記録.49『真っ暗闇の中で』
ルーキー共が居なくなっても別に良くね?
俺はエビふりゃーへとそう言った。
ルーキーが居なくなったとこで困る事なんてないだろ。それにこのゲームは新進気鋭のVRMMO様だぜ?そう簡単に廃れるかよ。これから先、何人ものルーキーが入ってくる。そんな目先の数気にしなくても、平気だろ。
俺の言葉を聞いたエビふりゃーは、班を分けながら俺の方を向く。
「平気じゃない。中間層がいなきゃ、入ってきた新参たちはどうすればいいか迷い、目標を失う。俺達は目標にはなれないからな」
エビふりゃーはそう言って、プレイヤー共を次々に班に配属させていく。
エビふりゃーはギルドの頭を張っているだけあって、PT振り分けが上手い。ほとんどのPTは、
アタッカー1or2
ロングアタッカー0or1
タンク1
ヒーラー1
この配分で別れた。
「ねぇ、エビふりゃー。なんで俺だけぼっち?ねぇ、おい。度し難い。度し難いぞ」
しかし、その配分の中で何故か俺だけが独りぼっちだった。
胸ぐらを掴み、問い質す俺をエビふりゃーは冷たい目で見る。くそが…、何が狙いなんだ、てめぇは…
俺の問いにエビふりゃーは答えない。
「散開だ!各自犯人らしき人物を見つけたら報告を忘れるな!」
その言葉と共に、プレイヤー達は一斉に街中へと散っていった。
その場に残ったのは、エビふりゃー班の決戦兵器、ぺろりん、名も知らぬプレイヤーのみ。
仕方ない。
俺はナイフと血液腕を形成し、街の中へと進もうとした。しかし、エビふりゃーが俺の肩を突然掴む。
ああ?お前何なんだ?
なんも言ってくれねぇと思ったら、俺の進路を阻む気か。ふざけるのも大概にしろ。別に俺はこの作戦に協力しなくたっていいんだ。今すぐログアウトして、海外勢のほのぼのゲーミングを見たって、セフィロスの練習をしたっていいんだぞ。
そう言って、エビふりゃーが掴んだ手を強引に引き剥がす。
その時、エビふりゃーではなく、後ろにいた決戦兵器が口を開いた。
「…しっかりしろよ」
……もう行くぞ。
精々そっちも頑張れよ。俺ぁ、さっさと楽してーんだ。家帰って、皆でのんびり餅食ってコタツでごろ寝してぇんだよ。
再び歩き始めた俺を、もうエビふりゃーは止めなかった……
◇■◇
「ちっ……」
俺は無意識に舌打ちを零す。
雑魚が多い…。
廃人共が跋扈し始めたお陰で、下手な廃人プレイヤーはこの街にいるだけ無駄だと気付き、近づかなくなった。しかし、その代わりに増えたのはやられっぱなしでは終われないという狩られ続けたルーキーの復讐だった。
やられた相手でなくても良い、という自暴自棄な復讐運動がルーキー共全員に伝播し、俺達の作戦行動を邪魔する。
倒しても、倒しても再び蘇り、襲ってくるルーキーはうざいったらありゃしねぇ。特に俺は独りぼっちだ。三人PTならまだしも、一人となったら無数に襲い来るルーキーを撃退するにも限界がある。
「オラぁ!オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」
俺はとりあえず血液腕を使って、疑似オラオララッシュをしてそのままルーキー共にリンチにされた。ずるくなーい?
リスポーンした俺は、直ぐにまた索敵を始める。
そして気付く…
久しく見ていなかったとあるプレイヤーの姿がある事に……。
「ララ…?」
とてとてと路地裏に入っていく小さな体躯。
俺は彼女を追って、そのまま路地裏へと入っていった。
ララとは随分会っていない。
フレンドリストを見れば、オンライン状態になっていることは多い為、ログインはしているのだろうが、街で会うことは少ないのだ。最後に会ったのは、コラボイベントがあった時以来だ。あの時くらいに降雪イベントが同時に来て、防寒着を自慢された。
そこから、一切見ていない。
思えば、あの時もおかしかった。何かをずっと我慢しているような、そんな表情が見え隠れしていた。あの時は、てっきり尿意か何かだと決めつけていたが、もしかしたら……
ララの後を追う。
狭く、他よりも更に一層暗い路地裏。
そこを進んでいくと、幾つかの死体を発見する。こ、これは…
その死体は、まだ温かかった。
そして、死体は全て同じ殺し方をされている。胴が真っ二つにされているのだ。俺は、ここまで綺麗に体を真っ二つにするプレイヤーを一人だけ知っている。
一体、どうしたってんだ…?ララ…
金の髪を揺らす幼女を空目する。
そして、俺は彼女が走っていったと思われる方向に再び足を踏み出した。
◇■◇
ララを追跡するのは、簡単だった。
何せ、追ってくださいと言わんばかりに一刀両断された死体がごろごろと転がっている。追えない方がおかしい話だ。
一体どうなってやがるんだ。
俺は、混乱しながらもエビふりゃーへとメッセージを送る。
〔ルート:今回の犯人、ララの可能性がある〕
道を誤ってしまったのならば、正すべきだ。
メッセージを送信すると、エビふりゃーから返信がすぐに来る。内容は、
〔エビふりゃー:場所は〕
〔ルート:現在転移門付近から、街の中心へと移動。このままいけば最中心部へと到達〕
そこから、エビふりゃーの返信は無くなった。
理解したなら返事しろ、と何度もメッセージを送っても反応がない。他の連中も同様だ。決戦兵器、抹茶、フロー、誰も彼もが反応しやがらねぇ。
くそ…圧倒的に戦力不足だぞ。
ララと一騎打ちしろってか?俺が?無茶言えよ…。相手はバトルジャンキー幼女様だぞ。下手に戦えばエビふりゃーだって負ける可能性がある相手だ。いや、遺跡で成長したエビふりゃーなら勝率が変わっている可能性もあるが…。
死体を追って、走っていると遠くにララの姿を捉える。
やっと追い付いたか。
まぁ、あっちは殺しながらで、こっちは走り続けている。追い付くのは必然だ。
そして、ララの足が止まる。
そこは路地裏の奥にある空き地のような場所だった。チカチカと電灯が光っては消えてを繰り返す。ララの身体を夥しい量の血が垂れていく。
俺は耐えられなくなって、飛び出した。
風邪!風邪ひいちゃうでしょ!?
そう言って、俺はハンカチを持ってララに近付いていく。
突然現れた俺を見て、ララは驚いたように飛び上る。
もう、それがおかしかった。
ララは一級廃人だ。
β時代は前線を張り、かつ鍛冶師の腕も一級品という化け物スペックを保有した。それは、製品版でも変わっていなかった筈だ。なのに、だというのにこの体たらく。
俺は別にララに何かを求めている訳ではない。
戦闘力なんて別にいらないし、鍛冶をして笑ってくれているならそれでいい。しかし、ララはバトルジャンキーだ。鍛冶を始めたきっかけだって、自分で自分の武器を作れば理想のものが作れるっていう理由からだと俺は知っている。
そんな子が、俺の…俺程度の接近に気付けない程にその身に何かが起こっている。
くそが!エビふりゃー共は何してやがる!?なんで一切返信が来ねぇんだ!
俺はぼーっと見つめてくるララの顔を拭く。ほら、目瞑って。お顔も随分汚れてるからね。
ララは俺を見て、嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、俺の心は浄化される。暫く会えていなかったことも相まって、より幸せに感じる。
なぁ、ララ。お前さ、なんかあったのか?
俺の口から言葉が洩れる。
ずっと聞きたかったこと。でも、聞けなかったこと。
俺に出来る事があったら、話してくれないか?
俺はお前の事大事に思ってるよ。だからさ、もしも困った事があるんなら頼ってくれよ。
「るー、と……」
そう言ったララの瞳は潤み……―――、
「おらァ!ごみ溜めがァァ!!死ねやああああ!!!」
その瞬間、背後に鋭い刃を握ったプレイヤー達が俺を殺そうと迫る。幾つもの声が聞こえる。そのせいで正確な数が掴めない…!
くそ、間に合わない…!せめてララだけでも…!
突然の奇襲、数的不利、音による情報の遮断。全てが噛み合い、殺意の射線がこちらへと向く。
咄嗟に血液を凝縮し、爆発を起こそうとし……―――。
「ぐ、ぎゃ」
「ぶッ」
「ぶべッ!?」
幾人かの悲鳴にも似た断末魔が聞こえた。
何が起こった、と俺は目の前のララを見ると、そこには誰もいなかった。そして、周囲を見ると奇襲を仕掛けてきたプレイヤーの一人がララに殺されようとしていた。
「ひ、ひぃ…!た、たす――」
―――。
血が再びララの顔に掛かる。
あまりに常軌を逸した身体能力。一体、どれ程の代償を払えばそこまでの力が手に入る?
俺は血の雨を浴びるララを見て、酷く泣きそうな気分になった。
ララは文字通り泣いていた。血だらけの顔に、一筋の涙が零れる。その涙は頬伝って、真っ赤な水となり、地面へと斑点を作るのだった…。
◇■◇
ぽつり、ぽつりとララは俺になぜこんな事になったかを話し始めた。
事の発端は職業システムが解禁された頃。鍛冶師の職業についたララは、すぐに強制進化を果たしたらしい。
進化した先は〈禁忌に触れる者〉。
ユニークスキルは無く、説明欄にはこう記載されていた。
〈禁忌に触れる者〉
全ての能力に+補正。
殺人衝動に駆られるようになる。頻繁に殺人を犯す必要がある。
貴方は禁忌に触れた。大切を叫ぶ化け物め。愛憎に雁字搦めにされてしまえ。
進化して一か月ほどは平気だったらしい。
しかし、一か月と少しが経った頃、突然殺人衝動に駆られ始める。
必死に耐えたが、遂に限界を迎え、少しずつルーキー狩りの要領で殺人を始めたらしい。そこから、俺などと会うのを避け始めたそうだ。下手に会って、殺したくなってしまったらいけないから。
更に少しずつ殺人衝動が増してきたある日、アンダーグラウンドシティの〔ムホウ〕が解放される。ララは願ったり叶ったりとそれに飛びつき、衝動を鎮めるために何人と人を殺した。
俺の前でララが泣きながら話す。
俺は泣く彼女の頭を撫でて、抱きしめた。
恐らく、終着駅の奴らはこの事実に気付いていた。
だから、俺を一人で行かせた。
だから、誰も返信しないで成り行きに任せた。
くそが、全部丸投げじゃねぇか。
俺にどうしろってんだよ。出来る事っつたら、慰める事くらいだぞ…。
……俺は鼻歌を口遊む。
チカチカと電灯が点いては消える。血だまりの中で、俺は鼻歌を続けた。ララは泣きじゃくる。今までの分を清算するように、涙を流すことをやめなかった。
あー、厄介事ばかり増えていく。
俺は熱くなっていく胸の感覚に、身を委ねて言った。
「殺したかったら、俺を殺せよ」
夜が更ける。
深淵が呼んでいる。幼女と塵の業は深まる。
もう戻れない、そう言う様に電灯の光が完全に途絶えた。




