記録.36『キルストリーク』
「助けてくれええええええええ!嫌だよぉぉん!!!死にたくないよぉぉぉ!ララ―!ララ―!!助けてくれー!!!」
俺は叫び続けた。
一プレイヤーの俺が訳の分からない光に包まれて、混乱しないという方がおかしいのだ。
プライドも、矜持も、何もかもを放り捨てて叫び散らかした。
―――気付けば、視界一杯に広がる光は消え失せていた。
その代わり、俺の周りには数人のプレイヤーと思わしき連中の血みどろの臓物が散乱し、更にその周囲には、軽蔑の視線をくれるエビふりゃー達がいるのだった…。
んだよその目線はよぉ。
俺は数多の目線を一身に受け、途端に冷静になる。いつも通りの冷静沈着クールガイな俺が帰ってくる。
尻をパンパンと叩き、砂を払う。
ちらと気付かれない様に廃人共を見ると、奴らは未だに軽蔑の視線を辞めようとしない。それどころか汚物を見るような視線まで加わり出す始末。
仕方ねぇな…。
俺は秘蔵の林檎飴と苺飴を出して奴らを宥めようとした。こんな豪華なのをもらえば、奴らだって俺を少しは尊敬するだろう。
懐を弄り、飴を取り出そうとする俺。
そんな俺を見て、廃人共は一斉にため息をつき、言うのだった…。
……ハズレかよ…、と―――。
◇■◇
「エビふりゃーがいるからそうだとは思ったが…やっぱここ、遺跡内部かよ…」
廃人共は休息を取りながら、俺へと事情を説明した。
この遺跡は化け物の巣窟だ。
そして、ポーション類の効果が一切適用されない。
遺跡世界の各地には、極稀に瀕死の者のみを一人に限り元の世界へと転送できる”門”や、その他の奇怪な施設が存在するそうだ。
恐らく、最後の言葉を言い放って死んだA君も、俺の前で息絶えたあいつも、その”門”を潜ってきたのだろう。
しかし、ならばなぜ俺がここに来たのか?
それはまた別の問題だ。
なあ、どういう事なんだ?あ?俺をこんな地獄みてぇな場所に呼び寄せやがってよぉ。なんだ、生贄でも作って俺を呼び寄せたか?あ?悪魔どもがよぉ。
「…そうだ」
……あ?
「そうだ。生贄を捧げ、お前を召喚した」
その言葉に俺は衝撃を覚えた。
確かに俺が立っているその地面の下には、召喚紋の様な奇怪な線が描かれている。そして、それを一目見たら分かる。
この召喚紋は、もう使えない。
恐らく、一度限りの限定非売品だ。
俺は小さな現実逃避を口にする。
え、エビふりゃー…。てめぇ、何言ってやがる…?俺の冗談を真に受けやがったのか?それともそれ程までに隠したいことでもあんのか?ああ?面白くねぇ冗談だ。
「お前の周りに散乱していた臓物は、生贄に捧げた奴らのものだ」
その言葉を本人の口から聞いて、俺は多少の正気取り戻す。
……マジかよ。
お、おまえら、仲間を犠牲にして俺を呼び寄せたってか…?い、一体何のために…。
「ここはポーション類が効果を為さない。ヒーラーにも限度がある。もう間に合わない者数人を犠牲にして、”召喚”を行った。この遺跡は何でもありらしい」
俺は開いた口が塞がらなかった。
いや、俺はエビふりゃーという男の覚悟を舐めていた。こいつは、本気でこのゲームをしていた。…いや、こいつらは、本気でこのゲームを遊んでいる。
俺は一種の恐怖を覚えると同時に、畏敬の念を覚えた。
しかし、その感情もいつものこいつらを思い出すと、すぐに霧散した。所詮屑は屑だしな。
んで?
なんで俺なんだ?他にもいっぱいいただろ。有用な奴は。決戦兵器は?ドクターは?抹茶…はいるみてぇだな。
俺の疑問にエビふりゃーはすぐに答えた。
「いっただろ。ハズレ、ってな。召喚に適合する対象には条件がある。それは、召喚に立ち会った奴らの”関わりが深い者”に限定されるってとこだ。お前の他にも沢山いたはずだ。なのに、よりにもよってお前が召喚された」
……俺は星幾つだ?
「2くらいだ」
そうか……。
俺は、廃人共に顔を見せない様に背中を向けた。
俺の頬に、つーっと水が垂れていく。
レア度は指標だ。
人は生きていくために、レア度を求める。
ガチャで爆死し、課金して更に爆死し、諦めずに周回で石を集めて爆死する。その先の最高レアを見て、人は生きている実感をする。
俺は、レア度を否定された。誰でもない最高レア様に……。
く、悔しい…!
悔しいよ…おいら…っ!
お、おいらだって…!おいらだって…!☆6くらいに…生まれたかった…!
※レア度否定は、人格崩壊を招きます。
◇■◇
てくてくとよく分からん魔境を歩む俺達。
俺は隣の抹茶に先程からずっと気になっていたことを聞いた。
なあ、よぉ。
お前らが言っていた話なんだけどよぉ。ちょいとおかしくねぇか?辻褄が合わないっつーかよぉ。
「はい…?」
抹茶は酷く不思議そうな顔をして、首をコテンと傾げた。
お前らは随分な冒険をしてきたみたいだが、お前らがこの遺跡に潜ったのはついさっきだったはずだぜ?掲示板にも、同時刻にエビふりゃー共が潜ったっつー報告が何件もあった。
なのに、お前らはまるで何時間も冒険をしたみてぇに振舞う。どういうこった?
「……私たちは、既に遺跡で3時間ほど経過しています…つまり、そう言う事でしょうか…?」
……そう言う事か。
”体感時間の変化”。
アクセルワールドっつーこった。
どうやら、この遺跡での時間は随分と圧縮されて流れているらしいな。それならいいさ。最早、技術云々には触れねぇことにした。
ブラックボックス。タブーだろうよ。
技術に関しては。触れちゃ負けみてぇなもんだ。お前も気にすんなよ、抹茶。
「……こ、こわ~…」
抹茶は俺の話を聞いて、背筋を曲げて自分の体を抱く様に震えた。
メッセージも、ヘルプコールも使えねぇ。フレンド機能はほぼ停止してんな。分かるのは、オンラインか否かくらい。
まあ、一応召喚で呼び出された身だ。
いつでも戦えるように準備はしとく事に越したことはねぇ。
俺はセットしてあった《料理》スキルを《落下の心得》に変更する。
〈教唆者〉『ルート』Lv.3
〔Set・Skill〕
《ナイフ》Lv.18
《血液操作》Lv.14
《気配察知》Lv.18
《敵対知覚》Lv.15
《空間把握》Lv.9
《疾風》Lv.15
《落下の心得》Lv.13
《隠密》Lv.9
《拡大増幅》Lv.4
《呼応治癒》Lv.3
〔storage・Skill〕
《遠目》Lv.11
《敏感な察知》Lv.7
《鋭い嗅覚》Lv.6
《自然治癒促進》Lv.5
《料理》Lv.1
相変わらず俺本人のレベルは低いまんまだ。
ぺろりんは最近、Lv.5になったと言っていた。俺だってしっかりやってるのに、なんでこんなにレベルアップしねぇんだ。おかしいだろ。
俺はナイフを素振りして、《血液操作》を発動させる。
血液で幾つかの形を形成した後に、いつも通りの腕の形を二つ作る。結局この形が一番安定する。俺はその辺の廃人の頭をぶん殴り、調子チェックを図る。よしよし、しっかり動く。
その時、前の方から声が聞こえた。
「ストーカーが出たぞぉぉ!!」
その叫び声と共に、辺りの廃人共も一気に臨戦態勢に入る。
必死に付与魔法を張っていく抹茶に俺は聞いた。
「なぁなぁ、ストーカーって何?」
しかし、そんな俺の疑問なんて意に介してないかのように抹茶は必死に付与魔法を張り続けた。そこで気付く。こいつ、”接近反応感度上昇の付与しかしてねぇぞ…?
か、偏り過ぎじゃねぇか…?
もうちょい筋力上昇とかも掛けて良いんでねぇの?
俺は抹茶へとそう言った。
しかし、やはり奴の耳に俺の言葉は届かない。狂ったように接近感度系統の付与魔法を連打している。
どういうこった?こりゃ一体…。
俺が困惑のあまり、一瞬臨戦態勢を解く。その途端―――、
「――ッ!!!」
真っ黒い襤褸切れを被った化け物が俺の正面に出現し、巨大な鎌で俺の首をちょん切ろうとする。突然の事に、俺は一ミリも動けない。
しかし、そんな化け物を前に、廃人の一人が思い切りハンマーをぶち当てる。
――――ッ!!
鈍い音と共に、化け物が後ずさる。
て、てめぇ…、さ、さんきゅー…助かった…。
俺は、よく分からない感情がない交ぜになった状態で礼を言う。
「囮としちゃ満点の気の抜き方だったぜ」
そう言って、廃人は俺の方をちらと見た。
―――その一瞬、そいつの首は既に身体と離れていた。
「……あ?」
廃人が言う。
俺はその光景を、この目でしかと見届けていた。
え?なんでこいつ首とれてんの?新手の一発芸?
臨場感あり過ぎねぇか?特技の範疇に収まってないんだけど…
何もないところから、突如現れ、首を刈り取る。”ストーカー”なる怪物が、プレイヤー達の命を摩耗させる―――。




