記録.38『何かしました?』
〈篝火を灯す者〉ォ???
抹茶が零した言葉は、明確に困惑が見て取れた。
恐らく、強制進化した職業の名前だ。
抹茶さんよぉ。
随分と良いもんゲットしたじゃねぇか?ああ?羨ましいねぇ。
教えてくれるんだろ?その職業のユニークスキル…《夜明けの帳》ってやつさぁ…!
抹茶はしばらく俺を見ると、長い溜息をついてこう言った。
「蘇生魔法が使えるらしいです」
ほ、ほう…そせい、蘇生ね。蘇生……
俺は想像の二、三倍は強力なスキル効果に驚きを隠せない。しかし、抹茶が嘘をついている様子はない。
というか、俺は恐らくその蘇生を行使されている。
三途の川を渡っていた記憶がある。そして、渡り切る前に連れ戻された記憶も。こいつ…本当に覚醒しやがったのか……
俺の周りで、既に三人の連中が特殊な職業進化をし、ユニークスキルを獲得している。う、羨ましいぃぃぃい……!
俺はハンカチを食いしばり、恨めしそうな目でホクホク顔の抹茶を睨み付けるのだった―――。
う、う、うぅぅうぅぅぅううぅ………う゛ら゛や゛ま゛じい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛…!
◇■◇
「私に任せてくださいよぉ!」
付与士の癖に蘇生魔法を得た抹茶はイキりにイキり散らかした。
俺の頭をポンポンと叩き、頬をつつくのは序の口。遂には、敵に付与魔法を使うという暴挙まで。
こいつは……アホなのかもしれない…。
俺は薄々感づいていた。しかし、目を背けていたのだ…。
この抹茶とかいう女…異常なほどのポンコツだ。
確かに光る部分はある。しかし、根柢の部分がのび太君なのだ。それならばどうしようもない。頼むから劇場版に進化してくれ。
俺は祈った。
のび太にだって良いところはある。俺はのび太は大好きだ。AIMは良いし、寝るのも早い。やる時はやる男だし、友達思いだ。
だから、きっと抹茶にもそういうところがあるはずだ。
「あああああああああああああああ!!!!」
きっと、奴だって……良いところが…
「た、たす…!助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
良いところが……あるはずなんだよ……!
鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔面を携えて、抹茶が全力疾走でこちらに向かってくる。その後ろにはネオンライトで装飾された巨大なアルマジロのような生物がいた。
ごろごろごろ……
ネオンアルマジロは抹茶が逃げる先にもう一人の獲物を発見し、更に速度をぶち上げた。
「こっち来んなやぁ!!」
俺は咄嗟に血液を操作し、進路を塞ぐように血液壁を作る。奴は死ぬが仕方ねぇ。これは運命だ。
俺はすたこらさっさとその場から逃げた。
ちらと後ろを見ると、抹茶は自分の腕に筋力上昇の付与を掛けまくっている…。ま、まさか…!
「ま、まってください~!!」
―――バゴォ!!!
勢い良く殴られた血液壁は、あまりに脆く崩壊した。
凝固が切れた俺の血が、奴の身体に飛び散る。それと同時に、血の使い過ぎで俺の生命力も一気にダウン。
抹茶はそんな俺に追い付き、思い切り抱き着いてきた。
こいつはアホなのか?
フラフラの俺に抹茶の体重が支えられるはずもなく、そのまま崩れる様に俺と抹茶は人間大車輪を形成した。中国雑技団みたいな荒業を成し遂げた俺と抹茶は地面をころころと転がる。後ろからアルマジロも迫ってくる。
俺と抹茶の大車輪は次第に速度を上げる。
しかし、途中で抹茶の愛用していた杖が大車輪から転がり落ちる。
「あ!」
抹茶がそれを拾いに行こうとする。
しかし、俺がそれを止める。死にたいのか!お前がここでこの連結を外したら、俺達はお陀仏だぞ!
それに、あの杖デカいしなぁ。
俺は抹茶にバレない様に下卑た笑みを浮かべる。あの杖、クソデカいからさっきから邪魔だったのだ。無くなって丁度良い。清々するってもんだ…。
放り出された杖が、後ろでメキメキと潰された音が聞こえる。
アルマジロに踏み潰されてしまったのだろう。
「うえええええええええ!!」
抹茶はその音を聞いて、盛大に泣いた。
少しずつ大きくなる泣き声。
「ブロスフゥンダルぅぅぅ…!」と今は亡き愛杖の名を呼ぶ抹茶。こいつ……ゲームキャラの名前つけるタイプか…
そして、奴の三半規管は大車輪中に泣き続けられるほど強くは無かった…。大きくなる泣き声、時折入る嗚咽、そして―――、
「うええええええええぼおろろろろろろろろ」
ああああああ……
お、女の子がそんなことしちゃいけま、ぶ、おぶ、ちょ、げ、げろが、おぶぶぶぶぶぶ。
本日も文明遺跡大車輪をご利用いただき誠にありがとうございますぅ。
次はぁ~日吉町~
次はぁ~日吉町~
線路は続くよ、どこまでも。
◇■◇
「見えたっ!隙の糸っ!」
エビふりゃーと出会った時、奴は高揚していた。
俺と抹茶は長い長い距離を大車輪で移動し続け、遂に奴と出会った。
久しぶりに見たエビふりゃーの佇まいは、達人のそれだった。
数多の戦いが、奴を一つ上の次元へと押し上げたのだろう。そして、余程寂しかったのか、俺と抹茶に出会った途端、見た事もないくらいの笑顔で俺達の背中を叩いた。
炭治郎の真似をしているくらいだ。
そりゃ心細かったんだろう。
俺はエビふりゃーを抱きしめ、改めて辺り一帯を確認した。
そこには、廃人共が悉くやられた”ストーカー”の死体がごろごろと転がっていた。俺はそれを見て、戦慄する。
こ、こいつ…!
一体、どれ程強くなりやがった…!
恐怖と嫉妬がない混じりになる。
しかし、今はそれどころではない。俺はエビふりゃーに状況の説明を求める。一体何があったのかを。
抹茶が前に付与魔法を掛けに行き、俺が廃人共に小突かれていた時、全員の座標がランダムに変わる事象が起こった。俺の位置は変わらず、俺を中心に座標が変更されていったらしい。
他の廃人は行方不明。
しかし、恐らく死んだのだろう。
この過酷な環境を一人で生きていけるのは、恐らくエビふりゃーくらいだ。
さて、それじゃエビふりゃー様よ。
どうすんだ?これからよぉ。
俺はエビふりゃーにそう問いかけた。
今この場にはエビふりゃー、抹茶、俺の三人しかいない。元々いた廃人の数が二十数人。別に探してもいいが、恐らく無駄足だ。
俺の意見に耳を傾けていたエビふりゃーは言う。
「出口探してさっさと出よう」
ああ、それが良い。
珍しく意見が一致した俺とエビふりゃーは肩を組み、アンパンマンマーチを歌った。そっうっだ~うれしいん~だ~い~っきるよ~ろっこっびぃ~!
「か、関わりたくない……」
本心から出た言葉を、ゲロインは噛み締めた。
◇■◇
「隙っ!隙っ!隙の糸っ!!」
ばったばったとエビふりゃー君が敵を薙ぎ倒す。
文明遺跡に来て直ぐの苦労が嘘の様に、エビふりゃー君は敵を屠った。
パターン慣れしたのか、それとも戦力差が埋まり、地力の差が出たのか。それは分からない。しかし、一つ言える事は、
「え、エビふりゃーくん強いっすわ…」
「マジパネェ…」
俺と抹茶はエビふりゃー君無双を見つめた。
無双ゲームの一人称視点ってこんな感じなのかな。俺は抹茶に聞いた。
「だとしたら大分ごみごみしてません?」
だなぁ。
やってる側は気持ちが良いけど、キャラからしたら終わりない無限戦闘みたいなもんだよなぁ。
俺と抹茶が無双ゲームについて話し合っている間に、エビふりゃーの敵殲滅が終わった。はぁい、お疲れ様でぇす。お茶いりますかぁ?甘いお菓子としょっぱいお菓子どちらか食べますかぁ?
俺の粋な計らいに、エビふりゃーは目もくれずに俺の奥を指さした。そして、衝撃的な事実を口にする。
「出口でてるぞ」
え、……え!!?
俺と抹茶はばっと背後を見る。
そこには、古代材質で造られた門が、光を放って鎮座していた。
え、え?え?
どういうこと?なんであんなところに出口あんの?てか遺失の欠片は?ねぇの?遺跡ってそれのイメージなんだけど…
俺は、エビふりゃーに聞く。
しかし、エビふりゃーはかぶりを振り、知らない知らないと言い張った。ないならいいさ。別に欲しかったわけじゃねぇ。勿体無い病が出ただけだ。
さっさと出て、平穏な日々に戻ろう。
俺達は何事もなく、扉を普通に通った。
扉の先は〔シンリン〕の街付近の樹海にしっかりと出た。
俺とエビふりゃーと抹茶は、三人で輪になって踊った。えがったえがった。
今回の遺跡で得られたものは多い。
エビふりゃーは完全に他の奴らとは別格の実力を手に入れた。
抹茶は〈篝火を灯す者〉という職業と、それに付随するユニークを手に入れた。
そして、俺は……俺は…あ、あれ…?
地獄を経験して、何一つ得なかった男…。




