記録.29『文明遺跡』
今回は真面目です。
〔プレイヤーランキング〕というシステムがある。
言ってしまえば、プレイヤーの様々な功績をポイント化し、ランキング形式にしたものだ。週間と総合ワンシーズンに集計期間が分かれ、上位の者には多くの報酬が渡り、下位の者にも少しでもポイントを集めていれば多少なりの報酬が貰えた。
誰もがほくほくと思わぬ棚ぼた報酬を喜んだ。一部を除いて……
そう。そんなシステムが追加されれば、廃人共はより一層ゲームにのめり込む様になる。更に、このシステムはプレイヤー間の争いを激化させるものでもあった。
誰かが誰かを殺せば、殺された者にはデスペナルティがつく。
そうすれば、ポイントは稼ぎづらくなる。
殺し、殺され、奪い合う。
ありとあらゆるものを破壊し、血みどろのランキング最上位を手にする。
これは、争いを助長する火種。
血で血を洗うプレイヤー達の醜き戦いが各地で勃発した―――。
◇■◇
「ここにあるってほんとぉ~???」
「マジマジ~マジンガ~」
俺は文明特化型の廃人二人組に依頼される形で奴らの遺跡調査を手伝っている。
奴らの持つ《文明知覚》のスキルは非常に便利だ。
まず遥か過去に文明が存在した位置を粗方特定できる。そして、そこがどのような文明であったのかすらも。そこから、文明解析を行い、遺失の欠片への手掛かりを得るのだ。
先程からよく分からない動作を繰り返す廃人共。
傍から見りゃ、地面の蟻でも観察しているようなキチガイさん達だ。俺は奴らに問いかけた。
「おい、一体いつまでそうしてりゃ気が済む?もう二時間はこうしてるぞ、ああ?」
買っておいた飴やら団子はずっと前に切れてしまった。
これならば、ボロも一緒に連れてきて鬼ごっこでもしてるんだった。
そう考えるが、俺はすぐにその考えを打ち消した。
俺の目の前にいるのは過去の遺物に詳しい文明プレイヤーだ。下手にボロを関わらせて、何か勘付かれたら俺はこいつらを抹消しなければいけなくなる。
こいつらは腐っても第一線の文明廃人だ。
突然いなくなったりでもしたら、恐らく騒がれてしまう。
そうこう考えている間も廃人共はぶつぶつと地面を弄繰り回す。
帰ってしまおうか?
恐らく帰ってもこいつ等なら平気だ。前金も貰ってるし、二時間以上も付き合った。とんずらこいても許されるだろう。
俺は奴らが未だに地面弄りをしているのを確認し、忍び足でその場を離れようとした。その時―――、
「き、ききき、キタ――――――――!!!」
「仮説はあってたんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
背後が強く光り輝く。
俺が咄嗟に振り向くと、そこには先程までの地面には無かった筈の古代材質で造られた扉が顕現していた……。
古代文明の扉が発見される事は極々稀だ。
それこそ〔Unique・Skill〕のドロップ率とまではいかないが、ほぼそれと双璧を成すと考えて良い。
俺はすぐさま奴らの傍に走り寄り、先程までの気持ちが嘘のように抱き着いた。
すごーい!!
こ、これが遺跡への入り口ぃぃぃぃ~!!!?
俺と廃人共は抱き合って喜んだ。
こんな場面に遭遇する事なんて滅多に無い。更に目の前で文明遺跡への扉が開かれているとなれば、《文明知覚》を持つ者ならば涎を垂らして羨ましがるだろう。
廃人共が俺の袖を引っ張り、出現した輝く扉を指さす。
「い、いこうよ!ごみさん!」
「早く入ろっ!閉じちゃう前に…!」
ああ!急ごう!
俺達は扉に向かって走った。すると扉はより一層神々しく光り輝く。その時、突然俺の心に嫌な予感が降って沸いた。
ま、待て!待ってくれ!
い、嫌な予感がする…!どうしようもなく嫌な予感がする…!おい!文ちゃん!明ちゃん!止まれ!止まってくれ!なにか、なにか予感がするんだ…!
俺は、俺の両手を握って前を走る二人の廃人の名前を呼び、停止を呼びかける。
「な、なに言ってるの!」
「ここまで来て行かないなんてありえないよ!?」
で、でも…!
俺だって行きたい。行きたいさ。でも、それじゃあこの予感はなんだ!?暗雲立ち込めるようなこのどす黒い予感はなんなんだ…!?
俺は必死に足を止めようとする。
しかし、二人に引っ張られて俺の歩みは止まる事を知らなかった。
扉の直ぐ傍まで来た途端、俺達の身体は動かさずとも勝手に扉へと吸い込まれるように宙に浮いた。こ、これは……!?
「す、凄い…!これが、過去の力……」
「感動だぁぁ……」
くそくそくそ!
逃げられねぇ!避けられねぇ!運命が確定しやがった!俺達はもうこの扉に入る他無くなった!
……ええいままよ!
俺はヤケクソ気味に吹っ切れて、空中でクロールをしながら扉へと突っ込んだ。
そして世界は白に染まっていく――――。
◇■◇
「ごみさん!」
「ごみ溜めさん!起きて!ねぇ!」
俺は廃人共の切羽詰まった声を聴いて、目を覚ました。
なに、どしたの?なんかあった?
頭痛が酷い。
俺が頭を押さえて声がした方を向くと、そこには誰もいなかった。
………?
おい、文ちゃん?明ちゃん?
どこ行ったんだよ。さっきまで呼んでたろ?おーい、……???
訳が分からない。
しかし、何かが起きているという事だけは把握した。
俺はその場から立ち上がり、辺りを見回した。辺りは草原だ。いや、というよりかこの光景は見覚えがある。〔シンリン〕の街がある森の直ぐ傍の風景だ。
俺は、とりあえず情報情報収集の為に〔シンリン〕があるはずの場所に向かおうとする。その時、何かに引っ張られてツクテーンと転がった。
ああん!!?
なんだこらおい、突然何してくれ、と、んじゃ………
俺は引っ張った奴を怒鳴り散らかそうと後ろを向くが、そこには誰もいなかった。
おかしい。何かがおかしい。しかし、一体何がおかしいんだ?
俺は妙な違和感を持って、その場から走り去った。
〔シンリン」に辿り着くと、誰一人としてプレイヤーはいなかった。
こんな事は初めてだ。
基本このゲームでプレイヤーが街から人っ子一人いなくなる事は無い。今はプレイヤーランキングのせいでほとんどのプレイヤーが外に出ているとは言え、ルーキー共の一人や二人いてもおかしなこたねぇ。
……?
今、また誰かに引っ張られた。
しかし、周りには誰もいない。俺は訳が分からない、と自分の家へと向かった。
こういう時はやっぱ寝るに限るぜ。
玄関を開け、コタツのある和室へと入った。―――そこにはボロがいた。
「お、よぉ~。ただいま」
俺はそう言ってボロに向かって手をひらひらと振った。
そして、コタツの中に足を入れる。
いやー、やっぱ外寒いわぁ。あ、なんか外誰もいなかったんだけどさ~、なんか知ってる?抹茶から何か聞いた?
俺がそう問いかけても、ボロは何も返事をせず、神妙な顔でこちらの顔を覗き込んでいた。
そして、ボロは俺の顔を見て、言うのだった。
「―――かえって」
その瞬間、突然耳鳴りが訪れ、瞼が微睡みを訴えるように重くなり、そのまま閉じた。
すぐに耳鳴りは収まり、瞼の重みを消え失せた。
「ごみさん!直った!?治った!?はやく、早くここから逃げよう!」
「お、遺失の欠片は、回収はした!ここ駄目だ!初期の地獄楽と同じ!化け物しかいない…!正気に戻ってよ!ねぇ!」
俺に突然起こった不調が消えてすぐ、廃人共の声が頭蓋に響いた。
その時、俺は光る扉を通って、文明遺跡へと来ていたことを思い出した。
え、なに?
お前らオーパーツ回収したん?最強やん。
もう帰っていいの?こんなとこ滅多に来れないんだからよぉ。もっと遊んでこうぜぇ?勿体無いじゃんかよー。
軽口を叩いた俺を見て、廃人共は何故か安心したように息を吐いた。
しかし、それも束の間すぐに表情をキッと引き締めて俺に言った。
「正気なら聞いて!扉からすぐに戻るよ!」
「つべこべ言わず!足動かして!」
お、お、おおお。
俺は廃人共に無理やり押されて扉へと放り込まれる。
視界は再び白へと染まる―――。
◇■◇
再び目を覚ますと、そこは廃人共が扉を開くのに成功した場所だった。
光輝く扉があった場所を見ると、そこは既にただの地面であり、アリが行列を作って行進していた。
すぐ傍には廃人二人が転がっている。
おい、おい、起きろや。
おーい、お前ら大丈夫か?生きてますかー?元気ですかー?
俺の幾度かの呼びかけと揺さぶりで奴らは目覚めた。
目覚めた廃人共は、まず辺りを見回して、すぐに長い溜息をついた。
訳が分からん。
俺が疑問を浮かべていると廃人共は俺の顔を両手で挟み、こう言った。
「しょ、正気だよね!?僕らのこと見えてるよね!!?」
「ええ…?」
こいつは一体何言ってんだ。さっきからこいつらの行動はイマイチ要領を得ない。しかし、もう一人の廃人も俺の顔を心配そうに見つめている。俺は、訳が分からなかったがとりあえず答えた。
「しょ、正気だ正気。何言ってんだよお前ら」
そう言うと廃人共は酷く安心したように、また長い長い溜息をついた。
聞くと、俺はあの扉をくぐった後、一時的に廃人共が見えなくなっていたらしい。なんとか気付かせようと服を引っ張ったり大声を出したりしたのだが、反応なし。
俺が自分の家に着いて、コタツに入ったところで、突然俺は何も喋らなくなり、廃人共の言う事を聞く人形となっていたらしい。
その後は大冒険も大冒険。
怪物出現、オーパーツ回収、扉発見とイベントが進み、そこで俺の意識が目覚めたらしい。
「でも良かったねぇ」
「そだねぇ」
うんうん。
良かった良かった。
俺は何もしてないけど良かったねぇ。
俺はうんうんと頷き、廃人共と手を繋ぎ、円になって踊った。
そこで気付く……
俺の右手を握っている手が、ぬるぬると汗を分泌し出していることに……。
こ、これは……!
俺はすぐにその場から離れようとする。しかし、気付いた時には全てが遅かった。
〔プレイヤーランキング〕。
それはプレイヤーの様々な功績をポイント化する。
その功績がオーパーツの発見、確保に貢献したとなったら、そのポイントの増加は計り知れない……。
そう。
つまり、俺達三人は既に死んでいるのだ……。
俺の手を握るエビふりゃー君が艶めかしく汗で湿った手を動かした。
「ねぇ……味方?それとも敵?」
辺り一帯を廃人達が囲む。
それは暗にこの場から逃げられないという事実を指していた。
「うえーん」
「ぴえーん」
「ぶえーん」
三人のプレイヤーの泣き声が辺りに木霊する。
プレイヤーランキング1位『文』、2位『明』、3位『ルート』、……確保…!
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