記録.24『ニューシティを発見せよ!』
街には住宅が存在する。
それはプレイヤーが住む事の出来る賃貸みたいなものだ。勿論、購入することもできるが、そんな金を溜めることが出来る者は限られている。
俺はボロが共にいる事になった以上、家を持つ必要が出てきたのだ。
俺はボロとずっと一緒にいれる訳じゃあない。
それに危ない事も多い。そうなった時、ボロがいたら危ない。その為、家で待機してもらう必要がある。
それに家は意外と馬鹿に出来ない効果もある。
まずログアウトを家でし、ログインした時、プレイヤーに全能力バフが掛かる。そして、何も食べていなくても満腹数値も回復しており、金やアイテムも預けることが出来る。
PKが盛んなこのゲームでアイテムや金を預けられるという要素は大きなアドバンテージだ。
実際、かなりのプレイヤーが家を持ち、廃人は基本一等住宅を購入している。
俺だって、家が欲しい。
しかし、残っている家の立地がゴミなのだ。
家には、見えていないだけで多重に世界が重なっている。その為、基本住宅が枯渇する事は無いが、あまりに多くの入居者が現れてしまうと、サーバー負荷回避の為にその家への入居が不可能になる。
良質な家のほとんどは今その状態なのだ。
残っているのはゴミ家と、地下都市の家だけ。
俺は土竜みてぇに土の中に住むつもりはない。そうなると俺のやるべき事はただ一つ。
―――新たな街を見つけるのだ。
◇■◇
「ダストっち~……ほんとにこっちあるの~」
鬱蒼と生い茂る森林。
弱音を吐いて、上目遣いでこちらを見る狐面。
俺は息を荒げながら、言った。
「鉱山都市があった方角とは反対にきてんだ。一個くらいあったっておかしくねぇ」
襲ってきた蜂型の魔物を倒しながら俺達は進む。
この辺一帯も恐らく既に廃人共が手を付けた跡だ。もっと先に進まなければ街の発見は厳しい。俺は遅れだした狐面を見る。
あいつ、チャイナ服みてーな動きづらい格好で来るからあんなすぐにへばりやがるんだ。似合ってはいるが、お洒落だけで生きていけるほどこのゲームは甘くねぇぞ。なあ、決戦兵器。
「それ嫌味だろ。なあ、嫌味だよな?」
《血液操作》奪取の件で貸しがあった決戦兵器もついでに連れてきた。
こいつはなんだかんだ有能な奴だ。
様々な機構が体中についているからありとあらゆるオーバーテクノロジーを使うことが出来る。現に今、決戦兵器には”探知”と”足跡可視化”を使い、廃人共が出来る限り通っていない道を調べながら行進している。
《血液操作》を発動させ、辺りの魔物を蹴散らす。
やっと追い付いた狐面に俺は文句を垂らし始める。
お前よー、体力ないんじゃねぇの?肉食えや。〈魔導士〉だからってスタミナ無くても良い時代はとっくに終わったんだよ。今最も欲しがられるのは器用な万能者だぞ。おい、分かっとんのか。シャキッとしろや。
「ちょ…う、うるさ……」
狐面はそう言って、その場に座り込んだ。
玉となって顔を伝る汗が艶めかしい。俺は仕方が無いといった具合で、一旦休憩を挟む事にした。決戦兵器もオーバーテクノロジーを一気に行使しすぎている節がある。一旦クールダウンさせる必要があるだろう。
俺と狐面、そして決戦兵器はその場で水を飲んだり、武器の確認をした。
「プロペラっちは?」
「さあ?」
あいつを最後に見たのは「上から見る!」つって木に登っていったところだ。そこから暫く待っても降りてくる気配がなかった為、先に進んだ。奴は恐らく、今頃植物に雁字搦めにされて、養分を吸い取られているだろう。
それだけならまだしも、ここは日の光も碌に入らない深い森だ。
この中で樹精霊にでも出くわしてみろ。俺達は恐らく全滅する。
森林に生息するものは総じて厄介だ。
樹精霊に食人植物、蠢く蔦に毒霧の実。
全てが全て、対処が難しく、そしてそれに見合ったリターンがあるわけでもない。正直、美味しくない。しかし、だからこそ他の場所よりも廃人共の足は伸びていない。
見つかる可能性は一番あるのだ。
俺達は一しきり休憩を終え、また歩き出した。
ボロは今頃、何をしているだろうか。抹茶が遊び相手になっているだろうか。あの女はなんだかんだで面倒見がいい。きっと遊んでくれているだろう。
羨ましい。
俺もボロと遊んでいたい。
いい加減、スキルのレベルも上げないと。
俺自身のレベルだって、経験値の総量から行ってそろそろ4レベルになるはずだ。そうしたら大分周りに近付ける。廃人共は恐らく二桁いっているだろうが……
家を幾らくらいで借りようかと、俺は悩む。
流石に俺「…い…」の残高じゃ購入は出来ないので、賃貸に住む事になる。出来れば2LDK最低欲しい。風呂とトイレも分かれていて欲しい派だ。
かなり高くなってしまうだろうが、「……い!」仕方ない事だ。
少し、眠くなってきたな。
せっかくだ。少しだけ眠らせてもらうとするか。
俺は、酷く心地よ―――「おい!!!」
ぱん、と。
頬が叩かれ、我に返る。
い、一体何が。お、俺は今寝ようとして…
「ああ!?んなことよりあれどうにかしろや!んだよあれ!聞いてねぇぞ!!」
決戦兵器が叫びながら、指を差す。
その指の先には黒い果実が身体中に生っている巨大な羊がいたのだった―――。
「……」
「……」
俺と決戦兵器は数秒見合う。
俺達は、あの魔物を知っている。
遥か彼方の記憶。
それはβ時代に遡る。
あの羊の名は〔フォレスティアシープ〕。
身体中についた果実が割れると、その中から花粉が発生。花粉を吸った者の意識を奪う。恐らく、俺は先程その花粉を吸い込んでしまった。
しかし、怠い事になった。
あいつは、紛れもなくボスだ。
そして、〔フォレスティアシープ〕の背後に見えるあれは……
「街だ」
「街だなぁ」
そう、街である。
遂に俺達は街を発見した。
正直、見つかると思っていなかった。狐面とプロペラという二大足手纏いを連れての行進だ。そりゃ事が上手く進む筈がない。
しかし、プロペラの早々離脱によって予想よりは順調に進んでいた……あ?そういや狐面どこ行った?
俺は、咄嗟に奴の存在を思い出し、辺りを見回す。
しかし、奴の影を捉える事は出来なかった。一体奴はどこに……?あいつの格好は黒いチャイナ服だ。よりにもよって茂った森林でそんな恰好をするので、なかなか発見することが叶わない。
「あ!」
やっとこさ見つけた奴は、〔フォレスティアシープ〕の毛の中に埋まり、顔だけが見えていた。
え……ええ?
わ、訳が分からないよ。
どうしてあんなことになってるの?問い質したいよ。
俺と決戦兵器は二人してドン引きした。
狐面はもう駄目だ。あんな訳の分からない事をしている以上、恐らくもう正常な理性を保っていない。あいつには申し訳ないが、尊い犠牲になってもらおう。
貴重な情報とはな、犠牲の下に成り立っているんだよ…!
俺と決戦兵器は、二人して同時に走り出した。目指すは〔サイショ〕の街。逃走成功条件は、廃人共にこの情報を伝える事ただ一つ。
二人は、一つの意思を持って地を蹴っていた。
そして次の瞬間、俺と決戦兵器は蠢く蔦に足を取られ、そのまま〔フォレスティアシープ〕に向かって、投げ飛ばされた。
あーれー。
空中で決戦兵器と目が合う。
ばちり、と火花が散り、二人の意見が合致した。
『一人が一人を踏み台にすればどちらかは生き残れる』。
お互いが理解した途端、空中での取っ組み合いが始まった。
勝てば一人の犠牲の下、もう一度逃げるチャンスを得る。
負ければ、悲惨なまでの犠牲が待っている。
俺は血液腕を作り出し、奴の腕を掴み幾度となく腹パンをした。
しかし、決戦兵器は腐っても廃人。そんな攻撃効かないとばかりに掴んでいる俺の肩に力を入れる。
い、いたたたたたっ!!!
こ、こいつ!どんな馬鹿力だ!や、やばい!肩が捻切られる…!ど、どうにか…!どうにかしなければ…!
しかし、最早どうにもならなかった。
俺の肩は捩じ切られ、胴を思い切り蹴られた。く、そ…。
踏み台にされたことにより、急激に加速した俺はそのまま〔フォレスティアシープ〕の毛に突っ込んだ。ふわふわとごわごわの中間のような柔らかさが俺を襲う。
そして数秒後、俺の顔面の目の前にオーバーテクノロジーが突っ込んできた。
「………」
「………」
そのオーバーテクノロジーは、間違いなく決戦兵器その人だった。俺達は、互いを見合って、笑った。こんな日があるのも、悪くないな…。
俺達はごわごわの羊毛の中で静かに手を握りあった……。
…コロ…シテ……タス…ケテ……




