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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.42『ぺろぺろタイム』

 

 クソほど気が利かない運営共は言った。



「緊急イベント開催するよ~」



 その言葉を聞き、俺達は呆れと高揚を覚える。

 つい最近、自社ゲームのコラボ期間が終わったばかりなのに、もう新しいイベントが始まるのか…と。


 しかし、イベントが始まるのはこのゲームに注力してくれるという事だ。

 俺達はどのようなイベントが来るのかが分からない為、それぞれがイベントに向けた準備をするのだった…―――。


 ◇■◇


「狩りまくれー!!!確変だー!」


 そこら中でそんな雄たけびが聞こえる。

 フィールドには、多くのプレイヤーが武器を持って魔物を求めて徘徊する。


 おらぁ!

 魔物どこだぁ!ドロップ寄越せや!廃人共がっつきすぎなんだよ!こういう時は引っ込んでるのが、成功の秘訣じゃないすかねぇ!!!


 かく言う俺も、魔物を求めて徘徊する者の一人だ。


「まものどこだー!」


 俺の傍でボロとラミミも共に索敵をする。

 宙に浮かない様にしっかり言っておいたが、大丈夫かな…?俺の心中は不安で一杯だった。



 運営共が開催したイベントは、〔魔物からのアイテムドロップ率上昇‼〕というとんでもなく有用なイベントだった。


 そりゃ皆血眼になる。

 アイテムは重要だ。

 プレイヤー間の物々交換、生産に必要な素材、毎月の友達料金、全ては基本的にアイテムや金で支払われる。アイテムは売れば金になるし、時には持っているだけで攻撃材料足り得る時もある。


 それがドロップ率上昇?

 やらない手はない。このゲームは元々、お世辞にもドロップ率が高くない。なのに、イベント中は倒せば確実に一つはアイテムがドロップしやがる。


 廃人ならば己を更に強化でき、ルーキーならば廃人達の強さにぐっと近づける可能性がある。



 そう、このイベントは恐らくルーキー共の底上げが狙いだ。

 最上位の廃人と、ルーキーの戦力格差を重く見た運営の救済策という訳だ。


 しかし、俺達は舐め腐っていた。

 この運営が、こんな普通なイベント開催するはずもなかったのだ……。




 俺はルーキー共が少ない荒野へと足を運ぶ。


 ルーキー共が分布する場所には偏りがある。まず、草原、沼地、海辺付近が多く、厄介な魔物が多い森林、高所が多く事故りやすい山岳が次に多い。


 そして荒野、ここはほとんどルーキー共はいない。


「ああ?おい、ごみ溜め。なんでてめぇらがここにいる?ボロちゃん連れてこんなとこ来んじゃねぇよ」


 その代わりに、殆どの廃人共はここにいるがな…。




 廃人の何人かが俺を見つけて話しかけてくる。

 うるせぇよ。狩場寄越せよ。廃人なら一つくらい明け渡せよ。こちとら養わなきゃいけない子たちがいるんだよ。親しき隣人だろ?譲れよ。


 俺は廃人共を少しも親しき隣人とは思わない。

 寧ろ、早々に退去して欲しいとすら感じている。しかし、それを口に出すほど俺も馬鹿じゃない。こうして、近所付き合いは成り立っていくのだ。


「……しょうがねぇな。おい、お前らここあけるぞ」


 想像以上に聞き訳が良い廃人に、俺は驚愕する。


 あ?おい、譲るってか?お前ら廃人が、わざわざ狩場を?


 俺は、驚きを隠せないとばかりに、奴らに言葉をぶつける。

 お前らはそんな殊勝な奴じゃないだろ?一体どういう風の吹き回しだ?借りだとか貸し云々は無しだぜ。

 そんな口約束、だーれも覚えちゃいないんだからな。


 俺の煽るような言葉に廃人は溜息をついて、答えた。


「ボロちゃんとラミミに感謝するんだな」


 …あ?


「あの子らはよくお前を見ている。お前もそれに答える日が、いつかきっとくるぜ」


 廃人が、俺の後ろに眩しいものを見るような視線を向ける。

 俺がその視線を追うと、そこには荒野の地面に咲いた一凛の小さな花を見つめているボロとラミミの姿があった。


 おい、一体どういう…。

 俺が、視線を戻すと廃人はもう俺に背を向けて歩き始めていた。


「自分で考えろよ。ごみ溜め」


 その言葉が、どうしようもなく俺の心にしこりを残した。


「ルート、早くしろ」


 ラミミのそんな声が聞こえる。


 あいあい、直ぐにいきますよ。

 俺はボロとラミミのいる場所へと走る。その時には、心に残ったしこりの事なんて、気にも留めていなかった。


 ◇■◇


 ボロは戦えない。

 当たり前だ。ボロは幼女でNPCだ。戦える方がおかしいだろ。


 俺とラミミは応援するボロを背後に置く形で、各自戦闘を行っていた。

 面白いくらいにアイテムが落ちる。いつもこのくらい落ちればいいのに。俺は心の中でそう愚痴りながら、剣を振るう。


 〔《ナイフ》Lv.19→Lv.MAX〕

 〔《ナイフ》が進化可能…〕

 〔《ナイフ》進化一覧〕

   ◀《ナイフⅡ》▶

    ◀《ダガー》▶



 突然頭の中にシステムコールが響く。

 スキル進化が可能になったらしく、俺は適当に《ナイフⅠ》を選ぶ。今、《ダガー》を選んでも肝心の武器であるダガーがない。それに、汎用性はナイフの方が上だ。素直にナイフを選んどきゃ間違いないし、確実だ。


 俺は戦闘の中で《ナイフⅡ》を選び、正当進化させる。


 俺は順調に進化していく自分のスキルにむふふと気分が良くなる。こちらに迫りくる魔物にナイフを思い切り刺し、そのまま裂くように薙ぎ払い、滅多切りにする。アイテムのドロップを確認し、また新しい魔物へと向かおうとした時……、




 ―――突然、地面が激しく揺れた。




「ぼ、ボロ!」


 俺は咄嗟にボロがいる場所に走り、転びそうになっているボロを抱え込む。すぐにラミミもこちらに集まる。なんだよこの揺れ…!


 俺は不可解な揺れに、苛立ちと恐怖を覚える。

 しかし、それを表に出すことは許されない。俺の腕の中で不安そうにこちらを見つめるボロがいる。この子がいる限り、俺はこの子の前で弱音を吐くことが許されない。


 そうやって、俺はこの子と生きていくのだ。

 ラミミ!辺りの状況は分かるか?フレンド共との情報共有は俺がする。お前は辺りの警戒をしろ。何かあったら言え。


「わかった」


 ラミミはそう言うと、立ち上がり、巨槌を握って周辺の警戒にあたる。


「へーき…?」


「ああ、大丈夫さ」


 ボロが、震えるような声で俺に言う。

 声が、瞳が、身体が、俺に恐怖を訴える。未だ、地震のような揺れは続く。



 〔ルート:どういう状況だ?〕



 俺はメッセージをコピペして、フレンド共にどんどんと送っていく。すると、奴らも状況の把握に努めているのか、次々と返信が帰ってくる。


 〔エビふりゃー:分からん、草原のほうが震源〕

 〔ララ:コウザンの街はもーまんたい〕

 〔決戦兵器:こっちも知りたい〕

 〔空の人:今、上から見てみてるけどへんなのいる〕

 〔きつね:なぞ!〕

 〔抹茶:情報が錯乱してて分からないです〕

 〔文:サイショの街やばい!やばいのがそとにいる!〕

 〔明:た、タスケテ―!!!すくってー!〕

 〔ドクター:ものすごいスピードで巨大な何かが移動してます!!〕

 〔ドラ子:なんかでっかいのが荒野の方行ってる!いるなら逃げろ危ないぞ!〕

 〔ぺろりん:にげt〕



 おいおい…!

 冗談だろ…!

 フレンド共のメッセージは明確な事実を告げる。


 俺は、ラミミへと叫ぶ。


「おい!すぐに逃げるぞ!デカい何かがこっちに向かってきてる!!」


 ぺろりんのメッセージが途中で途切れている。

 恐らく、それほどまでに切羽詰まった状態で返してくれたのか、返信中に死んだかの二択だ。どちらにしても最悪だ。


 俺はボロを抱えて、立ち上がる。

 ラミミが巨槌を亜空間に仕舞い込みながら、こちらに走ってくる。


 よし、とりあえず一番近いのは森林マップだ。

 そのままそっちに向かって、街に入るぞ。街に入ればどうにかなるはずだ。俺の判断にボロとラミミは頷く。果たしてこの判断は正しいのか。それは分からない。それでも、俺が考えられる最善を選び取らなきゃいけない。


 俺達は森林に向けて走り始める。

 すると、俺達と同じ結論に至ったのか廃人共も同じ方向に走っているのが見えた。あいつらについて行きゃ、大抵の魔物はどうにかなる!ラッキーだ!タイムロスを減らせる!


 俺は嬉々として、奴らを追った。

 しかし、その瞬間―――、




 ―――廃人共が巨大な何かに踏み潰された。



「…あ?」


 ―――上を、上を、上を見る。

 廃人共を踏み潰したそれは、あまりにも巨大だった。そして、それは……


「ちゅ、チュートリアルナビゲーター…?」


 巨大な何かの正体は、このゲームのチュートリアルナビゲーター、ナビに酷似していた……。


 ◇■◇


 ナビは、お化けのQ太郎を滅茶苦茶シンプルにした外見をしている。言っちまえば、手抜き外見だ。しかし、空をも穿つ巨体になってみればその不気味さは後ずさるものがある。


 くそがッ!!

 俺はボロを離し、ラミミの方へ行くように諭す。

 そして、ナイフを取り、血液腕を成形する。

 出来うる限りの戦闘準備を整える。


 しかし、巨大というだけで敵の強さは急激に膨れ上がる。

 ナビが足を上げて、俺のいる場所に足を落とす。ただ、それだけの筈なのに。ただ、それだけがあまりにも強大で……。


「に、げ、ろぉおおおおおおお!!!!!!」


 俺は、咄嗟にラミミとボロに向けてそう叫んでいた。

 血液腕でナビの巨大な足を殴る。少しでも足が落ちてくる場所をずらそうと、必死に殴り続ける。しかし、動かない。圧倒的すぎる質量が、俺の希望を阻む。


「る、ルート!」

「ルー!」


 遠くで二人の声が聞こえる。

 そちらを向けば、二人は足が落ちてくる場所から脱出したのか、こちらを心配するような視線を向けている。


 俺は、二人がいる方向に駆け出し《疾風》を発動する。

 勢いよく加速する体躯。俺は、ギリギリで奴の巨大な足を―――、



 ――――。


「く、そ、がッッッ!!!」


 ――避ける事は叶わない。

 俺の右足が、嫌な音を立てて潰される。

 ボロが叫び、ラミミの歯軋りが耳朶を震わせた。


「くそ!くそ!くそ…ッ!!」


 ラミミが、必死にナビの足を攻撃する。

 しかし、びくともしない。



 …逃げてくれ。


「いやだ!」


 ラミミは叫んだ。

 こいつは良い奴だ。一度仲良くなったら、そいつに情が沸いてしまう典型的な良い奴だ。俺のこんな言葉が、届かないことくらい分かっていた。


 だから、俺は告げるのだ。



「ボロは、NPCだ」


「―――っ!」


「察しが良いお前なら分かってただろ?ボロの命は俺達と違って、一つしかない。だからさ…」





「頼むよ」





 俺は、ラミミのあの顔をきっとずっと忘れないだろう。

 涙を流し、どうしようもない現実に打ちひしがれたような、あの顔を俺は忘れる事を許されない。

 …これが最善だ。



「ルー!るー!るー!!!」


 ボロが叫んでいる。

 ごめんね、ごめんね。

 悲しい思いさせてごめんね。でも、俺プレイヤーだからさ。大丈夫だよ。無限の命があるからさ。軽いもんだ。



 遠くで、ボロが空中に浮遊してしまっているのが見えた。

 それを慌ててラミミが捕まえている。あー、バレたか。そっちがバレたらやばいなぁ。


 俺は地面に倒れ込んだまま、青空を見ながらそう思った。




 …。

 ……。

 ………。

 さて!抗うか!


 俺は、自分の潰された方の足を斬って、動けるようにする。

 俺はエレンのオカンじゃねぇ。ラミミをハンネスさんにする訳にはいかねぇからな。それによぉ、



「随分と遅い到着じゃねぇか」


「ああ、悪いな。ずっとアイテム粘ってた」


 ゴミみたいな廃人共も来てくれたしな。

 俺はメッセージを送ると同時に、ヘルプコールも送信していた。ヘルプコールは自分の座標が送られる。こいつらなら、理解できるはずだ。俺がデクで、お前らは轟君だ。


 ヒーラーが俺の足を治療する。サンキュー。


「よし、そんじゃゾンビ特攻しますか」


「「「あーい」」」


 ゲーマー最強の武器、無限の時間によるゾンビ特攻が始まる……。


 ◇■◇


「ちょ、かたぁい…」


 ついさっき混じってきた廃人が俺の隣でそう言った。

 おい、新参。てめぇこの仕事初めてか?


「え?お前何言ってんの?」


 そうかそうか。

 初めてか。んならまずやり方を教えてやるよ。こいつ、滅茶苦茶固いだろ?でもな、ここだ。ここ。


 口を開けて、赤いベロをべーっと出す。


「舌…?」


 ああ、そう。

 舌、舌。ベロでな、こうべろーっと舐めるんだ。これをな、一時間くらいするとな、硬かったところがふやけるんだよ。水とかお湯じゃ駄目だ。舐めろ。じゃなきゃ効果がねぇからな。


 ほれ、一緒にやろうぜ。


「え、えぇ……」


 人々の心は壊れる。

 有効な攻略法は、どこにもなかった。泣き叫ぶ声と、怨嗟の声だけが響く。何人ものプレイヤーが潰され、いつしか心は折れていく。


 舐めようぜ。

 なぁ、舐めようぜ。

 一緒にナメリストになろうぜ。


 なぁ、なぁ、ぺろぺろしようや。ぺろりんがるしようや。




 ………なぁ。




 ぺろぺろハラスメント、略してぺろハラの誕生である。

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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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