記録.26『コラボ』
やはり、家を持つと人は落ち着きを得る。
守るものが増えたと感じるからだ。俺にだって守るべきものはある。
俺は、コタツに入っている連中の顔触れを見る。
美味しそうに蜜柑をパクパク食べるボロ。
その横でミカンの皮を剥いてやっている健気なララ。
切り屑が机に落ちる事を厭わず、彫刻でタケコプターを彫るプロペラ。
ボロとララは守るべき存在だ。
ララに至っては守られてばかりだが、廃人に片足を踏み入れている者とそうでない者の差は大きい。俺は廃人ではないのでしょうがないのだ。
そして、プロペラ。こいつは論外だ。守るべきものじゃない。
なにせ、こいつは一人で生きていける。俺が親鳥をやる必要はない。
俺はホットミルクを啜り、剣呑な目付きでプロペラを睨んだ。
消すべきか?いま、ここで。
街で過度な暴力行為を働けば、牢屋へと送られる。しかし、借りている家の中ならばその例は当てはまらない。
奴の首を掻っ切る……!
そう決めた途端、俺の腕はしなる様に奴の白い頸へと向かった。
迫りくる凶器。蒼白い軌道を描き、俺のナイフは奴の頸動脈を――――、
―――一つの生物の命を奪う瞬間、それを阻止する様に景色が切り替わった。
「あ……?」
俺は、一瞬惚けるがすぐに再起動する。
なんだこりゃ。転移魔法か?そんな魔法存在していたのか?ユニークスキルを誰かが引き当てた…?……ここはどこだ。ボロが危ない。
辺りは山岳。
時間が惜しい。もしもボロに何かあったら、俺はこの世界をただじゃおかねぇ。すぐに行動を始めるべく、一旦辺りの情報を集めようと―――、
「やあ!僕はチュートリアルナビゲーターのナビ!『Only luck your side』コラボの説明を致します!」
「…どういうことだおい」
「あ、あれ?告知していましたが……えっと、『Only luck your side』というゲームとのコラボです!しばらくの間、コラボの〔バトルロワイヤル〕モードが追加されるので、初めの一回は強制参加です、と告知したのですが…」
…確かにそんなアナウンスが流れていた気がする。
家を買って浮かれていたから碌に聞いていなかった。くそ、やっちまった。
「ボロは無事か?」
チュートリアルナビゲーターに聞いても仕方が無いのかもしれないが、一応こいつもゲームシステムの一部だ。ボロと同じゲームシステムという部類だから、分かるかもしれねぇ。
「ボロさんですか?コタツで今は睡眠をとられております。他に何かご質問はありますか?」
ナビは優秀だった。
ちょっと馬鹿にして悪かったな。お前はルーキーやら廃人共よかよっぽど使える有能君だよ。俺が保証するさ。
お前はゲームの最初にしか出てこない空気薄男君だけどよ、俺はそうは思わないぜ。お前は良いやつだ。えらいえらい。その調子で頑張れよ。
「………ありがとう、ございます?」
その後、ナビは『Only luck your side』の説明をした。
『Only luck your side』。
概要は言っちまえば、異能力バトルロワイヤル。
最初にランダムで配られた一つの基本能力と三つの異能力を駆使して、百人ぶっ殺して、最後の一人に輝けっつーものだ。まあ、細かく言えば二人チームが五十つなので、最後の二人に輝けだがな。
ナビは簡単なルール概要を説明し、俺にガチャガチャを回させた。
『Only luck your side』は『Soul・Learning・Online』と同じ会社が運営をするゲームだ。つまり、自社ゲームのコラボ。宣伝したいっつー思惑がちらちら垣間見えるぜ……クソ運営共が…。
しかし、今はゲームだ。
のってやるよ…その思惑に……散々楽しんでやるさ…!
がちゃりがちゃりとガシャポンマシンがガタガタと音を鳴らす。
中から三つの玉が出てくる。俺がそれに触れると、玉は光となって、俺の心臓に無理やり入り込んだ。う、うごごごご!!
ごがががががが!
ちょ、物理的に心臓入ろうとしてないこれ!?しょ、衝撃が半端じゃない!やばいって!ねぇ!このままじゃ心臓が背中からすっぽ抜けてっちゃうってこれ!
「そういう設定なので」
こ、こいつ…!
どんなゲームだよこれよぉ!し、心臓が…、暴れ狂って…ががががごごごごぎぎぎぎぎぎ!!
数分悶え苦しみ、やっとその苦しみから解放された俺の前に、一つの基本能力と三つの異能力が提示された。
【獲得PERK】
PERK:プレイヤーの皆様に配られる異能力の正式名称です。
レア度:C<UC<R<SR<UR<LR
レア度は強さ換算ではなく、どれ程そのPERKが異質かでレア度が設定されます。
―――――――――
基本能力名:発火
手を勢いよく擦らせた時に、指定の位置に発火現象を引き起こす
―――――――――
C「草臥れたナイフ」
攻撃能力に+補正。
攻撃が当たった時、疲労状態にする
―――――――――
R「アディショナル」
自強化系のパークの効果を10%上昇させる
―――――――――
UR「星の魚群」
星空の下にいる場合のみ発動可能。
星々の魚を呼び寄せ、対象に突撃させる
―――――――――
「では、ご武運を」
ナビは、その言葉を最後に俺の前から姿を消した。
辺りに広がるのは高低差の激しい山岳地帯。視界の左上には、【仲間との合流0/1】と表示がされている。つまり、俺はまずこのバトルロワイヤルで仲間との合流を果たさなければならないらしい。
クソだりぃがしょうがない。
視界の右上には簡易マップが表示されている。
そのマップを凝視すれば、全体マップが表示される。少し遠くにその仲間がいると思わしきピンが刺さっている。そのピンも俺のいる方角に向けて移動をしている。さっさと合流したい気持ちは同じらしいな…。
俺は、地を蹴って走り出した。
いつもよりも体が重い。自分を手助けしていたLvやSkillはなく、代わりにあるのはPERKというよく分からん力。
しかし、それは他の奴らも同じはず…。
俺は仲間との合流の為に最短ルートを駆け抜けた。
◇■◇
「てめぇが仲間かよ、ドクター」
「ルート氏!貴方が味方とは心強いですな!」
無事合流した先で待っていたのは、喜ばしいとは思えない仲間との邂逅だった。
奴の名は『ドクター』。
回復魔法を得意とする文明探索型の廃人だ。
こいつの知識が底知れず、そして回復魔法の腕も一級品なことからプレイヤーネームそのままで、ドクターと呼ばれる。
ゴーグルとペストマスクを相変わらず引っ提げ、奴は嬉しそうな声色を隠すことなく俺に話しかける。
「任せてください!私このゲームの経験がありましてね……」
ぺちゃくちゃと喋り倒すこいつの存在を無視して、俺は毒霧が来ない中心を目指して歩き始めた。このゲーム、他のバトロイと同じ様に範囲縮小型のバトルロワイヤルだ。一定時間たてば、生存範囲が狭まり、必然的に生存者と出会うっつー寸法さ。
てくてくと歩く俺達。
相も変わらず豆知識を披露し続けるドクターを尻目に、俺は敵影を見つけた。あれは……
「おい、敵だ。ありゃ…廃人共だ…」
俺とドクターは身を屈ませ、二人組のプレイヤーを見る。
あいつらにゃ見覚えがある。ありゃ、廃人共のタンクとアタッカーを担っている連中だ。廃人が多いぞ…?こんなもんか…?
俺の考えを聞いたドクターは小さな声で俺に言う。
「恐らく強さでテーブル分けされているのでしょう。廃人達は廃人で、初心者たちは初心者で、と。『Only luck your side』にも似たシステムがあります」
マジかよ。
じゃあ雑魚狩り出来ねぇじゃねぇか。俺普通にルーキー共を食いもんにするだけのヌルゲーだと思ってたぞ。
俺は、自分の認識が間違っていたことにショックを覚える。んだよ、簡単なゲームじゃねぇのかよ…ガチのデスゲームしなきゃじゃねぇか。
「おい、夜はいつだ」
俺のPERKである「星の魚群」は夜の星空がある時にしか発動できない。
俺の持つPERKの中で最も攻撃手段として有効なのは「星の魚群」と基本能力の「発火」のみ。武器も何もまだ持っちゃいない。
だからこそ、俺が最も輝くのは夜だ。今は太陽の位置からして昼間。このゲームがどれほどの周期で昼夜が切り替わるのかが知りたい。
「夜は恐らく約十分後です。本家では二十分毎に昼夜は入れ替わります」
ならば仕掛けるとしたら十分後。このまま尾行するのは得策じゃない。
ドクターと俺は、各地に落ちているらしい武器を求めてその場を離れようとした、その時――――!
「――ッが!?」
突如、俺の身体が後ろへ引っ張られる。
その引力は凄まじく、俺の身体は宙に浮き、そのまま勢い良く背後へと吹っ飛ばされた。
「る、ルート氏!!」
ドクターの伸ばした手は悔しくも俺の右手とかすり合い、掴むことは叶わなかった。
俺は、宙に浮きながら引っ張られるこの現状をどうにかすべく、背後を向く。その先には、やはりというべきか廃人共がいた。
俺はそいつら目掛けて手を思い切り叩く勢いで擦り合わせた。
その瞬間、廃人の一人の手元が発火する。いきなり起きた現象に奴は武器を取り落とす。しかし、それと同時に俺の身体は地面へと叩き付けられる。
こ、これは……「重力」か……!
「ごみ溜めぇ…どんな気持ちだぁ??這い蹲る側の気持ちはよぉ」
「てめぇ…」
廃人は俺の傍まで来て、煽り散らかす。
しかし、重力のせいで上手く手を擦り合わせる事が出来ない。や、やばい…!やられる…!まだ夜も来ていない。他のパークはパッシブ系だ。こ、ここまでか…
諦めかけた時、俺と廃人共の周りを灰色の煙が包み込んだ。
「な、なんだ!?」
「おい、どうなってやがる!?」
ぶんぶんと空を切る音が聞こえる。
恐らく、廃人共が武器を振り翳しているのだろう。
俺へかかっていた重力が解かれる。
しかし、武器を振り回す廃人と、訳の分からない煙を警戒して中々立ち上がることが出来ない。しかし、出来る事はある。
俺はすぐそばまで寄ってきた廃人の足を払い、転倒させ、そのまま首をロックする。
「…!?て、てめ、ごみ、たッ…!めッ……きゅう…」
一人を落とし、発火能力で燃やす。
これで一人は片付いた。あと一人、どうにか……そう考えた途端、辺りの煙が晴れ始める。
その晴れた先で、ドクターがもう一人の廃人に足を掛けて立ち尽くしていた。
勝った…勝ったぞぉぉぉ!
俺とドクターは互いに喜び合い、手を取り合った。辺りは酷く焦げ臭い。しかし、俺達の心の中は酷く明るかった。
そして、俺達は大声で喜び続けた結果、エビふりゃー君に漁夫られて死んだ。
◇■◇
「……」
「……」
俺とドクターは互いに顔を見合う。
喜びもつかの間、本物の悪魔が俺達を瞬く間に蹂躙した。「星の魚群」は使わせてもらえず、ドクターのPERKもほぼ腐った。
そして、始まる…!
たった二人の戦犯探し…!
「もうちょいさー、冷静にやれたんじゃねぇの?お前経験者なんだろ?」
「それもこれもルート氏が重力に引っ張られなければよかった話ですよ」
「いや、無茶あるでしょ。ありゃ初見殺しみたいなもんだぞ」
「だとしても、私が出した霧のお陰で助かりましたよね?」
「助かったけど、仲間なんだから助けるのは当たり前だろ」
「ですが、事実として助けられているのですから、お礼の一言くらいはあってもいいんじゃないですか?」
「いやいや……あのさぁ」
「いえいえ……ちょっと」
「―――」
「―――」
人は皆、ギスギスするもんだ。
カタンをやってギスり、人狼をやってギスり、桃太郎電鉄をやってギスる。ゲーマーは皆、ギスギスの隣で生きている。親しき隣人様ってやつだ。
だから、俺は大丈夫。
ギスっても「仕方ない」の一言で終わらせられる。
だから、早く言えや…!クソドクター…!
てめぇのその一言で、俺はてめぇを許してやるからよぉ……!
先に折れた方が負けなのである。
これは、ゲーマーたちの心理合戦。
ごみ溜め君は言わせたい
~ゲーマーたちのギスギス頭脳戦~




