記録.46『加速するゴミ』
〔やぁ、加速因子〕
あ…?
俺がゲームにログインすると、そこは真っ白な空間だった。
そして、その空間の中に一人の男が立っている。
誰だ、てめぇ。
んだよこの空間。バグか?困るぜ、ただでさえ酷いゲームなんだ。このゲームの評価すべき点は、要らない所までの細かな再現とバグの少なさだぜ?
俺は目の前の男にそう言った。
しかし、男は俺の言葉を意に介していないかのように再び言葉を紡ぐ。
〔君は加速因子としての仕事を随分とするじゃないか。もう何人の特殊職業を覚醒させた?〕
……てめぇ…運営か?
俺の目付きは剣呑なものになる。
当たり前だ。もしもこいつが運営ならば、プレイヤー全員の共通の敵だ。一体どれだけ俺達はこいつらに振り回されたと思っていやがる。
Twitterで褒めりゃサーバーに乗り込むし、イベントを開催したかと思えばただの罠だ。課金アイテムの単価は高けぇし、廃人共をこぞって争わせようとランキングシステムなんてものまで実装する始末だ。
それになんだ?
加速因子???
随分と大層な呼び方してくれるじゃねぇか。嬉しいねぇ。一プレイヤーの俺に何か役割が与えられているとでも?とんだクソゲーじゃねぇか。一人のプレイヤーに固執すんのは運営としちゃ終わってるぜ。
〔よく喋るものだ。いやね、君に興味があったからこうして特別に話す機会を設けさせてもらったんだよ。〕
ああ、そうかよ。
運営ってことは否定しないんだな。確定かよ。クソが。見損なったぜ、幾万ともいるプレイヤーの中で俺に固執するか?普通。
確かに嬉しいさ。特別扱いされた気がして悪くねぇ。だがな、それは俺としての感想であって、このゲームのプレイヤーとしては死ぬほど嫌いだぜ、運営共。
〔話を戻そう〕
男はそう言うと指を立てて、その指先に光を灯し、それをふっと吹いた。吹かれた光は空気に溶け込み、霧散する。
え……?何したかったの今。
しかし、そんな俺の疑問に答える事はせず、俺の方を向いて言うのだった。
〔βテストのプレイヤーに十人、製品参入プレイヤーに千人…加速因子と呼ばれるゲームを加速させるプレイヤーがいる。勿論、本人たちは今の今まで知らないがね。彼らの行動は、ゲームに大きく影響を及ぼし、ワールドクエストの誘発、ストーリーの進行を促す〕
その一人が…俺って言いたいのか?
俺の問いに、男は静かに笑った。無言は肯定……。
βプレイヤーに十人っつーことは、俺の他にもあと九人はいる訳か。なぁ誰だ?教えろよ。どうせエビふりゃーとかは入ってるんだろ?ララも入ってそうだな。奴らは戦闘面と生産面のトップだ。
しかし、俺の言葉を無視して男は四つのテキストフレーバーを俺に提示した。
こ、これは……
〔それは、君が加速させた四つの結果だ。見る権利くらいあるだろう?近いアップデート、強制進化した時、近くにいるプレイヤーには強制進化した職業名が公開されるようになる。その方がプレイヤーの対抗心も煽りやすいからね〕
男が言葉を羅列させている。
しかし、俺の耳にその言葉は上手く入ってこなかった。それほどまでに目の前のテキストフレーバーを凝視する。
【職業名】〈断罪者〉
〔Unique・Skill〕《猟るる糸》
それは、貴方がいつか夢想した力の欠片。
弱き者が持ったとされる非力なまでの弱者の力。
弱者よ、弱者。貴方は英雄足り得るか?
相手の隙に繋がる糸を朧気に認識する。
【条件】
・親しい者との本気の殺し合い
・負けられない矜持
【職業名】〈翔ける者〉
〔Unique・Skill〕《天翔け》
それは、貴方が夢見た幻想の力の欠片。
弱者はいつまでも、夢を見る。
翼が焼け落ち、それでもあなたは空を見上げる。
一時的な浮遊権利を得る。強力な《風魔法》を得る。
【条件】
・何かへの思いがより一層強まった時
・プレイヤー平均数値よりも祈願深度が深い
【職業名】〈篝火を灯す者〉
〔Unique・Skill〕《夜明けの帳》
それは、貴方が夢見た命の力の欠片。
弱者はいつまでも弱者のままだ。
それでも、大切な人一人くらいは救ってもいいだろう。
蘇生魔法を行使し、退魔の力を得る。
【条件】
・大切な者の死に直面した際、己を犠牲にしてでも救おうとする
・救恤の心
【職業名】〈鐘を鳴らす者〉
〔Unique・Skill〕なし
【条件】
・踏み出す一歩
・焦がれ抱く情景
〔君の仮説はあっている。職業は称号だ。それに付随するユニークは手段だ。そして、このゲームへの願いじゃないのならば、手段は必要ないだろう?〕
てめぇ……
俺は呆然と男を見つめる。
この男は、このゲームは一体どこまで俺達を知っている…?言ったどれ程の情報をデータ化している?
疑問は尽きない。不満は尽きない。それでもなお、男は不敵に笑みを浮かべる。
〔さぁ、時間だ。頑張っておくれ、加速因子。ゲームを目一杯加速させてくれ〕
◇■◇
げへへへへへへ!!!
俺は運営にも認められた男だぜぇえええええ!!
俺は叫び散らかしながら、エビふりゃーがいるギルドハウスに突っ込んだ。
運営に認められたんだ…!なにしたって許されるに決まってるぅぅううう!!!そこら中の金品を亜空間に突っ込み、俺を成敗しに来た廃人に変顔を決める。
よぉ!
一般ピーポー!元気か?元気に働き蟻してっか!?あ!?
ずかずかと廃人共の傍まで練り歩き、俺はバシバシと背中をぶっ叩いた。んだよ、そんな剣持ってよぉ。ああ、そっか!ギルメンだったら、ギルド内の武力行使は問題ないんだっけ?
俺のあっけらかんとした調子に廃人は訳が分からないと言った表情を浮かべた。
「だ、大丈夫か…?ごみ溜め…とうとう頭がイッたか?」
ははは!
問題ないぜ!一般ピーポーの君に心配される筋合いはないからね!Dクラス職員のお前は日々を目一杯生きてくれや!
そうして、俺は背中を剣でぶっ刺された。
しょうがねぇ奴だ。俺への妬みか?全く、世界を救うのは俺以外いないわけか。
朦朧とする意識の中で、俺を殺した廃人が呟いた……
「一体どうしたってんだよ…ごみ溜めも、エビ太郎も…」
……ああ?
調子の乗り方がうざいタイプ。
◇■◇
エビふりゃーの様子もおかしいのか…?
俺は最後に聞いた廃人の呟きが頭に引っかかっていた。
もしかしたら、運営は俺以外の加速因子共にも接触しているのか…?それならば、エビふりゃーの様子がおかしい事も説明がつく。
……確かめてみるか。
俺はリスポ地点から立ち上がり、再び終着駅のギルドハウスに向けて歩みを進めた。
今度はバレない様に行った方がいい。
俺は《隠密》を発動させて、少しずつエビふりゃーがいるギルドハウスの奥へ進む。なんでも、新人教育に最近力を入れてるらしく、エビふりゃーは熱心に教育を施しているらしい。けっ、ルーキー共に教え込んだ所で何になるってんだ。
俺は唾を吐き散らしながら、エビふりゃーがいると思われる部屋の前に辿り着く。
部屋の中からガサゴソと物音と話声が聞こえる。アイツ何してやがるんだ…?
俺は、バレない様に扉に耳を当てて感知系のスキルをフル稼働させる。すると―――、
「俺は、選ばれし者…か」
………んふ。
「世界が俺を求めている……」
ふ、ふふふ……
「俺がこの世界を加速させる……!」
ぎゃはははははは!!!!
こ、こいつ…!こいつも加速因子の一人だ…っ!ひーっ、ひーっ!変な使命感に目覚めてやがる!
お、面白過ぎる!
こいつの本質は中二病だったのか!な、なんて特ダネをゲットしちまったんだ、俺は!さっさと情報屋に売り捌いてやらねぇと…っ!!?
俺が笑いを必死にこらえていると、突然耳を当てていた扉がバタンと開かれる。俺は吹っ飛び、向かいの壁にぶち当たって床に転がる。痛いぃぃぃ…ぴえん…。
「よぉ、加速因子」
扉を勢いよく開けたエビふりゃーが、俺の前に立っていた。その佇まいは、酷く自信に満ち溢れている…。
ああ!?
てめぇ、ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!謝れや!たんこぶ出来ただろうが!痛いやろがい!もし、これが原因で禿げたらどうしてくれるザマス!?
俺は、舌を必死に回した。
悟られぬように。俺も加速因子という事に。こいつにバレるのが、恐らく一番駄目だ。こいつはゲームを愛する。誰よりも、ゲームの加速を望むはずだ。
しかし、俺の思考なんて気にもしないというように、エビふりゃーは俺のたんこぶが出来た頭を掴み、言うのだった。
「他の加速因子、見つけ行こうぜっ!!」
おっまえ…さいっこうにハイな提案するじゃねぇか…。
俺は一も二もなく、奴の言葉に乗っかった。面白そうなことは、何をしても乗っからなきゃな!
手のひらドリルマン。
◇■◇
「らんっららんっららーん!!!」
「あるぅひぃ――――!もりのなかぁぁぁぁあああ!!!」
俺とエビふりゃーは肩を組み、スキップしながら加速因子候補の連中の元へと向かった。
狐面、プロペラ、おはぎ、抹茶、ピュヒュイ君…。
やはり、殆どの連中は浮かれる俺達を奇妙なものを見る目でしか見ない。しかし、同じ加速因子になら分かるはずだ…!この気持ちが、この高揚感が…!
そして、遂に一人の仲間を発見する。
俺とエビふりゃーが肩を組んで、スキップをしているその周りを突然蒸気を噴出しながら、うろちょろする男が現れた。
その男の名は決戦兵器…!
ふん!加速因子の名に恥じぬ格好をした男だ。
仕方ねぇ。
俺が誘ってやるとするか!この、栄光の加速軍団に、な!
俺はスキップをやめようとするが、エビふりゃーの力が強すぎて、中々止まらない。こ、このっ!
俺がスキップをやめるのに苦戦していると、突然エビふりゃーがスキップをやめた。そして、うろちょろする決戦兵器に手を差し伸べる。
「行こうぜ、俺達は加速する―――!」
「う、うんっ………!」
突然スキップをやめやがったせいで、俺は地面に顔から突っ込み、鼻が削れた。しかし、そんな事いざ知らず、決戦兵器は嬉しそうに俺達の輪に加わったのだった……。
俺とエビふりゃーと決戦兵器は肩を組み、スキップをし、歌を歌う。
そして、〔シンリン〕の街に着いた時、事件は起こった……!
「何してんの…」
ら、ラミミ…!
俺は縦セーターを着たもこもこ幼女のラミミと邂逅する…!
も、もしかしたら…!もしかしたら、こいつはこっち側かもしれない!エビふりゃーを殺そうとした幼女だ!加速因子の可能性は十分にある…!
俺は少しの希望と、そうであってくれないかと願う身勝手な我儘を胸に秘めて、ラミミへと問いかけた。
「ら、ラミミ…お、俺と加速しないか…?」
ドクン―――。
俺の心臓が大きく高鳴る。
ゴクリ―――。
エビふりゃーの喉が鳴る。
シュー…―――。
決戦兵器の蒸気機関が排気をする。
「…何の話?シャドバ?」
しかし、現実は残酷だ。
泣きそうになる俺を、エビふりゃーと決戦兵器が必死に慰める。
あ、ああ…そうだな、AF使いか…お前は。
俺は必死に自分を取り繕った。
しかし、そんな姿がより滑稽に見えてしまったのか、一層エビふりゃー達の励ましが強くなってしまう。
な、なんだよ、別にそこまで悲しがってねぇよ。ヤメロって、お前ら。
エビふりゃーと決戦兵器は、俺の頭と背中を撫でて「帰ろう」と諭す。い、いや、本当にそんなんじゃ…。
しかし、その言葉とは裏腹に俺の足はもうラミミがいる方向を向いていなかった。そしてゆっくりと、ラミミから離れていく。
歩き始めた俺の背中をさするエビふりゃーと決戦兵器が、悍ましいくらいの目付きでラミミを睨んだ。
「……えぇ?」
告白に失敗した女子とその取り巻きか何かですか?
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