記録.48『アンダーグラウンド』
「ああ?〔ムホウ〕だぁ?」
「はい。アップデート内容見ましたか?」
ぺろりんはログインしてきた俺にそう言った。
確かに視界の端にお知らせマークが表示されている。俺がそれを凝視すると、アップデート内容が視界一杯に映し出される。
アップデートの内容をお知らせします。(公開可能な情報のみ、詳細を表示)
・アイテムの追加・一部修正
・魔物の追加・一部修正
・職業の追加・一部修正
・職業の強制進化の際、周囲一帯に職業名が公開される仕様に変更
・〔Skill〕の追加・一部修正
・ボスの追加・一部修正
・街の追加
(〔ムホウ〕の街を追加。転移門より転移可能です。
〔ムホウ〕
ここは、闇と混沌が支配する暗がりの街。
この街で殺害行為などを行っても、牢屋行きにはならない。
なにせ、誰も彼もが悪者さ。ただし、だーれもなんも落としゃしないぜ。
何せ、ここは無法者の街だからな。
・ギルドシステムの追加・一部修正
(役職〔サブギルドマスター〕を追加
(各プレイヤーの権限の自由設定を追加
・ギルド戦の報酬の一部修正
・文明遺跡システムの修正
(文明遺跡発見確率の上昇
(文明遺跡アイテムの実装
(文明遺跡に入った際、その文明遺跡の特質説明を追加
・〔遺失の欠片〕の一部修正
・致命的なバグの修正
ははぁん。
……なんかアプデ多くね?
「かなり…そうですね…」
まぁ、いいか。
んで?〔ムホウ〕か。面白そうじゃねぇか。アイテムやら金は落とさねぇが、プレイヤーを殺し放題ってことだろ?
おいおい、燻ってたバトルジャンキー共はきっと全員そこに流れてってるだろうよ!面白そうだ。俺も行ってくるわ!
俺は、辛抱堪らないと転移門へと走り去る。
さんきゅーな!ぺろりん!お前がいなきゃアプデ気付かなかったぜ!
「あ、ダストさん…俺も……いっちゃった…」
◇■◇
ひゅー!ここが〔ムホウ〕!テンション上がるなぁ!
まだ現実時間は明るいってのに、〔ムホウ〕の街は真っ暗だ。アプデのとこに暗がりの街って書いてあったのはそう言う事か?
俺は所々が照らされる街灯を頼りに街を進む。
そこら中にプレイヤーがいる。しかし、おかしい……。
ルーキーしか、いやがらねぇ…?
見渡す限り、ルーキー、ルーキー、ルーキー、雑魚装備のゴミばかりだ。本格的なゴミがどこにもいない。なんだ?奴らはこの街に興味がねぇってことか。
いや、んな訳がねぇ。
本格的なゴミ、廃人共は己の強さを誇示することでしか、自分を満たせないエゴイストの集まりだ。そんな連中が、カモばかりのここをみすみす放置するとは思えない。
……とするならば、これは―――ッ!
俺が奴らの企みに勘付いた瞬間、辺りをちまちまと照らしていた街灯が突然割れる。暗闇が周囲を包む。突然の出来事にルーキー共がざわざわと騒ぎ立てる。くそッ!やっぱこうなるか!!
ここは運営が好意で解放したわけじゃねぇ!これは、これは…!
「ルーキーのみなさぁん!僕たちぃ…弱い者いじめが大好きなんですぅ!!!」
箱庭の鬼ごっこだ…!
お、鬼に捕まるな!食肉として出荷されるぞ!
殺戮と狂気のネバーランド、開園…!
◇■◇
「おらぁ!ごみ溜めぇッ!!遊ぼうぜぇ!!?」
うるせぇや!バトルジャンキーが!
てめぇらルーキー殺してなんも思わねぇのか!屑共が!俺は絶対にそっちにゃいかねぇからな!
「ルーキー殺しの第一人者がなーに抜かしてんだ」
俺は廃人の背後に血液を出現させる。
そして、その血液を巨大な針の形に成形し、思い切りぶっ刺そうとする。
「視線の切り方が甘ちゃんだ」
しかし、俺の血液は後ろを振り向く事すらさせずに剣で幾つにもぶった切られた。
くそ…!これだから廃人は嫌なんだ!すーぐ魅せプしやがる!その魅せプ癖ヤメロや!うぜーんだよ。魅せプの後のドヤ顔見るとどうしようもなく殺したい衝動に駆られるんだよ!
俺はすぐさまルーキーから日々搾り取っておいた血液パックを吸う。このゲームの甘いところだ。プレイヤー皆、おんなじ血。血液型のクソもない。
俺の血液はそこら中に落ちてるんだよぉ!
再び、血液タンクが溜まる。俺は血液腕を成形する。
結局この形が一番しっくりくる。俺はトリガーをセットし、廃人に向けて思い切り血液腕を飛ばした。廃人は何かに勘付いたのか、その血液腕を傷つけることなく大きく跳躍し、回避した。
クソがッ!悪運だけはつええな、てめぇは!
俺の捨て台詞と共に、廃人を通り過ぎた血液腕は爆散する。
仕掛けたトリガーは傷がついた時。
発動効果は爆発。
まだほとんど見せたことが無かったのに…!
情報露呈が早いこったなぁ!おいよぉ!
隠れてるてめぇもだぞ!
俺は、先程から建物の影で俺と廃人の戦闘を観察するもう一人の廃人に声を掛ける。
「バレちゃったぁ」
そう言って、物陰から出てきたプレイヤーを見て、俺は目をかっぴらく。俺はこいつを、この女を知っている。
て、てめぇ…エビふりゃーのギルドの奴じゃねぇか。
そいつは、俺とドクターがエビふりゃーの剣を盗んだ時に、俺達を捕縛した忌々しい女だった。
なんだお前、終着駅までこの乱戦に参加してんのかよ。おいおい、天下のトップギルド様も落ちたなぁ!
俺の言葉に、女は少しムッとする。
「お前じゃないですぅ、フローですぅ」
ああ、そうかい。興味ねぇよ。てめぇの名前はよぉ。
まぁいい、んじゃフローちゃん?どっかいけや。今俺はこいつと戦ってんだわ。なぁ……、
俺は先程まで戦っていた廃人に目を向ける。
そこにはもう誰もいなかった。そして、
「去ね、雑魚が」
その言葉と共に、俺の首筋に銀の刃が迫る。
……甘いのはどっちだ、雑魚が。
俺の首筋に赤い線がついた途端、廃人は真っ赤な無数の剣で串刺しになる。
「ぐ、……げッ、あッ!!?」
なぁ、流石に舐めすぎだぜ?
たった一個の戦略だけを練っていると思うか?
そこら中に、既にトリガーをセットした血液罠ばっかだぜ。俺のところまで一個も罠を踏まずに来たのは称賛に値するが、最後の最期で甘えたな。
「ぐ、ぞ……が…」
そう言って、廃人は死んだ。
フローがぱちぱちと拍手をする。さぁ、死にたくなかったらどっか行きな。
俺は余裕のある声でそう言った。
「いやぁ、ゴミちゃんもう限界だよねぇ?」
え…。
フローが、にやにやと笑いながら、そう言う。
「罠を置いたってのも嘘ぉ。本当は自分にセットしたトリガーの一個だけぇ…でしょぉ?」
こ、この女……!
全部わかってやがる…!
ハイリスクとハイリターンの天秤。
トリガーセットはそう言うもんだ。そう何個も同時に発動できるほど、リスクは小さくない。廃人を殺すには、レベル差を埋めるには、俺は自分の身すらチップとしてオールインする必要があった。
や、やばい…!殺される…!
俺は、咄嗟にナイフを取り、フローの腹を狙った。腸狩りとは俺の事だ!
しかし、ナイフは易々と止められて、俺は返しの攻撃で死んだ。
無茶言えよ…廃人二連発は無理があるだろうよ。レベル差を考えろや。俺はぐちぐちと文句を言う。
その姿が見えている筈もないのに、フローは俺の霊体がいる場所を見て、にこりと笑った…。食えねぇ奴だ…。
◇■◇
ああ?
ギルド戦の練習ぅ?
「うん、ギルド戦は乱戦になる事が多いのぉ。だから、ここで修行中てわけぇ」
はぁ~、なるほどな。
俺は、死んで直ぐ〔ムホウ〕に舞い戻り、フローと合流した。
襲ってくる大半の連中はフローが片付ける。こいつつっよ。
しばらく歩くと、エビふりゃー達が集まっているのが見えた。そこには、抹茶やら、珍しく”良心”のドラ子やぺろりんとかもいた。
おいおい、てめぇら珍しいな。
どんなメンツだ?廃人にルーキーの頭に良心とか…いいラインナップしてんじゃねぇか。
俺は手をぶんぶんと振りながら、奴らが集まっている場所に突進した。
しかし、途中で足を掛けられて俺は地面に顔を激突させる。ざりざりと顔が削れる。
ああ?おんどりゃ、なにすんねん。殺すぞ!!!あ!?
そう言って、立ち上がり、俺の足を掛けたプレイヤーを見る。そこには侍がいた……。
ああ?
なんだよ、なんか既視感あるじゃねぇか。てめぇ、どっかで俺の足を掛けた事あるな?常習犯か?いけねぇなぁ。そう言う事はしていい奴はしちゃいけない奴がいるんだよ。
―――んでもって、俺はしちゃいけない奴だぜ!
そう言って、俺はナイフを持って突撃した。侍は、流れるように刀を振るい、俺の腹を撫でる様に斬りつけた。
馬鹿が!
腹には凝固血液を仕込んである!刀なんて脆いもん効か、ね……がッ!
俺の口から血が零れる。
あ?
どうなって…やが、る…
俺は何も成すこと出来ず、もう一度地面へと倒れた。
霊体となった俺。
血だらけの俺を抹茶が建物の裏へと運んでいく。そして、すぐに蘇生魔法を掛けてくれた。
まっちゃ……。
俺は感動のあまり、奴に抱き着こうとした。
「や、やめ、やめてくださ…やめろ!」
しばらくして、俺の抹茶は廃人共の元に戻った。
俺は侍の肩に腕を置く。
お前、強えな。
ああ、強いよ。認めるぜ。お前は強者だ。おめでとう。
「なんで上から目線なんだよ、掃き溜め」
ドラ子が俺にそう言った。
うるせぇやい。侍も悪くないって顔してんだろ。俺達は互いに認め合った仲なんだよ。文句あるか?あ?
「いや、あからさまにウザい奴に捕まったって顔してるけど」
んな訳ねぇだろ。
お前適当抜かすなよ。あんま舐めてっと、こいつが痛い目合わせるぞ。なぁ、侍。
侍は俺の顔を見ると、肩に乗っけていた俺の腕を弾いて、どこかへ行ってしまった……。おい、ドラ子、お前のせいでどっか行っちまったぞ。照れちまったじゃねぇか。可哀想に。あとで謝っとけよ。
「うわ…」
ドラ子が引いたような声を漏らす。
すると、パンと辺りを沈めさせる拍手が聞こえた。
俺達は一様にしーんと静まり返る。
その中で、一人の男が皆の前に出て、言葉を放った。
「アプデがされて早十時間…」
その男とは、エビふりゃーだ。
新しい魔物の素材を使ったのか、随分とカッコイイ装備になってやがる。羨ましいねぇ。
「〔ムホウ〕は良い街だ。だが、必要以上にルーキーを狩る輩もいる」
隣にいるフローが俺の腹をちょんちょんとつつく、意味のないちょっかいを掛けてくる。
俺は、奴のちょっかいを掛ける指を咄嗟に掴む。
ふん、もう離さないぜ。共に地獄まで落ちようじゃねぇか。例え、お前自身が落ちずとも、お前の手だけは道連れにするからな…。
俺は掴んだ指から、少しずつ這い上がるようにして手の平を掴む。
「えっち…!えっち…!!」
なにがえっちだ、てめぇ!
舐めた事言ってんじゃねぇぞ!えっち芸だけがお前のネタか?ああ!?
「解放されて十時間、未だにルーキーが死ぬペースは落ちていない。俺達以外に、狩り続けている奴がいる」
あ!おい、お前ふざけんな!
俺の手ぇ、掴むな!色が、色が一瞬で青紫に!ぐ、グロい!これが、レベル差か!フロー、てめぇ…最初に始めたのはお前だろうが…!
「えっちにしたそっちが悪いぃ…!」
こ、こいつぅ…!!!
「そいつを見つけろ。これ以上、ルーキーが引退したら、このゲームは終わりだ」
てめ!
手を離せ!離せって!は、離して下さい…。お願いします…、い、いろが、色がもうやばいって!な、何が欲しい?桃太郎電鉄か?セフィロスか?アトリエか?……いっこ、一個なら何でも買ってやるって…!
ふ、フローちゃん!
お願い!一生のお願い!お手々はなして…!ぐーじゃなくて、パーの形…!出来るよね…フローちゃん…!頼むってぇぇええええ!
校長先生の話レベルで聞く気がないですね。




