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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.45『エゴイスト』

 

「みぎぃ~!魔物来てる!」

「背後で雪崩が起きました!」

「前方に落とし穴!」

「乱闘騒ぎのとばっちりがきます!」


 ………。

 なにこれ。ねぇ、なにこれ。

 何十回目かの霊体になった俺は口パクで杏へとそう言った。勿論、聞こえてなどいない。それでも、俺のこの気持ちはどうすればいい?


 矢で頭を貫かれ、

 雪崩により窒息し、

 操作ミスによる仲間内での誤爆、

 誰かが仕掛けたトラバサミに頭からぐしゃり、

 しまいにゃ心臓発作。



 なぁ、なんだよこれ。おい、どういうことだ?

 なんで俺だけが死に続ける?なんでピュヒュイ君と狐面はいつもいつも死なずに軽傷なんだ?ねぇ、おかしいって、これ。本当は操作できてるでしょ。出来てるよね、おい、なぁ、コラ。


 怒りはその場に置き去りにされる。

 魂だけが、再び街へと帰還する。一体何度、俺は奴らが居る場所へと赴かなくてはならない?


 ◇■◇


「別の方法考えろや」


 俺の口から怒気を孕んだ言葉が飛び出す。


「怒ってる~」


 狐面の茶化すような言動。

 ああ、そうだ。怒っているよ。怒っていますとも。

 ねぇ、やってくれたねぇ。スキルレベルが少し下がったよ。そりゃそうだよ。短時間に何十回も死んだからねぇ!!!


 おい、杏ころもち。

 てめぇ、わざとじゃねぇよな?不幸の分配比率を変えられるとかいう隠しスキルもってないよな?お前のこと俺は信じて良いの?ねぇ、お母さん分からないよ。成長痛の痛みぐらい分からない。


「…そんな事…できない…」


 ああ、そうかよ。

 どうだかな。俺はてめぇを信じちゃいねぇぞ。何もかもを放り投げて、諸手を挙げて信じてあげられるほど、俺は優しかねぇ。


「信じてあげなよぉ~」


 狐面が悲しそうな顔でそう言った。

 その傍でピュヒュイ君も酷く寂しそうな顔をしている。


 ……まぁ、そんなスキルないよね。うん。

 ごめんね、キツイ事言って。怖かった?冗談冗談!驚いた?………ごめんて…。








 〔ドクター:残念ながら力にはなれなそうですが、強制進化のレア職業ならば、必ずその先にまた進化職業がある筈です。それを目指してみては?〕


 俺は、とりあえず口が堅いドクターに相談をした。

 対価はエビふりゃー達と共に潜った文明遺跡の情報。安くはねぇが、仕方ない。背に腹は代えられないからな。


 強制進化のレア職業。

 その更に先にある進化職業を目指す。それは、恐らく至難の業だ。普通にしていても強制進化は起きないだろう。

 だからこそ、俺が知っている範囲のレア職業持ちは全員廃人だった。奴らの頭のネジは外れているし、何よりプレイ時間の多さ故に強制進化条件を達成する試行回数が多い。


 当たり前だ。

 なのに、この女。杏はその強制進化条件を達成し、レア職業へと至った。杏から聞いた限り、変な事は一切していない。


 俺の〈教唆者(アジテーター)〉は、他者を負の方向へと扇動する意味を持つ。

 俺の経験は、それの条件に合致しうると考えられるものが幾つもあった。


 つい先日、エビふりゃーから報告がなされた〈断罪者〉だってそうだ。

 エビふりゃーが、幾度も実験を重ねた結果、発現する条件が判明した。


 その発現する条件は恐らくではあるが、


 ・親しい者との本気の殺し合い


 この一点だそうだ。

 正直、この一点のみというのはあまり信じていないが…。

 エビふりゃーのレア職業〈断罪者〉が発現した時、俺は本気で奴を殺そうとした。恐らく、奴も本気だったのだろう。だからこそ、強制進化は起こった…。



 簡単な話だ。

 プロペラの時だって、抹茶の時だってそうだ。

 プロペラはきっと、本気で空を飛びたいとあの時願った。

 抹茶は三途の川を渡りかけた俺を、救わんが為にその力を願った。


 そして、それに付随する様に引っ付いてきた、願いを現実へと昇華しうるUnique(力の)・Skill(数々)


 エビふりゃーも、きっと何かを願ったはずだ。奴のユニークである《猟るる糸》はその本質をよく表している。


 職業は、恐らく照らし合わせだ。

 俺が俺であるように。

 狐面が狐面であるように。

 ピュヒュイ君がピュヒュイ君であるように。

 そして、杏が杏であるように。


 それぞれの職業が己に合うように、いつかは変わっていくのかもしれない。


 んでもって、職業に付随したユニークスキルは、願いを叶える手段。その一つだ。

 つまり、杏は未だ手段を獲得していない…?奴にあるのは、己が己であるという照らし合わせだけだ。


「おい、杏太郎」


「…なに…?」


「お前、なんか欲しいもんはあるか?」


 ならば、願いを叶えさせればいい。

 存在証明はある。それならば、後は願いとその手段だけだ。それさえあれば、こいつは恐らく再び強制進化をする。その時が、こいつの本当の意味での羽化だ。


 さぁ、言ってみろや。

 お前の望みはなんだ?

 それとも、プロペラや抹茶の様に窮地に陥らないと覚醒できないか?


 俺はそう言って、ナイフを持つ。

 そして、杏に向かって思い切り投擲した。ナイフは杏の胸元へと吸い込まれるように投げられ、その柔い白肌を突き破り、心臓を―――、




「だよな」


 …突然巻き起こった突風により、ナイフの軌道は僅かに逸れる。心臓に刺さる筈だったナイフは、杏の横スレスレを通り抜けていった。


「る、ルートさん!!」


 ピュヒュイ君が怒ったような声を荒げる。

 悪かった。もうしないよ。俺なりの考えがあったんだが、杏を危機にも陥らせてくれねぇみたいだ。随分と過保護な不幸だな?


 俺の煽るような言葉に、杏は動じることなくその場で立ち続ける。

 俺は、メッセージを狐面へと送った。

 奴は、嫌そうな顔をしながらもそれを受け入れたのか、ゆっくりと杏の背後を取る。


 嫌われ役で良いさ。

 黒幕はいつだってそんなもんだからな。


 杏の背後に回った狐面の影から二本の黒腕が出現する。その黒腕は杏を握り潰そうと奴の華奢な体躯へと迫る―――。


 しかし、やはりそれは届く事は無かった。


 狐面の出した黒腕は吹き荒れた吹雪によって霧散してしまう。


「え?ちょ、ちょっと…」


 そして、辺りを見渡せばそこは先程までの雪景色では無くなっていた。暴風雪が辺りを包み、プレイヤーが次々と中空へと舞い上げられて、そのまま肺が凍り付き、死んでいく。


 狐面は必死で地面に爪を立てていたが、遂には吹雪にあおられ、天へと召されていく。


「んきゃ~!!!!!」


 そんな細い体してるからそうなるんだぞ。


 俺はと言うと、傍にいたピュヒュイ君と手を取り合い、その場で必死に丸まっていた。


「杏ー!」


 ピュヒュイ君が、杏の名を呼ぶ。

 あまりの吹雪で碌に前が見えない。しかし、薄っすらと未だに誰かが立ち竦んでいる人影だけが見える。恐らく、杏だ。この吹雪の中、立っていられるという事はあいつの周りにだけはやはり不幸が訪れていない。俺達と杏の間に、事象の地平線(イベント・ホライズン)がある。


 まるで、何もかもを拒絶する様に。

 それは何故だ?これほどまでに拒否するような不幸が起きるのに、何故杏はピュヒュイ君に助けを求めた?どうにかできると思ったのか?出来る訳がない。


 それならば何故?

 俺は、一つの到達点に至る。


「なぁ!ピュヒュイ君!」


 吹雪のせいで音が上手く拾えない。

 俺はピュヒュイ君の手を更に強く握り、大声で問い掛けた。ピュヒュイ君の手が熱い。


「なんですかあああ!!!?」


 ピュヒュイ君も負けじと俺に声を返す。

 ふふふ、なんか面白い。

 俺は、意味もなくそう思った。しかし、今はそんな事を考えている場合ではない。俺の考えた仮説は、リア友であるピュヒュイ君でないと分からないのだから。




「―――杏は、リアルで引きこもってたりしてるか?」


「え」


 〈不運の渦(バッド・ラック)〉という不運の塊。

 不幸という他人への防護壁。

 唯一の友人と思わしき人物への救援。

 初期からプレイしており、フレンドリストで確認できる総プレイ時間の長さ。



 色々と、勘付ける要素はあった。

 だが、俺はあえて言わなかった。それが、ゲーマーだ。

 ネカマしているおっさんがいる。

 クソを漏らしても、ゲームを続ける奴らが居る。

 地震が起きてもFPSがやめられない奴もいる。


 人には、人の事情がある。

 それにずかずか踏み入るのは、別にいいが、土足で踏み入るのはだめだ。踏み躙り、踏み潰し、踏み均す。その結果、ログインしてこなかった奴を何人も見た。


 …だけど、ゲームは楽しもうぜ?

 俺の勘付きにピュヒュイ君は何も言えなかった。


 無言は肯定だ。いいな。

 俺の言葉にピュヒュイ君は目頭を赤くした。ごめんな、気持ちわるくて。ごめんな、変なところで察しが良くて。


 吹雪がより一層強まる。

 ピュヒュイ君の身体が一瞬だけ、浮くのを感じた。

 や、やばい!ピュヒュイ君の身体がひょろ過ぎて、持っていかれる…!


 ぴゅ、ピュヒュイ君!!!


「ルートさんっ!!」


 お前が先に死んでどうすんだ!?

 なんで杏は君に助けを求めた!?唯一の楽しみであったゲームすらも辛さを覚える原因になっちまったからだ!


 君は、杏を救う光になるべきだ!

 お前が、奴の事象の地平線(イベント・ホライズン)に踏み入るんだよ!そうやって、奴はやっと願いが叶う!お前が、お前が壁を壊すんだ!ピュヒュイ君…!


 ピュヒュイ君の体躯は、遂に宙へと舞う。

 俺が必死に手を握りしめ、離しはしまいと喰らいつく。


「あああああああああ!ピュヒュイくんんんんんん!!!!!」


「るーとさああああああああああああああん!!!!!」


 俺達は、互いが互いの名を呼び合った。

 そして、遂に俺の手からピュヒュイ君の手がすっぽ抜ける。悴んだ手の震えが止まらない。


「杏を…!頼みます…!!」


 木の葉のように舞っていくピュヒュイ君は青い唇で最期にそう言った。

 俺は泣きたい思いで一杯だった。


 救え…なかった……っ!

 胸に残る強い後悔。ピュヒュイ君というあまりに大きなピースを俺は失った。心から何か大きなものが抜け落ちたような感覚が俺を支配する。


 しかし、ピュヒュイ君が残した最後の言葉……。



『杏を…!頼みます…!!』



 俺は、せめてそれをどうにかしなくてはならない。

 ナイフを突き刺し、ポーションを飲み、少しずつ中心へと近づいていく。中心に近づくにつれて、吹雪は激しくなる。しかし、またしばらく進むと今度は酷く弱々しい吹雪になった。恐らく。中心が近い。


 俺は、必死に地面へとナイフを突き立てて進む。

 そして、遂に辿り着く―――。



「よぉ」


 そこには、満身創痍の俺を涙目で見つめる杏の姿があったのだった……。


 ◇■◇


 本当にお前の周りは吹雪いてないんだな。

 俺はポーションを飲み、身体中についた雪を払いながら、杏へとそう言った。


「ルート…さん……」


 ああ、そうだ。

 安心と安全のルートさんだ。

 お前地味に俺の名前初めて呼んだな。人の名前を呼ぶのは苦手か?


 俺の問いに、杏は控えめに頷いた。


 そうか、俺も正直得意じゃねぇ。


「……」


「……」


 沈黙の時間が流れる。

 十秒、二十秒と、何も生まない時間だけが過ぎていく。


「もう、いいの…」


 先に口を開いたのは、杏だった。


「…もうたくさん……いっぱい皆を不幸にしちゃったから……」


 …あ?

 俺は、杏が言おうとする言葉を予見する。

 おい、てめぇふざけんなよ。お前まさか、責任でも取ってこのゲームを辞めるつもりか?


 俺が言葉を先取りしたことに驚いたのか、腫れぼったい目をぱちくりとさせて杏は頷いた。

 おいおい、冗談じゃねぇぞ。ふざけんな。

 お前がゲームを辞めて何になる?俺に一生消えない劣等感を抱いて生きろってか?こんなちゃっちいルーキーの問題も解決できないルートさんとして生きろってか?


 そりゃないぜ。お前よぉ。

 人の為に、何かを為そうとするなよ。お前は散々自分勝手に不運をばら撒いてきただろうが。


「だ…だから…っ!」


 だから?

 俺は、人生でも中々出した事が無いレベルで優しい声を出す。


「私がいなくなれば…っ!」


「ふざけんな!!!あ!?」


 俺の突然の怒号に杏は固まる。


 皆を不幸に?

 私がいなくなれば?

 てめぇの事を俺は知りたいんだよ。なんで人の事ばっか言ってんだお前は。お門違いってやつだぞおい。


 いいか?杏ころ。


 俺はずいっと杏に一歩近づく。

 てめぇはてめぇで良いんだよ。

 俺が幾ら他のプレイヤー共に迷惑かけていると思っていやがる?値引きしろ、追剥ぎだ、金置いてけ、あいつを殺せ。


 俺の悪行なんて数えたらキリがないぜ?

 だからよぉ、お前はもっと自分に素直になれや……杏。



 杏が息を呑んだ音が、鮮明に耳朶を震わせた。


 人間の本質は自分可愛さだ。

 どこまで言っても自尊心(エゴ)が満たされてりゃそれでいいわけよ。お前はお前だ。杏、自分を人を押し付けるな。


 お前は、杏だ。他の誰でもねぇ。


 ―――そうだろ?



 俺は格好付ける。

 今は、それが必要なはずだから。


 杏の周りにあった事象の地平線(イベント・ホライズン)が薄れていくのが分かる。吹雪が弱まっていく。


 そして、遂にシステムコールが鳴り響く。


 〔杏さんが条件を達成…職業の進化を確認…〕



 …ユニークスキルが発現しない…?

 俺は謎の現象に疑問を覚える。

 しかし、不運は取り除かれたのか、杏の傍にいても俺の身には何も起きない。


 もう平気か?

 俺がそう聞くと、杏は強く頷いて―――、


「…うんっ」


 にこり、と爽快な笑みを浮かべるのだった。


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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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