしたってんだ?
なんでそんな険しい顔してんだよ。俺達がなにしたってんだ?…いや、俺達が何をしたか分かっているか?
正しく聞き直した俺を見て、廃人は更に渋い顔をする。
「ああ、分かっている。知っているとも。お前らは凄いさ、日向にいるだけの落伍者だ」
……そうか、そうか。
お前は、正しく理解できていないらしいな。俺達の功績を。為し得た量り切れないほどの可能性を。
プロペラが部屋の金品を漁っては亜空間に放り込んでいる。廃人はそれを見て、痛ましげに表情を歪ませるが、依然として暖炉の前からどこうとしない。
そこをどけよ。
英雄の通り道を邪魔するか?それは人を愚弄する行為だ。正しい選択をしろよ、なぁ。
「……正しい選択?ああ、するさ。するとも。貴様らをここで殺すという正道をな!」
次の瞬間、とんでもなく大きな地震が俺達を襲った。
な!!?
俺とプロペラと廃人は床に転倒し、ごろごろと転がった。
燭台が倒れ、蝋燭の火がカーペットへと移る。か、火事だ!お、おい!火事起こってる!!
少しの良心から、俺はすぐ近くに転がってきた廃人の肩を揺らしてそう言った。しかし、
「お前らが居ない間、とある裏技が発見された。いや、バグに近いか」
て、てめぇ…、何を言ってやがる…?
地震が少しずつ大きくなる。それに伴い、火の手が更に大きくなり、俺と廃人を包んだ。プロペラがいつの間にか消えている。あいつ…!逃げやがったな…!
しかし、裏切者の事など気にしている場合ではない。
俺は揺れる地面を這いずり、どうにかここから逃げようとする。しかし、そんな俺の足を廃人が掴む。
離せやッ!!
死にぞこないのクソ野郎がッッ!てめぇは他の連中と仲良く機織りしてろや!生産職同士、仲良く楽しくやってりゃいいだろーが!!!
火の海は、みるみると広まっていき、遂に唯一の出口だった扉前は業火に包まれてしまった。クソッ!クソッ!どうしてこんな事に!
「フレンドリストを開き、上から十二番目をタップし、戻って上から五十六番目にシステムコールを送る。その後、ヘルプから”スリップダメージの参照”を開いて、スクリーンショットを二十枚以上撮る…その後で…」
呪文のように廃人が言葉を並べていく。
お、お前……そりゃ何の暗号だ…なぞの場所への行き方にしては、あまりに悪趣味だ……。お、おい…、その呪文をやめろ……!
無性に不安に煽られて、俺は廃人の胸ぐらを掴む。
激しく辺りが揺れる。火が更に強く燃え盛り、遂に天井の一部が倒壊した。俺は咄嗟に空を見上げる。そこには……、
「……な、ナビ…だと…?」
世界を蹂躙する厄災、ナビの姿があった……。
どうなって、やがる……。
絶句し、地震の発生源がナビだと知る。
「バグだよ。少し間、ナビを召喚できる呪いの呪文だ。代わりに使った奴はスキルを全部消されて初めからだけどな」
その言葉には、震えが含まれていた。火炎が、遂に足元にまで及ぶ。
俺と廃人は少ない火の手が及んでいない場所で互いの顔を見た。
ど、どうして、そこまで……。
俺の言葉を聞いた廃人が、言った。
「英雄サマはちっぽけだなぁ。なんせ、――こいつに勝てないんだから」
目の前のこいつの言っている事はめちゃくちゃだ。
ナビは、今やシステムの一部と化した。世界を練り歩く蹂躙システム。その全容がこいつの存在だ。こいつに勝つ事は出来ない。歩くドッスンみたいな生き物だ。
恐らく、勝てるように設計されていないのだ。
俺と廃人は死ぬ。
周りは火の海、逃げようとすればスリップダメージで死に至る。逃げられない。プロペラの様に空を飛べない。俺は、俺達は……無力だ。
「一緒に死のう、ダスト。何もお前は一人じゃない」
廃人が優しく俺に手を差し伸べた。
揺れがまた一段と大きくなる。その振動で火の壁に突っ込みそうになる直前、奴が俺に手を伸ばし、俺は咄嗟に奴の手を取った。お陰で俺は火の海に突っ込まずに済んだ。
お、お前……。
俺はうるうると涙目で廃人を見つめた。
どうして助けてくれたのかは分からない。それでも、俺にだって感謝の心くらいはあった。
「例え、殺したいやつでも、救いようのない屑でも、死ぬときは辛くなくていいんだ」
釈迦かよ。
宗教染みた事を言う廃人を前に、俺はそう思った。
…これが終わったらこいつの努力の結晶であるスキルは無くなり、なにもかもが消え失せる。
本当にそういうバグならば、今こいつは命を賭してここにいるのだ。
そう考えると、俺は無性に泣きたくなった。
――…なぁ、将来何になりたかった?
突拍子も無く、意味のない会話。
例えそれに意味は無くとも、いつの日にかこの会話にだって意味が生まれる事はある。死後、評価されるアレだ。
ナビが砂埃を立てながら、足を上げた。
そして、火の粉飛び散るギルドハウス目掛けて、足が落ちてくる。
俺の問いに、廃人が静かに答える。
「……ウルトラマンだ」
そうか、俺はアンパンマンだ。
俺と廃人は落ちてくる足を見ながら、ぎゅっと手を握り合った。
俺達、もっと違う接し方をしてれば、友達になれたかな……。
俺の言葉を聞いて、廃人はフッと笑った。
「さぁな」
……そっか。
遠い遠い、どこか遠い場所で、どうか俺達くらい不幸になっている奴がいますように――。
迫る足、潰されていく体躯、それでも俺達の絡み合った手だけは決して離れる事は無かった。
……死んじゃったね。
霊体となった俺達は、互いに顔を見合って口パクでそう言い合った。
一緒に教会行こうよ。
そう言って、俺は手を差し伸べた。しかし、廃人がその手を取る事は無かった。
”俺の旅はここまでだ。”
廃人が口パクでそう言った。
その瞬間、空から黒ずんだ腕が何本も出てきて、廃人の四肢を体躯を頭を掴む。
そして、ゆっくりと黒い腕に掴まれた廃人の身体が空へと昇っていく。
俺は、それを止めようと霊体の廃人を追いかけた。しかし、突然現れた光の腕が俺を掴んで教会へと引っ張っていく。
ああ……っ!待って!待ってくれ!おいて、おいて行かないでくれ…!
手を伸ばし、連れ去られていく廃人を見る。
暗雲に飲み込まれていく最期、廃人の顔は確かに笑っていた……――。
さようなら、友達になる筈だった人……――。
涙はいらない。ただ、今はどうか安らかに眠ってほしい。
俺は、そう祈るばかりだった。
なにもかもの元凶がヒロインムーブをかます世界線へようこそ!




