記録.43『ベテランを名乗るペテン師』
チュートリアルナビゲーター、ナビはその巨体を携えて、世界を縦横無尽に歩き回る厄災と化した。
運営は言う。
―――イベント失敗!w残念だったね!w
嗚呼、ゴミ運営よ。
救えないゴミ野郎どもよ。
俺達はQ&Aで奴らを罵り、SNSで爆撃を起こし、公式サイトをサーバーダウンさせた。しかし、そこまでして得たものは、”ナビが歩く際の地震と音の削除”という当たり前すぎる修正のみ。
俺達がごねた結果、得られた報酬。
言ってしまえば、ゴネ得だ。運営共は悪しき前例を作った。しかし、そんな事を気にしている場合ではないほどに、俺達は運営に呆れていた。
死に晒せや、ゴミ運営が……!!
多くのプレイヤーは、今日もそう言ってゲームを起動する。ゲーマーの性には逆らえないのだから…―――。
◇■◇
あああ……
俺は頭を抱え込んだ。
ナビがフィールドを徘徊する厄災と化して早数日。俺は悩み続けていた。
悩みの種はボロに関してだ。
ラミミはボロがNPCだと勘付いていた。しかし、まさか飛ぶとまでは思っていなかっただろう。俺だって、そこに関してはバラすつもりはなかった。
しかし、ラミミはなにも言ってこなかった。
ボロの事も、俺の決意も、何もかもを、ラミミは知らない振りした。それが、正解かなんて、俺達には分からない。ただ、今はそれが必要なのだろう。
ボロはひそひそと飛んでしまったことを謝ると同時に俺に怒った。
いのちだいじに!と叫ぶボロを見て、俺は笑いが零れた。こんな、こんな日々が続くならば…俺は―――。
◇■◇
「あああああああああ!ピュヒュイくんんんんんん!!!!!」
「るーとさああああああああああああああん!!!!!」
激しい吹雪の中で、彼らは手を取り合った。
身体が冷たい。心が震える。握り合った手だけが酷く強い熱を伴って―――、
「………」
吹雪の真ん中で、一人の少女が一筋の涙を流した…。
俺はルーキー共の行動を観察する。
観察する理由はルーキー共のアイテムと金を奪い取るためだ。
ルーキー狩りをすると言っても、俺は獲物を選ぶタチだ。
男の娘としての素質がある奴にゃ、手を出さねぇ。もしも、素質があるルーキーとのファーストコンタクトが内臓でろりコンニチワだったなら、きっと俺はずっと嫌われたまんまだ。それは御免だ。
少し離れたところに、何人かのルーキーと思わしきプレイヤーを発見する。
左から順にゴミ、ゴミ、ゴミ。
俺は見定めたゴミを次々と狩る。遺跡に行ってから、俺も多少の技術は得た。廃人共ほど成長はしていないが、それでもルーキー共と差を離すには十分だった。
周辺のルーキーを狩り、ここら一体のルーキーは殆ど死滅した。
残った最後の一人に、俺は叫びながら飛び掛かった。
てめぇでしまいだ!死に晒せやぁ!!!
そんな言葉と共に、血液腕を思い切り飛ばす。しかし、超速のその一撃をルーキーは間一髪躱した。
ああ!?ルーキーの癖に随分回避が上手ぇじゃねぇか!!
俺の言葉にルーキーは叫ぶ。
「黙れや!ゴミ野郎!いい加減、PKヤメロや!」
ああ~?PKだぁ???
俺は耳の穴をほじくり、ふっと指を吹いた。
あのなぁ、PKっつーのはプレイヤーがプレイヤーをキルすることを言うんだよ。分かるか?家畜を殺す事の何がおかしい?カモがネギ背負ってんのは据え膳じゃねぇのか?ああ?
「て、てめぇ……!」
ルーキーが俺に向かって槍を構える。
俺もナイフを構え直す。俺の周りに二つの血液腕が浮遊する。
ルーキーが地面を蹴る。
俺は血液腕を飛ばす。
ルーキーは一つ、二つと槍を使って血液腕を受け流す。その技巧には目を見張るものがある。
俺はナイフ、ルーキーは槍。
リーチの長さは完全に負けている。
「馬鹿がッ!死ね!!」
ルーキーはそう言って、槍を思い切り突き出した。
それを見て、俺の表情は大きく歪んだ。馬鹿はてめぇだ…!ひよっこが…!βプレイヤーを舐めるなよ…!
俺は突き出してきた槍をナイフの柄にかけ、そのまま上に弾いた。そして、がら空きの胴にナイフを―――、
「あああああああ!!!!」
俺のナイフがルーキーの腹に穴を開けるコンマ数秒前、謎の叫び声と共に視界の端に何かが映る。そして、その瞬間俺の頭にとんでもない衝撃が走り、首がごきりと折れ曲がった。
「きゅぷむ゛ッ!!?」
虫が死んだような声を上げて、俺は苦しむ。
頸が曲がった以上、俺は既に死が確定しているようなもんだ。俺は、視界の端に哀れなものを見る目を向けるルーキーを捉えた。
た、助け…!せ、せめて介抱を…。
しかし、俺の嘆願叶わずルーキーは気味の悪いものを見たとでもいうようにその場を去っていく。
お、おい…!お…い!お、お前人間じゃねぇ…!
俺はそこから暫く苦しみ、息絶えた。ふわりと、幽体が俺の身体から這いずり出る。
幽体となった俺の他に、もう一人霊体がいた。
そいつは、酷く可愛らしい顔をしていた。女か…?俺は、何故俺の死体の傍で霊体のままいるのかを聞こうとした。しかし、霊体状態では会話は出来ない。互いに口をパクパクし合う。
何か用があんだろ。
そう考えた俺は、とりあえず一緒のリスポ地点へと向かうのだった。
◇■◇
「す、すいませんでした!」
リスポーンしてすぐ、俺は一緒に幽体で飛んできたプレイヤーに謝られた。こ、こいつ…声質からして男なのか…?女みたいな顔しやがって…男の娘適正Sくらいはあるんじゃねぇか…?
俺はそんな思考をそっちのけて会話を続ける。
「あー、よぉ、俺の見間違いじゃなければなんだが…お前、吹っ飛んできたよな?」
「は、はい…」
俺がナイフを強く握りしめ、ルーキーにとどめを刺そうとした時、視界の端に映ったのはヒップドロップするみたいな姿勢で吹っ飛んでくるこいつだった。
しかし、一体なんでお前は吹っ飛んできたんだ?
あそこら辺は言っちゃ悪いが、ルーキーでも簡単に狩れる雑魚敵ばっかだ。そんな吹っ飛ばす魔物なんていなくねぇか?それとも、なんか特殊な魔物でも出たか?
俺がそいつにそう聞くと、そいつは言い辛そうに口をもにゅもにゅとした。
…何か事情があるんか。
俺は心の中でそう考える。それならば、まずはこいつの警戒心を解いてやらねぇとな…。
俺はこいつと仲良くなりたい。
男の娘適正が高いこいつと共に過ごしてみたい。それならば、まずは地道な一歩からだ。
「ああ、まずは自己紹介だ。俺はルートっつーもんだ。よろしくな」
爽やかな笑顔、顔を曲げる角度、嫌味を感じさせない歯の出し方。
全てが完璧だ。俺の自己紹介に隙は無い。他の誰よりも俺は上手に自己紹介が出来るぜ…!
「あ、僕はピュヒュイです!えっと…まだ始めたばっかりです!よろしくお願いします!」
おー、おー、ピュヒュイ君。
よろしくな。栗茶色の髪が良いセンスしてるね。かっこいいよ。
服装も軽装で良いね。始めたばかりなら、あんまし重い鎧は買わない方が良いよ。戦闘慣れしてからそう言うのは手を出した方がいい。武器はナイフか。俺と同じだな。同じ武器同士仲良くしようぜ。
「は…はい!」
俺はとりあえずピュヒュイ君の装備を褒めた。
ピュヒュイ君は俺の称賛を聞いて、嬉しそうに頬を染めて頭を掻いた。ゔッ!!!可愛い…!
俺の心臓にジャブが入る。
しかし、俺は負けない。そう簡単に俺が落ちると思うなよ…!
んで?ピュヒュイ君。
一体何がどうして君は吹っ飛んできたんだ?答えられそうか?
「えっと…あの…ちょ、ちょっと待ってください!」
俺の優しい問いかけに、ピュヒュイ君は口ごもった後に人差し指で何かをスワイプする様に空気を切り始めた。恐らくメニューでも操作してるんだろう。βプレイヤーやら、ベテランになると思念や視線でメニューの操作が可能になるが、慣れるまでは難しい。その為、ほとんどのルーキーは未だに指で操作をしていることが多い。
指をすいすいとし始めて一分が経った頃、ピュヒュイ君は顔を上げて、俺に言った。
「あ、会って欲しい人がいるのですが…」
その言葉を聞いた瞬間、俺の脳天に雷が落ちる。
ピュヒュイ君……俺は今、君のお父さんの気分を味わっているよ…
◇■◇
俺はピュヒュイ君とその会って欲しい人とやらがいる場所に共に向かっている。
ピュヒュイ君は良い子だ。
彼は悪いから、と自ら索敵係を買い、周囲の索敵を始めた。
しかし、ピュヒュイ君はルーキーだ。俺はバレない様に血液腕を成形し、ピュヒュイ君が見逃した魔物を静かに屠っていく。
俺のピュヒュイ君の輝いているステージを邪魔してみろ…皆殺しにしてやる…。
ピュヒュイ君の後を付いて来始めてかなりの時間が経った。
未だにその会って欲しい人とやらはどこにもいない。
なあ、ピュヒュイ君、ホントにこっちにいるのか?その人。もうだいぶ来たぞ?そろそろ廃人共の縄張りにも入る。俺一人じゃ相手しきれない魔物もうじゃうじゃいるぞ?
「もう少し…あ!あそこです!ルートさん!あの洞穴の中にいます!」
俺はそれを聞いて安心する。
もしかしたら、俺を殺そうと画策する先兵の手先なのかと俺は疑い始めてしまっていたから。そんな自分を叱責する。ピュヒュイ君がそんなことするわけないね。うん!
「おーい、あんー!連れてきたよー!あーん!」
ピュヒュイ君が洞穴に向かってそう叫ぶと、洞穴の奥から足音が聞こえる。ピュヒュイ君……な、なんか怖いよ…ビッグフットとかUMA出てこないよね…?大丈夫?
俺はピュヒュイ君の腕に捕まり、恐怖に震える。
そんな俺を見て、ピュヒュイ君はおかしそうに笑った。
「大丈夫ですよー、ルートさん変なとこで怖がりだなぁ」
洞穴の中から出てきたのは、幸薄そうな黒髪ショートカットの少女だった。あ、コンチワ…。
俺が小さく会釈すると、あちらも会釈を返してくれた。ふむ、良い子だ。
ピュヒュイ君、この子が会わせたかった子?
俺がそう聞くと、ピュヒュイ君は強く頷いて、少女の方を向いた。
すると、少女は再び小さく会釈をして―――、
「杏…です…」
あ、こりゃどうも。
ルートと申します。ピュヒュイ君にはお世話になりました。よろしくお願いします、アンデスさん。それにしても良い名前ですね!アンデス!
「あ、杏……が名前…」
あっ………。
ッス―――……。
◇■◇
んで?ピュヒュイ君、一体どうして俺と杏さんを会わせたの?
俺がそう聞くと、ピュヒュイ君は決心した様に言うのだった……。
「杏を…杏を助けてほしいんです…!」
助ける?
ふーむ、ルーキーを助けるのは、上級者として当然の行為だ。勿論、助けるとも。んで、どういう助けが必要なんだ?
お金が足りないか?
アイテムがないのか?
誰かに脅されているか?
魔物が強くて倒せないか?
俺は、とりあえず幾つかの候補を挙げていく。
そんな中で、あんまし喋らない杏さんが口を開いた。
「〈不運の渦〉……っていう職業をどうにかして欲しくて…」
あー、あー、あー、なるほどねぇ…!
レア職業の弊害すか!すんません!やっぱ帰っていいですか!手に負えないっすわ!
そんな事を言えるほど、日本人はよく出来ていない…。
【急募】ここからでも頼みを断る方法。
レア職業についての話
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