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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.44『”いのちだいじに”が意味を成さない』

 

 〈不運の渦(バッド・ラック)

 全ての能力に+補正。

 不運の渦が取り巻く。



 杏さんが見せたフレーバーテキストは、凡そ予想通りのものだった。



 あー、クソが。

 てめぇら職業情報の隠匿者の一人かよ。


 俺は露骨に態度が悪くなる。

 情報の隠匿は他国サーバーとの情報アドバンテージの消失を意味する。日本サーバーが少しでも前に進みたいならば、情報を隠すことは背徳行為だ。


 許される事じゃあねぇ。

 それがサーバーに貢献する廃人共ならまだしも、何の貢献すらしえないルーキーがその一個を持ってるだと?ああ、面白くねぇ。面白くねぇなぁ。


 そうは思わねぇか?ピュヒュイ君、杏さん…いや、杏よぉ。

 俺の高圧的な態度に、ルーキー二人は縮こまる。そりゃそうだ。ここで縮こまらなかったら、誰かの助けなんて求めてねぇ。


 装備を見るに杏、てめぇは始めて大分経ってるだろ。随分と前の装備だが、一端くらいにゃ戦える装備だ。

 ピュヒュイ君は本当に最近始めたばっかだ。リア友か?リア友に助けを求めるたぁ分かってるじゃねぇか。このゲームは誰一人として信用しちゃいけないからな。勿論、その信用しちゃいけないのに俺も入るがな。


「る、るーとさん…?」


 怖がりながらも、俺へと声を掛けるピュヒュイ君。

 俺はナイフを取り出して、その刃をベロでぺろぺろとした。その瞬間、俺の手は意図していない挙動をして、俺の舌はちょん切れた。


「あばばばばばばっばば」


 た、タスケテー!

 お、俺の舌が!!!ああ、地面でビチビチ飛び跳ねているぅぅ!そんな陸に打ち上げられた魚みたいな動きしやがって…!


 俺はちょん切れた舌を手で必死に抑える。

 血、血が止まらない!このままじゃ死ぬ!し、死にたくないよぉ!ママー!


 ボロと約束したばっかだぞ!

 いのちだいじにの作戦を俺はもう放棄しようとしているのか…。


 俺は咄嗟にルーキー二人に助けを求める。

 ピュヒュイ君!杏…さん!助けて!僕を救って!て、手伝うから!〈不運の渦(バッド・ラック)〉どうにかすんの、手伝うから!お、お願い!僕を助けてぇぇ!


 俺の懇願にピュヒュイ君はおろおろと亜空間から何かを取り出そうと必死になる。しかし、やはりルーキー…!ドラえもんみたいに関係ない物ばかり引っ張り出しやがる…!ぴゅ、ピュヒュイ君、やばいやばい…!くらくらしはじめた…!


 ぴゅ、ぴゅひゅい…君……


「ル、ルートさん!死なないで!ぽ、ポーションがここら辺にあったはずなんだ!待って!死なないでよ!ルートさんっ!」


 ピュヒュイ君……

 俺…君みたいな素敵な子に会えて、よかった……君と過ごした時間は…きっと、忘れない…だから君も…僕の事…


「わ、忘れない!ルートさんの事…!忘れない…だから死なないでよ!ルートさん…!」


 ああ、その言葉を…聞けてよか…った……



 ルート君の叫びが聞こえる。

 俺の身体と魂が乖離しようとしている。

 その時、俺の鼻孔に美味しそうな匂いが漂ってきた。ああ、今日は牛タンでも食べようかな…、不意にそんな思考が脳裏を過ぎり―――、



 じゅうぅぅぅぅぅ~………

 その音共に、俺の意識は再度覚醒を果たした。


 何かが、焼かれている。

 嫌な予感がする。とんでもなく嫌な予感が胸の内に巣食う。


 俺は目を開けた。

 そこには、真っ赤な剣を俺の舌に押し当てる杏の姿があった……。




 ぎゅ、牛タンならぬ人タンってやつすかね!!!……ね…。


 ◇■◇


 き、傷口…熱した剣で止血するのよく思いつきましたね……杏…さん…。


 俺は地面に落ちた自分の舌先を見つめながら、そう言った。

 直ぐ傍には、恐怖に震えるピュヒュイ君が痛々しい目でこちらを見ている。自分の舌がどういう状況なのか俺は怖いよ。怖いから、知らない振りするけどね。


「助けたから……」


 杏が口を開く。

 くそ…!この女…俺を助けたら〈不運の渦(バッド・ラック)〉をどうにかすんの手伝うっていうのをしっかり聞いてやがった…。


 この幸薄女、無口でキャラメイクも大人しい外見だから平気って思っていたが、とんだキチガイだ。


 いや、よくよく考えれば分かったはずだ。

 レアな職業を持っている奴に碌な輩はいねぇ。戦闘狂だったり、何かに妄執していたり、どこかズレているんだ。

 この女だって、ピュヒュイ君みたいに常人が成しえない事を淡々としやがった。


 クソ…!クソ…!

 なんでったって俺の周りはこんなガイジばっかなんだ…!だが、一度言ってしまったからにはやってやるさ。別に助けてもらわなくたって、元から断るつもりはなかったがな。ピュヒュイ君の頼みを断れるほど、俺の心臓は丈夫にできてねぇ。


 悪かったな、試すような真似しちまってよ。

 そう言うと、ピュヒュイ君は露骨に安心したような表情を浮かべた。可愛い。


 つーか、なんだ?

 もしかして、俺が舌をちょん切っちまったのはお前の〈不運の渦(バッド・ラック)〉の効果か?杏の助よぉ。


「杏の助…?…そう、だね…」


 だよな。

 明らかに俺の手が操作挙動から外れた。あんな馬鹿中々しないぜ。にしても、自分だけじゃなくて周りも危害が及ぶのはやべーな。


 ってことは、ピュヒュイ君が吹っ飛んできたのも不幸が原因か?

 俺がそう聞くと、ピュヒュイ君は恥ずかしそうにもじもじとしながら言った。


「はい…プレイヤーさんの武器に当たって吹っ飛ばされて…落ちる度にまた違うプレイヤーさんの武器が当たって吹っ飛ばされてを繰り返しまして…」


 んなピタゴラスイッチみたいなことが起きんのかよ…。

 想像よりも遥かにファンタジーの域に入った不幸加減だな、おい。


 まぁ、しかし別に〈不運の渦(バッド・ラック)〉をどうにかすんのは簡単だろ。さっさと転職しに行くぞ。

 レア職業が消えるのはもったいねぇが、しょうがない。ゲーム楽しめなきゃ意味なんてねぇからな。元々生産性もクソもないゲームだ。せめて娯楽としてくらい、機能させなきゃやってらんねぇだろ。


 俺は後ろからついてくるように指示を出して洞穴を出た。

 その瞬間―――、


「へぷっ」


 俺の頭部が抉れ飛んだ。

 身体から無理矢理に引き剥がされるように俺は霊体化する。一体何が…


 自分の死骸を見ると、直ぐ傍に血みどろの手斧が落ちている。これは……


「すいませ~ん」


 俺が手斧を見て、何か嫌な予感を感じていると聞き慣れた声が俺の耳朶を震わせた。杏とピュヒュイ君が俺だったものを見て、ギョッとしている。ごめんね…見苦しいもの見せて…それもこれも全部…


「…あ!ダストっち死んでる!」



 この狐野郎が悪いからね……。


 ◇■◇


 〔サイショ〕の街でリスポーンした俺は、狐面達にこっちへ来いとメッセージを送った。しかし、しばらくして不幸に見舞われまくり、こちらに来ることは不可能と送り返されてしまい、仕方なく俺がわざわざ杏たちがいる場所へと戻った。



「お~い」


 洞穴の傍で狐面が手を振っている。

 俺は走って奴の傍まで行き、でこをぶっつけてガンをくれた。

 てめぇよぉ、どの面下げて手ぇ振ってやがるんだ、ああ?何の真似だ。あれはよぉ。そんなに俺が憎いか?そんなにも愛玩贓物が欲しいか?ん?言ってみろよ、おい。言ってみてくれよ。


「ごめんって~。ハントレスの真似してたら突然軌道がズレたの~」


 ああ、そうかよ。

 んならお前も協力してくれるよな?俺を一回死なせたんだ。ベロの長さを元に戻してくれたことには感謝するが、てめぇも死ななきゃ逃げられねぇんだからな。共に頑張ろうぜ。


 俺は狐面の肩に腕を置く。

 既にピュヒュイ君と杏から事情は聞いている様で狐面は少し顔を赤くして、頷いた。……まだ引き摺ってやがんのか…。

 何とは言わないが、狐面は俺を意識している時がある。しかし、所詮ゲームだ。気にしたら負けだ、そんな感情。


 ピュヒュイ君と杏が洞穴から出てくる。

 よし、さっさと行こうぜ。これ以上不幸に見舞われるのはマズイ。


 俺達はここから最も近い街〔サイショ〕を目指して歩き始めた。


 ◇■◇


 なぁ、杏ころ。

 てめぇ、スキルはねぇのか?ユニークスキルだ。基本的にレア職業っつーのは同時にユニークスキルが発現すると思うんだが……。


 勿論、例外もある。

 俺の〈教唆者(アジテーター)〉が良い例だ。こいつはレア職業の癖にユニークが発現するどころか、全能力がダウンするたんこぶ付きだ。


 俺の問いに杏はかぶりを振る。

 そうか、〈不運の渦(バッド・ラック)〉はユニークスキルが無いタイプの職業っつーことだな。なにか規則性があるのか…?


 俺が知っている範囲では、


 エビふりゃーが持つ〈断罪者〉の《猟るる糸》。

 プロペラが持つ〈翔ける者(ジャンパー)〉の《天翔け》。

 抹茶が持つ〈篝火を灯す者(デイライト)〉の《夜の帳》。



 この三人がそれぞれレア職業が発現すると共にユニークを獲得した。


 強制進化が関係するか?いや、無い。俺の〈教唆者(アジテーター)〉も強制進化だ。となるとそれも外れる。やっぱ職業ごとに決まってんのか…?


 …そういや、狐面はレア職業じゃないのか?

 俺は降って沸いた疑問に答えを出そうと狐面の肩に手を置こうとする。


「おい、きつ―――」


 その瞬間(とき)、背後から悲鳴と共に何かが飛来する風切り音が聞こえた。俺と狐面はすぐさま臨戦態勢に入る。


 狐面は《影魔法》、俺は《血液操作》で各々が為せる最善を為す。

 後ろを向くと、そこには幾本かの矢とその矢を間一髪で避けたと思われるピュヒュイ君の姿があった。杏は棒立ちしている。


 俺達が移動する荒野の一際高い崖。

 そこに一つの団体が姿を見せた。弓を引き、魔法を待機し、こちらをいつでも狙い打てる準備をしている。


「その子を置いていけ」


 その団体のリーダーと思わしき男が俺達を指さす。

 え?今誰指さした?分からん。狐面ならば喜んで捨ておこう。


 俺がとりあえず狐面を差し出して様子を見ようとした時、事件は起こる……。


 一団がいた崖が音を立てて、唐突に崩れたのだ。

 叫び声をあげながら、落ちていくプレイヤー共。必死に空中で逃げようと藻掻く奴もいたが、なし崩し的に起きた雪崩により、逃げる事叶わず、そのまま生き埋めになった。放っておけば、窒息死するだろう。


「……」


 あー、行こうか。

 俺の控えめな言葉で俺達はまた歩き出した。


 一つ、分かったことがある。

 不幸は何も元凶に最も近い俺達に降り掛かり続ける訳じゃない。平等に、周囲一帯にいる連中全員に降り掛かるのだろう。


 そして、なによりの事実。

 〈不運の渦(バッド・ラック)〉とかいう全ての元凶を持つこの女()、恐らくこいつ自身には不幸が訪れない…。不幸に見舞われたとしても間接的にだ。


 例えば、転職するための道が塞がれている。

 例えば、行こうとした日に限って職業施設が閉まっている。

 例えば、イベントが開催されてしまう。


 職業システム実装前の装備しか着ていないのが、それを事実たらしめる。職業が実装されるまでは、普通のプレイヤーだったんだろう。


 そして、自分ではどうしようもないから、人を頼った。



 〈不運の渦(バッド・ラック)〉。

 恐らく、その本質は自身以外への不幸伝播…。自分を守る防護壁だ。



 分かったところで、どうしようもないけどな……。


 俺はそう言って、自分の死骸を見下ろす。

 狐面の手斧がまたしても暴走して、俺の腹を切り裂いたのだ。


 恍惚とした表情を浮かべる奴は、酷く艶めかしい。

 臓物はてらてらと光り、ピュヒュイ君は少し遠くで吐いている。杏は、狐面の奇行を少し申し訳なさそうに見つめていた。


 ご、ごめんね…その奇行は不幸のせいじゃないよ…

 き、狐面は…ちょっと、ちょっとだけ天然が入ってるだけだから…許してあげて…ね?




 気付けば死んでいる男。

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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