記録.30『イレギュラー達』
離せぇ~!!!
俺達を開放しろぉー!ポイントの亡者共がぁ~!!!!
俺はエビふりゃーのギルド、【終着駅】のギルドハウスの一室で大声をあげて、扉を叩いた。
「解放しろー!」
「ランキング報酬興味ないわー!」
俺の行動に触発されたように、文ちゃんと明ちゃんも大声を張り上げる。
―――エビふりゃーは俺達を監禁した。
ポイントをこれ以上取得させないために。
ランキング一位に返り咲くために。
恐らく、それほどまでに奴の目には俺達が恐ろしいものとして映ったのだろう。それはとんだ間違いだ。俺達に廃人共に勝るスペックはない。
文ちゃんと明ちゃんは共に文明特化プレイヤーだ。
魔物に対する戦闘力は無いに等しく、ランキング一位二位から引きずり降ろされるのは時間の問題だった。
俺だってそうだ。
俺は廃人じゃない。
奴らのプレイ時間には到底叶わない。いつしか三位の座から引きずり降ろされる定めだった。
俺達がランキング最上位から名前が消えるのは時間の問題だ。それなのにエビふりゃーは俺達を頑なに離さず、そのまま監禁という術を取った。
なぜ!?どうして!!?
俺が叫ぶと、エビふりゃーはこう言ったのだった。
「お前はイレギュラーだからな」
その言葉を最後に、奴は重々しい扉を閉めた。
その時の文ちゃんと明ちゃんの視線は痛かった。アイツはまるで俺が悪いとでも言うかのようにその場を去りやがったのだ。
許せない……!
特別扱いされて悪い気はしないさ。
サイコパス診断でサイコパスの回答を選んだら、なんだか嬉しくなるだろう。中学生の発想と同じ、特別な人間でありたいという誰もが持つエゴだ。
ああ、そうとも。特別扱いは嬉しいさ。
だがな、エビふりゃー……てめぇは俺を見くびり過ぎた……こーんな分かりやすい場所に監禁してくれちゃってさぁ……!
〔ルート:すいません。ヘルプコール送ったんでその座標来てもらっていいすかきつねさん〕
こっちにゃ手の付けようがないイレギュラーサイコがいるんだぜ……けけけっ…!
一人の男が薄気味悪い嗤いを上げた。窓の外には夜の帳が下りていた……
「「ひ、ひぇぇぇ…」」
◇■◇
「ダストっちぃ~!」
狐面はコネでも使ったのか、ギルドハウスのマスターキーをもって俺達の前に現れた。いつもならば、舌打ちをかます俺も流石に狐面の称賛に回った。
いよっ!やる時はやる奴!世界で一番輝いてるよっ!
俺の言葉に気を良くしたのか、狐面は顔を赤らめてばしばしと俺の背中を叩いた。
ごふっ……!
俺と狐面のレベル差はかなりある。それ故に、この程度が致命傷になる。俺は血反吐を吐いて、地面に転がった。
「ご、ごみさん…!」
「そんな……っ!」
だ、大丈夫…。
まだ大丈夫だ。まだ内臓を盗られた訳じゃあない。元気ピンピンさ。
俺は虚勢を張った。
そうしなければ、今にでも地面に倒れ込んでしまいそうだった。
狐面の攻撃に敵意はない。敵意のある攻撃でなければ街で暴力行為を行っても牢屋には行かない。
狐面のそれは100%の好意だ。
俺はそれに答えなければならない。ここで勝手に血溜まりを作って倒れ込む訳にはいかないのだ。
さ、さあ…さっさとここからずらかろう…。
俺は満身創痍の身体に鞭を打ち、ポーションをふんだんに使いながら狐面達に言った。
マスターキーを持つ狐面を先頭にずんずんとギルドハウス内を進んでいく。
俺と狐面はギルドハウス内を進む中で廊下に飾られている魔物の模型や、レア魔物の剥製を自分の亜空間に放り込んでいった。やれる時に金集めとかなきゃね!
「ふふふ、ごみ溜めさんらしいね」
「そうだね」
ありとあらゆるものを詰め込む俺達。
帰ったらボロに高いもんを買ってやろう。きっと喜ぶぞ。
俺は先の事を思い浮かべ、にやにやと笑いを浮かべる。それを見た狐面が俺に問いかけた。
「なんでそんなに嬉しそうなの??」
あ?
狐面の疑問符のついた顔を見て、俺は哀れに思った。
そうか…こいつはボロの事を知らないのか…可哀想に。
ボロは国宝だ。ボロさえいれば俺の心は明るくなる。それは他の奴らだって一緒だ。ボロと過ごすだけでみんな幸せだ。
しかし、世の中にはボロに触れられない人種もいる。
例えばこの女だ。
狐面。こいつはボロに触れちゃいけねぇ。こいつの内臓をひり出す悪癖はいつどこで飛び出すか分からねぇびっくりボックスだ。
そんなパンドラの箱を抱えた奴とボロを邂逅させるなんてとんでもない。
俺は奴の疑問一杯の表情を見て、適当に流した。
「あ~?嬉しかねぇよ。いつもこんな顔だろ」
俺の誤魔化し方は完璧だ。
嘘をつくときに何か変な癖が出ない様に心がけている。癖一つで嘘がバレるのは厄介だ。エビふりゃーとかは、嘘をつくと右薬指がにぱにぱするという癖がある。そう言った分かりやすい癖はいつしか巡り巡って自分を苦しめる。
狐面は両手で俺の顔を挟み込む。
ぱちくりと無駄に顔が整った狐面の顔が俺の目の前にある。
「あ、あわわわ……」
近くの廃人二人がうるさい。
数十秒、そのまま時間が流れた。そして、狐面は言うのだった。
「そっか」
酷く呆気無く、そして何も感情が込められていない言葉。
その瞬間、俺は血の気がさーっと引いていく感覚を覚えた。
や、やばい……!
人は経験と失敗から学ぶ。
狐面が感情を無くした様に素っ気無くなる時は、決まって何かを企んでいる―――。
俺はそれをβ時代に学んでいる。
奴はβ時代、エビふりゃーたちが占領していた優良狩場の存在を全て跡形もなく破壊した。当時は爆発系統の魔法が最強と言われており、狐面もその魔法を扱う一人だった。
破壊された痕跡には、間違いなく何かが爆発した跡があった。
そして、俺はその狩場爆発事件の少し前に目撃しているのだ……。狐面の顔から感情が抜け落ちていく様を…。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓が高鳴る。
それは決して乙女心が駆動している音ではない。
これは恐怖の音だ。
目の前の女が企む何かがどうしようもなく恐ろしい。廃人随一の隠れサイコパス、きつね。奴の魔の手が俺の心臓を確かに鷲摑みにした……。
◇■◇
終着駅のギルドハウスから脱出した俺達は各自解散した。
文ちゃんと明ちゃんは遺失の欠片の詳細なテキストフレーバーを解読すると言っていた。
狐面はそこら辺をぶらつくと言った。
さーて、それじゃ俺も家に帰ろうかな……!
―――とはならない。
え?なに?「そこら辺をぶらつく」?
あんた馬鹿ぁ?俺がそんな言葉に引っかかるわけがねぇだろ。狐面が意味もなく町中を散策する事は無い。散策するとしても、基本的に奴は誰かと行動を共にする。奴の本質は寂しがり屋だ。街中を一人で散策する勇気なんて奴にはない。
俺の負の方向への奴への信頼は厚い。
俺は不自然にならない様に辺りを警戒しながら見る。すると、やはりというべきか建物と建物の間に隠れて此方の様子を窺う狐面がいた。
その表情は猫のように目を細め、口をキュッと噤んでいた。
探偵のつもりか?
そう考えた途端、狐面がいる場所の上空に傘を開いたプロペラが現れた。プロペラは空から何かを投下する。あれは……救援物資!?
赤い箱に青いパラセールの救援物資が狐面の元へと届いた。
奴はプロペラに手を振った後、中身から何かを取り出した。その中身はアンパンと牛乳だった。
ふん……
あいつ、形から入るタイプか…。
探偵ごっこセットが届いた狐面を見て、俺は俄然やる気が沸いた。
アイツの企み、俺が粉砕してくれる…!
俺は屋台で買った肉まんを頬張りながら、アンパンにがっつく奴を睨み付けるのだった……。
…あ、やべ。視線合った。




