記録.22『幼女趣味とは言わないで』
「エビふりゃーくぅん」
俺が奴に話しかけると、奴はビクリを肩を震わせる。
ふふふ、こいつ…立場を分かっていやがるな…?これは使える…!使えるぞ…!
俺が握っている情報はエビふりゃーが隠したがっているこいつの職業についてだ。
仲間にすら話していないエビふりゃー自身の職業。
恐らく、話そうとしない理由は職業効果が強力なものだからこそだ。しかし、職業が強力なものほど、その力を発揮するための条件が重かったり、デメリットが存在したりするもんだ。
俺の職業である〈教唆者〉も例外じゃねぇ。
全能力が-補正が掛かる代わりに、言葉が強くなる。未だに言葉が強くなるっつー意味は理解しかねるが、きっと俺の気付かないところで効果は発揮している筈だ。
「《猟るる糸》…だっけ…?」
エビふりゃーの職業が強制進化を果たした時、こいつは〔Unique・Skill〕を手に入れた。その名は《猟るる糸》。
随分とそのスキルゲットしてから調子乗ってんじゃねぇの?ああ?
ありとあらゆるところで俺Tueeeeしてるらしいじゃないの。羨ましいねぇ。
「……ルート」
お前の職業はなんだ?
〈仇なす者〉か?
〈禁忌に触れる者〉か?
〈翔ける者〉か?
〈恐怖達〉か?
〈怠惰〉か?
〈断罪者〉か?
〈治癒天使〉か?
〈騒音〉か?
〈不運の渦〉か?
〈卵〉か?
〈暴食〉か?
ああ、〈治癒天使〉はねぇか。お前治癒系のスキルもってないもんな。絞ろうと思えば、絞れるぞ。
「やめろ」
〈騒音〉、〈不運の渦〉、〈卵〉も無いだろうな。ここら辺はお前の強さの原因になり得ない。ユニークである《猟るる糸》っつー名前とも合わないよな?
「やめろ」
〈翔ける者〉、〈恐怖達〉も違うなぁ。
お前の戦い方は確かに空中殺法を多用しているが、お前はそこに固執するほど馬鹿じゃない。それに、お前の戦い方に”達”っつー言葉が入るのは些か可笑しい。
お前の戦場には、結局お前ひとりが立っている。そうだろ?英雄サマよ。
「やめろ」
っつーことは〈仇なす者〉、〈禁忌に触れる者〉、〈断罪者〉か?
正直、残り二つの〈怠惰〉、〈暴食〉は勘弁してくれよ?七つの大罪系統の職業は恐らく関わっても良い事がねぇ。なんとなくの直感だが、そう感じる。
いやー、しかしそうなると分かんねぇなぁ。
残り三つが俺の絞り込めるラインだな。なあ、どう思うよ。エビ野郎?
「……俺の負けだ」
そうか。
俺の勝ちだ。それじゃあ言わねぇ代わりに俺の言うことを聞け。
俺が求める事は二つ。
一つ、てめぇのユニーク《猟るる糸》のテキストフレーバーを送れ。
二つ、お前が率いるギルドバトルに俺を出させろ。
どうだ?お互いwin-winな取引にしようぜ?なあ。
「〈教唆者〉…間違いなくその効果働いてるぜ…」
エビふりゃーは、そう言って苦虫を噛み潰したような顔を浮かべたのだった。
◇■◇
エビふりゃーは、一度決めたことは基本的に筋を通す男だ。何か変な企みがない限りは、という付属がつくが。
《猟るる糸》
それは、貴方がいつか夢想した力の欠片。
弱き者が持ったとされる非力なまでの弱者の力。
弱者よ、弱者。貴方は英雄足り得るか?
相手の隙に繋がる糸を朧気に認識する。
「……」
「……」
「た、炭治郎さん……」
こ、こいつのユニーク…隙の糸じゃねぇか…。
こいつ…まさか第二の炭治郎に…?
や、やばい…!か、狩られる…!長男か否かのマウント合戦が始まる…!お、俺は長男だったか…?それとも次男だったか…?いや、長女だったかもしれねぇ…。や、やばい…!殺される…!
「いや、殺さねぇよ」
た、たんじろう……。
「炭治郎でもねぇよ」
お、お前、隙の糸ってことは職業は〈仇なす者〉か?
そしたら、お前。炭治郎のバックボーンと割と噛み合うぞ。そこまで炭治郎になりたいなんて…所詮お前も鬼滅キッズってわけか…。
「ちげーわ。もう隠す意味無いから言うが〈断罪者〉だ」
〈断罪者〉?
お前誰断罪したんだよ。というか〈戦士〉から〈断罪者〉ってなかなか特異な道辿ったな。俺は予想と違った職業に驚きを隠せない。
三つまで絞っておいてなんだが、〈断罪者〉はほぼないと勝手に思っていた。〈断罪者〉だぞ?罪を重ねる事に辛さを覚えないこいつが断罪するってのは無理があると思ったんだが…
「悪いが〈断罪者〉になる条件はまだ分かっていない。しばらくしたらギルドの連中にも話して検証していく。その時は、力を貸せ」
炭治郎に言われちゃ仕方ねぇな。
お前も今度会ったときは、額に傷つけて箱背負って刀持ってろよ。立派な鬼殺隊になれよ。
◇■◇
炭治郎と別れた後、俺はフィールドでスキルのレベル上げをしていた。
情報隠匿者達を交えた疑心暗鬼の人狼ゲームに参加する暇があったら、俺はそっちに人が流れている間に良質な狩場でスキルレベルを上げたい。
最近獲得した《呼応治癒》と《拡大増幅》を早めに実践でも使えるようにしたい。
こいつらはレベルが低くちゃ使い物にならない《血液操作》と同じ、大器晩成タイプだ。さっさと育て切りたい。
他のスキルも最大レベルの20に到達しそうなものが幾つかある。
レベル20になれば、今までの経験を参照し、条件が達成されている進化先が表示されるはずだ。早く、《ナイフ》やら《疾風》を進化させちまいたい。ここからスキルダウンなんて挟まったら発狂しちまう。
俺は次々と魔物を狩りながら、辺りを見回した。
平和なもんだ。いつもなら所々で命乞いの声の一つや二つが聞こえてくる。しかし、今日は街で人狼ゲームが行われている。平和ったらありゃしねぇぜ。
ルンルン気分で魔物を狩る。
心地良い風が俺の肌を撫でる。いい気分だ。さて、満腹数値を回復するために、おはぎの店で買った豆大福を食うとするか―――、
亜空間から豆大福を出し、口に運ぶ俺。
あと数センチで大福が口の中に入る、その時―――、
ぐぅぅぅぅう~………
誰かの腹が鳴った。
だ、誰ふぁ!?
突然の唸りに、俺は動揺を隠せずに舌を噛む。しかし、それ以上に驚愕する。確かに俺の周りに気配は一切なかったはず…。
《気配察知》と《敵対知覚》という索敵最強のスキルを二つセットしている俺の索敵網に死角はなかった…!な、ならば今のは……!
くるならこいやぁ!
俺は豆大福を放り出し、ナイフを構えた。
「…あっ!」
そっちかワレェ!
またしても聞こえた誰かの存在音。
俺はすぐさまそちらにナイフを構える。
しかし、そこには誰もいない。
そして、その代わりに俺の捨てた豆大福が宙に浮かんでいた。
「……?」
ふーむ。
超常現象だ。
こりゃバグか?いや、しかし……
訳の分からない現象に遭遇したが、バグとは思えない。そこで俺は、ある行動をしてみる事にした。
「ああああああああ!」
それは、大声を上げる、ただそれだけ。
一応だった。俺の索敵網には未だ何も引っかかっていない。俺は自分の力を基本信じている。だからこそ、一応という名目での大発声。なんも反応しなけりゃいいが……
しかし、俺の願いとは裏腹に―――、
「わあああああああ!」
何かがそこにはいた。
そして、謎の叫び声と共にスーッと姿が現れた。
その姿は幼女だった。しかし、同じ幼女であるララとはかなり違う。
まず、宙に浮いている。
そして、手に俺が先程捨てたはずの豆大福を持っている。
……こいつ…。まさか…
俺は幼女に厳しくできない。
ララという前例があるせいで、上手く相手を威圧できないのだ。それが仲が良い者だったら問題ないが、こいつとは初対面。
俺の手はすっと亜空間に入り、気付けば飴を取り出していた。
「飴ちゃん、食うか?」
よく分からない生物は、俺が手に持った飴を見て、こくりと頷くのだった…。
不審者…爆誕……!




