記録.37『遠足は危険がいっぱい!』
あと1,2話で遺跡編は終了するかと思われます。
「きゃ、きゃー!人殺しー!!お、男の人――――!!!」
突然目の前で巻き起こった殺人事件に俺は絶叫する。
”ストーカー”。
そう呼ばれた怪物は容易く廃人の首を狩り、姿を消した。
そこで俺は理解した。抹茶が必死に接近反応感度上昇しか掛けていなかった理由を。
こ、こんの怪物…!気配がしやがらねぇッ…!
俺の叫び声に反応して、前にいたエビふりゃーが全力疾走してくる。
しかし、奴がいたのは一番先頭だ。事件が起こったのは俺や抹茶など、戦力が乏しい者、支援職などがいる最後尾付近。奴が到着するのはまだ二十秒ほどのタイムラグがある。
俺達はすぐに背中をくっつけ、どこから来てもいいようにそれぞれが違う方向を向いて構えた。
「き、きたっ!!」
俺の左後ろでそんな声が響く。
それは、一回目の殺害が起きてから五秒と経っていなかった。
俺が背後を向き、血液腕を飛ばそうとした時には既に遅かった。
俺を合わせて八人程が、背中合わせで臨戦態勢に入っていた。しかし、俺が後ろを向いた時、既にその内の四人は首を狩られ、血飛沫をあげて地面へと倒れようとしていた。
残ったのは俺と抹茶とヒーラー二人。
状況はあまりにも悪い。
エビふりゃーが到着するまであと十秒程度。
俺は咄嗟に傍にいる三人の廃人共の頭を血液腕で殴り落とし、地面へとキスさせた。そして、そのままの流れで血液腕を変形。
秘技……!イジゲン・ザ・ハンド―――!!!
俺達の周りが強固な血液で覆われていく。
一瞬のうちに、俺達は血液のドームに囲われた。
ドームが形成された途端、外からガガガガガッ!と何かが強く打ち付けるような音が響く。そして、それと同時にエビふりゃーの怒号と、廃人達の足音がどたどたと鳴る。
――――。
「もういいぞ」
エビふりゃーの声が聞こえ、俺が血のドームを解除すると辺りには廃人共が未だ臨戦態勢を崩さずにじりじりと周りを見渡していた。
ストーカーっつー怪物はどっか行ったか?
俺がそう聞くと、エビふりゃーは苦い顔をして頷いた。
文明遺跡珍道中は続く……。世は正に世紀末……!
◇■◇
「んだよ……ここは…」
俺がこの遺跡に来る前、落ちてきたプレイヤーは言っていた。
『何が……あった…だと!?
なんでも、なんでもあった!なんでも……だ!
―――宝石の丘も!
―――炎の森林も!
―――輝く地下も!
―――暗闇の太陽も!
―――暗雲の湖も!
―――時翔けの大地も!
―――雪の砂漠も!
―――金の大蟻塚も!
―――重力の平原も!
なんだって!なんだって…あった…。な、ん―――』
あの言葉は、もしかしたら正しかったのかもしれない。
俺達の前に広がる、ネオンライトの様に光る巨大な茸の樹海を見て、俺はそう思った―――。
目が痛い。
ちかちかと強い光に当てられて、長時間目が開けていられない。
俺ぁ、こういうデカデカした光苦手なんだがよぉ、まさかゲームの中でも見る羽目になるたぁ思わなかったぜ。なぁ、そうは思わねぇか?
俺は隣を歩く抹茶に声を掛ける。
しかし、奴は俺の言葉が聞こえないとでもいうように俯いたまんまだった。
廃人達はずっとピリピリしている。だーれもログアウトしやがらねぇ。俺もログアウトする気はねぇが、こうしてこいつらといるとやっぱり異常軍団という事を思い出させられる。
おいおい、どうした。元気ねぇぞ?
ネオン街みたいなもんだぞ、ここは。ちょっとはそれに反応してみろや、ああ?
「………」
抹茶はふと俺の方を見て、また俯いてしまう。
………。
はぁ、抹茶よぉ。
てめぇはさっきの判断間違ってなかったと思うぜ?
どうせてめぇの事だ。
接近反応感度上昇を掛け続けたことが正解だったのか~、とかどうでもいい事でウジウジ悩んでんだろ?自信持てよ、お前は立派な付与士だろ。
「で…でも、皆…私のせいで…」
抹茶がそう言う。
その言葉を聞いて、俺は思わず大声で笑ってしまった。
ピリピリとした廃人共が俺を睨む。ごめんて。
若干の鋭い視線を感じながら、俺は笑いを残しながら抹茶へと言った。
―――お前よぉ。いつからそんな偉くなってんだ?
私のせい?私が失敗したからみんな死んだ?馬鹿言えよ。んな事、本当に死んでった奴らに言ってみろや。奴らの矜持はどうするよ。
てめぇ一人で支え切れるほど、廃人は軽くねぇよ。
飯食う時間も、夜寝る時間も、仕事行く時間も、クソひり出す時間も、風呂入る時間も、何もかもを投げ捨ててこのゲームに没頭する連中を支えようと思う方が馬鹿なんだよ。
てめぇが接近反応感度上昇を使った理由はなんだ?なんで筋力上昇を使わなかった?
―――誰一人、死なせたくなかったからだろ?何もかもを掬い上げようとしたからだろ?
「………」
…いいじゃねぇか。やってやれよ。傲慢でいろ。
お前がエビふりゃー含めた全部の廃人共を支える気でいろ。
「…へ?」
抹茶は最初に言った言葉と、先程俺が言った言葉が真反対の意味だった為、混乱したのだろう。困惑したような表情でこちらを見る。
いいか?
傲慢になりゃなるほど、ゲーマーっつーのは気持ち悪いくらい強くなるもんだ。
エビふりゃーを見ろ。
アイツは生粋のエゴイストだ。狐面だって、決戦兵器だって、ララだって、強い奴は大抵どっかのネジがぶっとれてる。
いいか?
支える気でいろ。
本当に支えようとしたら、てめぇは壊れちまうだろうからな。廃人の中じゃお前は随分脆い方だからな…つっても、廃人でもない俺が言っても説得力はないが。
とりあえずはそうやって、傲慢になれ。
いつかきっと、てめぇの頭のネジも外れるだろうよ。
俺はトントンと自分の頭に人差し指を当てながらそう言った。抹茶が前を向いて、走っていく。きっと前の奴らに付与魔法を掛け直しに行ったのだろう。
奴が前に行った途端、周りにいた廃人共が肘で俺を小突く。やめろや。
「ごみ溜めの癖に良い事言ったなぁ」
「ずっとそうあれ」
「カッコつけすぎ。きしょい」
やめ、やめや、やめっ、や、やめろやぁッ!!!!
ビシビシビシ。
廃人共は俺を小突くのを辞めない。
最早それは小突くの域を超え、痛い。手刀染みた火力になってきた。い、痛いよ。ほんとに痛い!ちょ、ヒーラー!死ぬよ!ルートさん死んじゃうよ!ねぇ!
しかし、ヒーラーからの返事は無い!ひ、ヒーラーの野郎…!見捨てやがった…!屑がっ!
身体の至る場所に風穴が空きそうになる。
しかし、小突く手は少しずつ減っていき、気付けば誰も俺を小突かなくなった。いや、遅いから。流石に冗長だったよ、今の。
俺はそう言って、小突いてきた奴らを見る。
………しかし、俺の周りには誰もいなかった。
「……あ?」
ギラギラとネオンキノコが光る。
その茸の下で、俺はたった一人になった。お、おい……冗談だろ…!
俺は必死に辺りの気配を探す。
〔《気配察知》Lv.19→Lv.MAX〕
〔《気配察知》が進化可能…〕
〔《気配察知》進化一覧〕
◀《気配察知Ⅱ》▶
タイミング悪く、スキルの進化が可能になる。
俺は視界の邪魔にならない様にすぐさまスキルを進化させ、辺りを気配を見つけようとする。
例え、スキルが進化したからと言って飛躍的に何かが変わるわけではない。
正当進化ならば、尚更代わり映えしないだろう。
俺の《気配察知Ⅱ》は正当な進化先だ。爆発的な成長は無い。しかし、それでも無いよりはマシだ。
ナイフを構え、血液を出し、ゆっくりと全方位を警戒しながら歩いていく。
しかし、俺はすぐに一人が寂しくなり、小さな声でエビふりゃー君の事を呼んでしまう。
「え、エビふりゃーくぅん……いないのぉ…怖いよぉ…?」
エビふりゃーを求める亡者となった俺は、ずりずりと亀のような速度で歩く。そこに―――、
「ルート!こっちだ!」
突然、上からエビふりゃー君の声!
え、エビふりゃー君!ど、どこ!どこにいんの!?
え?茸の上!?もしかしてお前茸の上乗ってる?どーやって行ったのそこ!ねぇ!
「ルート!こっちだ!」
俺の必死に叫びに、エビふりゃー君は先程と全く同じ言葉を返す。
…おかしい。エビふりゃーは二回も同じことを繰り返すなんてしない…。ま、まさか!にせも―――!!!
「むぐぐー!!」
エビふりゃーの声が偽物と気付いた瞬間、俺は背後からネオンライトのように光る蔦で絡め捕られた。そして、ゆっくりと全身を絡め取り、上へ上へと蔦が俺を持ちあげて、上昇していく。
…や、やばい!し、死ぬ…!く、首が締まってやがる…!
上昇志向の蔦が…!こんの…全然切れねぇ…!し、視界が…ブレて血液が上手く操作できねぇ…や、やばい…意識が…
首が締まり、体も悲鳴を上げる。
俺の意識は幻覚を見る。
大きな川の向こうでプロペラ君とぺろりんが手を振っている。
ああ、待って…俺も、俺も今、そっち行くから…。ちょっと待っててね…。
ざぶざぶ、と冷たい川に入る。少しずつ、しかし確かに川の中を進んでいく。あと少しで横断できる。プロペラ君とぺろりんが俺へと手を伸ばした。ありがとう…。
俺は感謝の言葉を述べ、その手を掴んだ。ああ、酷く暖かい手だ…。幸せな、お手々だなぁ…。
俺は幸せだった。
天にも昇る気持ちとは正にこの事だろう。俺は、このまま―――、
「――かぁッ!!」
システムコールが頭に響く。
瞬間、俺の意識は再起動を果たす。
〔抹茶さんが条件を達成…職業の進化を確認…〕
〔抹茶さんが〔Unique・Skill〕《夜明けの帳》を獲得…〕
な、なんだなんだ!?
俺はキノコの茸の上に落下する。ぶよんぶよんと何度か跳ねて、どうにか立ち上がることに成功する。自分を見ると、身体中が蔦でぐるぐる巻きにされている。俺は全身に絡まっていた蔦をぶちぶちと千切り取る。蔦は簡単に千切れた。
辺りを見回すと、俺と同じ茸の上に抹茶が立ち竦んでいた。俺は薄い記憶の中で、恐らく抹茶が助けてくれたのだろうと推測し、声を掛ける。
「抹茶、悪い。助けられたみた――」
「…〈篝火を灯す者〉…?」
あ?
………。
俺は記憶を更に深く振り返る。
そして、思い出した。システムコールが鳴っていたことを。
俺はガッと抹茶の首に腕を回す。
抹茶は俺の顔を見て、咄嗟に逃げようとする。しかし、もう遅い。俺はロックする形で奴を仕留めた。俺は男女差別しねぇんだ。だから手荒になっちまう。ごめんな……
「抹茶ちゃぁん…お話きーかせて☆」
酷く嫌そうな顔をする抹茶に向けて、俺はとびっきりの笑顔を向けるのだった。
俺はエビふりゃーの意志を継ぎし者…!
職業情報の隠匿は犯罪だぜ!ピーッス!☆




