記録.20『ラピュタを探して』
テイマー事件が過ぎ去り、テイマー共は己の力が従魔に及ぶ様になるまで、自己研鑽を積むこととなった。
それではその間、従魔をどうするか、という問題に直面する。しかし、すぐに解決案が見つかった。
〔サイショ〕の街に”〈従魔士〉の修道場”が存在したのだ。そこでは、ポケモンボックスみたいに従魔の預かりも行っているようで、テイマー共は涙を流し、暴れる従魔を引き渡した。
そこで、一つの疑問がプレイヤー共に降りかかる。
「あれ?テイマーのそういう施設あるなら、他のもあるんじゃね?」
口々にそう言ったプレイヤー共は、修道場を探し始める。
路地裏、洞窟内、山上……。
案の定、修道場は次々と発見された。見つかる場所に法則性はなく、街であれば、普通にmobが湧くフィールドであることも多々。
しかし、探索、調査系統のスキルを持たないプレイヤー共がその修道場を見つけるのは困難を極めた。一度、発見されていれば問題ないが、発見されていない施設を俺達は見つけられない。
〈戦士〉、〈魔導士〉、〈料理人〉……。
次々と発見の報告が耳に入る。しかし、俺のようなマイナー職業の連中は一向に見つかる気配がない。町中のNPCに問いかけ、山を越え、洞窟を踏破する。そうしても、俺達の修道場は見つける事が叶わなかった…。
俺とプロペラ、決戦兵器の三人はルーキー共にガン見されながら、泣き喚いた。どうすりゃいいんだよぉ~、うぉんうぉんうぉん………
「ぴえぴえぴえ~」
え……泣き方きも……
もうちょいどうにかならん?それ。聞いてて鳥肌立つわぁ。
俺の言葉に決戦兵器がムッとする。
「ああ?んだてめぇ。喧嘩うっとんのか?あ?」
決戦兵器の顔面につくランプが赤に点滅する。
背中の機構がしゅぽしゅぽと白煙を上げ、その姿はあまりに人間離れしていた。
俺と決戦兵器の間でプロペラが竹トンボを弄る。
俺は決戦兵器の胸から伸びるコードを引っ掴んで言う。
「ああ?んだこのコードはよぉ?中にポチ太でも入っとんのか?あ?羨ましいじゃねぇかよおい。くれよ、これくれよ」
俺が決戦兵器のコードを引っ張ろうとしたその時、一つの竹トンボが青空へと舞った。
「わーい」
プロペラ君は、嬉しそうにその後を駆けていく。
……なんか、馬鹿みたいだな俺達。
「ああ、そうだな…」
決戦兵器が、蒸気を噴出しながら立ち上がる。
そして、立とうとしている俺に手を伸ばした。少しの時間見つめ合う俺達。そして互いに小さく笑い合い、俺は奴の手を取った。
いこうか。
「うん」
俺と決戦兵器は駆けだした。
前に見据えるのは暗い曇天が滲む光景ではない。先が見えず、絶望が包み込む空でもない。ただただ美しい晴れた青空だった…。
わーい。
無邪気な彼らを、止める事は叶わない……。
◇■◇
ルーキー共は俺達三人を早々に使えない奴だと断定したのか、会話に混ぜてくれなくなった。
寂しいが別にいいもん!
俺達三人は互いに協力して、修道場を見つけ出すことにした。
ひとまず情報交換だ。それぞれが自分の職業名を言う。
俺は〈教唆者〉。〈幸運者〉の進化職業だ。
プロペラは〈駆ける者〉。
決戦兵器は…〈決戦兵器〉だった。ぷ、ぷぷっ…
「笑うなよ!俺、なんか職業が固定されてんだよ!くそっ」
恥ずかしそうに蒸気を噴出するその姿はいつ見ても愉快だ。
しかし、今の現状はそうも言っていられない。俺達は誰も探索型のスキルを持っていない。
一人一つだけプレイヤーが身につける事の出来る、《知覚》と呼ばれる強力なスキルも俺と決戦兵器は《敵対知覚》、プロペラは《環境知覚》を獲得している。
別に違う《知覚》に変えてもいいが、《知覚》系統のスキルは一度替えれば一週間変更が出来ない。そのデメリットを重く見るか、軽く見るかはプレイヤー次第だが、俺達三人は重く見る側のプレイヤーだった。
俺達は《知覚》頼りの探索を諦めて自力で探す決断を下す。
最初に向かったのは薄暗い洞窟。ここには薄光る苔が自生し、よく錬金術師の連中が取りに来るのを見る。
しかし、今の俺達が目指すのはその奥の奥。
行ってしまえば、未踏破地帯だ。ここの難易度は現状のエビふりゃーが後回しにするレベルだ。相当高いはず。しかし、やるしかない。
俺達三人は、修道場を見つけるべく洞窟の奥へと進むのだった。
◇■◇
「ウワー!ウワー!ウワー!」
縦横無尽にレーザーを放つ決戦兵器。
洞窟内の無差別レーザーは、洞窟の倒壊を招きかねない。そうした場合、怒られるのはあいつだけではなく、現場責任として俺とプロペラもだ。
目を覚ませー!ヤメロー!決戦兵器―!
「決戦兵器さーん!やめてー!目を覚ましてー!貴方のお袋泣いてるよー!」
そうだぞー!
俺のお袋も泣いてるぞー!レジ袋が有料になったことに一言ありますかー!
「エコバック…持ち歩いてます…」
そう言った決戦兵器はより一層激しさを増し、レーザーを乱射した。
奴の頭にはよく分からんガスみたいな靄が纏わりついている。恐らく、その靄が決戦兵器にレーザーを乱射させている。どうにか、あれを取り除かなくては…!
洞窟全体が激しく揺れる。
考え込む俺を尻目にプロペラが「あ!」と叫ぶ。
どうした!?
小っちゃい可愛い脳みそが何か思いついたのか!
俺はプロペラに問いかける。糖分補給の為に食べる温泉饅頭は今日もおいしい。
「僕の竹トンボであれを飛ばすよ!どう?ダスト君」
いや、そんな先生これ正解ですか?みたいな目で見られても俺分かんないよ。
なんでお前そんなに俺信用してんの?俺お前に基本酷い事しかしてないよ?その信頼どこから来るの?お母さんわかんないよ。そらちゃんが考えてることわかんない。
俺は適当に頷く。
頷いといたらどうにかなるっしょ。
プロペラは、俺のその頷きに頷き返し、自信満々に竹トンボを構えた。
「はぁぁぁぁぁぁ………」
プロペラが気合を溜める。
果たして、あれに意味はあるのか。それはプロペラのみが知る事だ。どうやら俺に出番はないようなので素直に見学する。授業参観に参加する親の気持ちってこんな感じかぁ。
そらちゃ~ん!
お母さん見てるからねぇ!頑張って手ぇあげてねぇ!
「お、お母さん!うるさい!」
その言葉と共にプロペラの超速で擦られた両手から竹トンボが射出される。
竹トンボは勢いよく、暴れる決戦兵器の上空に飛んでいき、見事その靄がある場所に到達する。
俺は指パッチンをしようとして失敗し、プロペラは「やった!」と無邪気にジャンプをしたら、石を踏んでその場にコケた。い、嫌な予感がする…!
その嫌な予感は的中する。
靄は確かに竹トンボの回転部分に纏わりつき、決戦兵器の頭部から離れる兆しを見せた。まず、なんで竹トンボにそんな力があるんだ、と思ったがプロペラは真剣なのであまり口を挟まない。
靄は離れる兆しを見せたものの、やはりどんなに期待しても所詮竹トンボ…!弱い…!脆い…!
竹トンボは、少しの靄だけを纏わせて決戦兵器の頭部を通り過ぎようとした。
あ゛ーッ!
駄目だぁ!プロペラァ!作戦は失敗だぁ!
決戦兵器を捨て置いて逃げるぞ!こいつはここに延々と囚われの身になるだろうが仕方ねぇ!必要な犠牲だ!人類繁栄の礎になって貰う他ねぇぞ!
俺がプロペラに全力でそう叫ぶ。
辺りの倒壊は止まらない。これ以上、決戦兵器がレーザーを放射し続ければ洞窟はもたない。
おい、プロペラ!
なにやってんだ!置いてくぞ!おい!飴やるからこっち来い!おい!!!
しかし、プロペラは動かない。
まるで、何かに裏切られたかのような顔をしてその場に立ち竦む。
はっ……!
そこで俺は気付く。こ、こいつ…!竹トンボ作戦が失敗したことが受け入れられていねぇ…!こ、ここで弱っちいお頭の本領を発揮しやがった!
おい、おい、プロペラ!
てめーふざけんな!
俺に恥をかかせるな!洞窟にβ三人衆で行って、内二人は帰ってきませんだ!?俺のメンツはどうなる?ダダ崩れじゃねぇか!
街へ帰るぞ!
俺は必要最低限の犠牲しか受け入れねぇ!
てめぇはその最低限に含まれちゃいねぇぞ!おい!プロペラ!目ぇ覚ませや!
俺は奴の身体を掴み、その場を離れようと必死に走る。
しかし、目の前に岩石が落下し、出口を塞がれる。まだだ…、まだ舞える…!
「おい!プロペラ野郎!てめぇ、空には希望があるんだろ!?」
ぴくり、とプロペラの体が反応を見せる。
「俺に、見せるって言っただろ!?あの約束はどうした!おい!見せてみろよ!」
夢物語を騙る俺の口。
プロペラと共に語ったあの忌々しい記憶。今や、それもずっと昔の記憶。
「―――俺に、ラピュタを発見させてくれるんだろーが!!!」
その言葉を言い放った瞬間、プロペラは眼をカッと開いた。
その異様な姿に、俺は酷く不安な気持ちになる。遠くで倒壊音が響く。決戦兵器のビームの光が、未だに奥に見える。
〔空の人さんが条件を達成…職業の進化を確認…〕
〔空の人さんが〔Unique・Skill〕《天翔け》を獲得…〕
こ、こいつ……!土壇場で覚醒しやがった…!しかもユニークまで引っ提げて…!
プロペラは俺を見て、にこりと笑った。
そして、俺を抱えて宙に浮遊したのだ。こ、こいつ浮いてる…!遂に獲得しやがった!浮遊能力を!
宙に浮いたプロペラがびゅんっと洞窟の奥で暴れる決戦兵器の元へ迫る。放たれるレーザーを間一髪で避けていく。じゅっと俺の右足が焼ける。ちょっ……もっとしっかり避けて!
そして、決戦兵器の頭部に渦巻く靄を左手で振り払うように薙ぐ。その途端、靄は弾け飛ぶように霧散する。
「はっ……俺は何を…」
惚ける決戦兵器をプロペラは引っ掴み、勢いよく出口へと飛んだ。
「ぶえええええええええ!!!?」
決戦兵器の汚らしい声が聞こえる。
そして、出口前はすでに倒壊によって岩に塞がれてしまっている。
俺はワクワクする。
またしても、プロペラの超凄い力がでるのか、と。今のこいつは恐らく先程の《天翔け》なるユニークによって強化されている。だから、こんな芸当もできるのだ。
それならば、こんな岩だって…!
ワクワクとプロペラの一挙一動を見る。
プロペラはその岩石に向かって左手に掴んだ決戦兵器を構える。あ、あの構えは…!
「え?え?え?」
未だに状況がつかめない決戦兵器は、成す術も無くその行動を傍観する。
そして、プロペラは決戦兵器を構え、そのまま出口を塞ぐ岩にぶち当てた。岩に罅が入る。プロペラは容赦なく、何度も何度も奴の顔面を打ち付けた。
決戦兵器を包む兵器は、呪いの装備ではあるが古代遺物産だ。
その為、そんじょそこらの奴には硬度負けしない。むしろ、このゲームにそれ以上に硬い物は存在するのか分かっていない。
決戦兵器の犠牲の元、遂に岩石が粉々に砕け散る。
プロペラは勢い良く飛び上り、洞窟の外へと飛び出した。それと同時に洞窟の崩壊が始まる。砂煙を出しながら、倒壊していく洞窟を俺達はただただ見ていた……。
ゆっくりと地面へ着地したプロペラは、決戦兵器と俺を離した。
「ねぇ」
「ああ?」
「ラピュタきっとあるよね」
「………ああ」
空から女の子は落ちてこない。
しかし、ゲームに夢くらい見てもいいだろう。
俺とプロペラは空に夢を見る。儚く、尊い、希望の夢を。
生存者二名。
死亡人数一名。死亡原因、硬い何かに打ち付けられた為。
感動風にしてますが、貴方達今一人殺しましたよ。




