記録.19『テイマー共の浅き夢』
”相応の力には、相応の努力が伴う。”
それは裏を返しても同じことだ。
”相応の努力には、相応の力が伴う。”
しかし、このゲームにはそれが当てはまらない連中がいる。
「ぎゃーっ!」
「や、やめろぉ!やめてくれー!」
「だ、誰か……うちの子を止めてえええ!」
そいつらの名は、”テイマー”といった………。
◇■◇
職業が解禁されて数日が経った。
職業の進化段位は非常に多い様で、既に職業進化を果たしている奴らは沢山いた。俺もその内の一人だ。
剣を扱っていた者は〈戦士〉や〈剣士〉。
魔法を操っていた者は〈魔導士〉や〈言霊使い〉。
生産業を営んでいた者は〈鍛冶師〉や〈料理人〉。
まだプレイスタイルが決まっていない者は〈万能者〉や〈夢見る者〉。
俺達が想像していたよりも遥かに多くの初期職業が存在した。
そして、それは普段日の目を浴びない産廃スキル持ちの連中にも希望を齎した。それが、運営の罠だとも気付かずに……。
いつも通り、俺はルーキー共にちやほやされるべく知識を蓄え、奴らの元へと向かっていた。ぺろりんは、いつも俺を褒めてくれる。俺にはもう奴しかいない。奴だけが俺の自尊心を満たしてくれる。
ふ、ふふふ…
暗い笑みを浮かべて、俺は走った。
そして、その途中で目撃した……。
小さな蛙が、突然頭だけを巨大化させて、プレイヤーを飲み込んでいく様を……。
「………」
俺は何も見なかったことにした。
きっと今のは幻覚だ。そうじゃないとやってられない。ただでさえ、ゴミが多いこのゲームで唯一の楽しいところは魔物の大半が雑魚ということだ。
結局人間は、自分より下の生き物を弄んでいる時が一番気分が良い。業が深い生き物、それが人間だ。
プレイヤーを飲み込んで、消化したと思われる蛙はその姿をそのまま粒子へと変えて消えていった。
「え、ええ……?」
それは、暗にフィールドにポップする普通の魔物ではないということを表していた。
俺はすぐにエビふりゃーに連絡を入れた。
すると、この現象はマップの至る場所で起きているらしい。
そして、その原因はすぐに解明された。
〔コウザン〕の街。
エビふりゃーが集まったプレイヤー達の前で状況を説明していた。
要約すれば、あれは”テイマー”共の従魔が暴走してああなったらしい。
そして、主を殺した従魔はシステムの仕様上、そこに留まる事は出来ない。結果として、粒子化、その後リスポーンした主の元へと召喚される仕組みのようだ。
何故、暴走が起きたのか?
それは職業システムに原因がある。
この職業システム、当然ながら〈従魔士〉という職業が存在する。
そして、その〈従魔士〉。
補正内容が『従える魔物を強化する』といったものだった。
そして、〈従魔士〉共は当然スキルに《テイム》を持っている。
その《テイム》というスキル。
スキル説明欄にはない隠れた仕様が存在した。
それは、プレイヤー本人と従魔に一定以上の戦力差が生まれると、従魔が言うことを聞かなくなるというものだった。
ポケモンで言う、「通信交換でゲットしたポケモン、バッジ足りないからLv高すぎて言うこと聞かないよ~」状態だ。
今まではあまり離れていなかったプレイヤーと従魔の戦力差。
しかし、それが〈従魔士〉という職業によってバランス崩壊。従魔共は暴走を始めたのだ。
テイマー共はこれに大憤怒。
我が子に殺され続けながらも、運営への苦情を送りまくったテイマー共。
運営は、そんな彼らに一つのQ&Aを投下した。
Q.《テイム》で従えた魔物が言うことを聞きません。どうしたらいいですか?
A.貴方が強くなりましょう!
最近見直してきた運営は、やはりゴミだった。
更に事件は続く。
この従魔、言うことを聞かなくなるということは街中でも平気で暴れる。どうやら従魔がNPCやプレイヤーに危害を加える分には、牢屋行きにならないのだ。
従魔共の大侵攻が始まる……!
◇■◇
従魔共の強化倍率はバグじゃないかってレベルで高い。
それこそ、廃人が四人いて、やっと従魔一匹と対等に渡り合うレベルだ。
しかし、エビふりゃーだけは例外だ。
俺は、あいつが目の前で職業進化するのを見た。そして、よく分からんユニークを手に入れたのも。
それ以来、あいつは無尽の強さを手に入れた。
人はあまりに強大な力を手に入れると、それに酔い痴れる。しかし、奴は平気だ。エビふりゃーの心は気持ちが悪いくらい強い。
目の前でエビふりゃーが従魔を屠る。
え、エビふりゃーくん…!俺は奴に惚れそうになる。所詮俺は弱いからな。《血液操作》を使ったところで、碌に従魔共の外皮は切り裂けないし、ナイフで切り裂こうにも、近づけば叩き潰されるか、呑み込まれる。
やってらんねぇぜ。
俺はその場に座り込み、亜空間からみたらし団子を取り出し、もっちゃもっちゃと食べだした。
匂いにつられて狐面がやってくる。
団子を一本差し出し、お茶を注いでやる。うまいか?
「おいひい」
そかそか。
この団子美味いよなぁ。
なんて言ったっけ。確か『おはぎ』っつープレイヤーが毎日せっせと作っては〔サイショ〕で売ってるんだけどよ。これが安いのなんのって。なのにこんなうめぇんだ。
「すごいね~。今度連れてってよ~」
いいぜ。
やっぱ美味いもんは共有していかなきゃな。おはぎも喜ぶだろうよ。あいつ買ってくれる客皆におまけして赤字らしいからな。たくさん買って黒字にしてやろうぜ。
俺と狐面の前に、プレイヤーの首が転がってくる。
その首っころは、俺と狐面の暫く交互に見て、こう言った。
「え……?デート中…?…え?」
その言葉を最後に、首っころの瞳から光が消えた。
血生臭い戦場、絶える事の無い悲鳴、絶望に塗れた助けを求める声……その中で、日常を彩る様々な事を紹介していきます……今回は、下町の和菓子屋……。
突然始まる平日昼間にやっていそうな番組……
レギュラー:ルート、きつね
準レギュラー:首っころ
本日のゲスト:テイマーの皆さん
◇■◇
「だ、ダストっち……同じゴミスキルの好で、あれどうにかしなよ…」
「…無茶言うなって……ありゃ、もう無理だろ…」
血だまりだらけの戦場。
多くのプレイヤーが後処理に奔走する中、テイマーの皆さんは意気消沈したようにその場から動けなかった。その傍には、従魔共が捕縛されて一塊に集合させられている。
確かに俺とこいつらの本質は似ている。
同じゴミスキルを持つ者同士だ。
しかし、俺は好きでゴミスキルを持っているわけじゃない。最初のスタートダッシュの為に取ったスキルが偶々ゴミスキルで、愛着が沸いたから今も使っているだけだ。βテストの時も同じだ。
こんな生粋のゴミスキルを使う奴らの気持ちなんて俺には分からない…。
背中を押す狐面に殺意を覚えながらも、俺は奴らに声を掛ける。
「あー……その―…なんか良い事あるよ!きっと!な!………」
「………」
「………」
沈黙の時間が流れ、俺はその場から離れた。
俺は……ごみだ……。
両手で顔を抑え、狐面の傍に戻ってきた俺は絶望した。
狐面はそっと俺の肩に手を置いた。
こ、こいつ……自分で俺を奴らに差し向けておいて…!あたかも聖母のように振舞いやがる…!このっ…!フール女がっ…!
カイジみたいに視界がぐにゃりだす。
自分の不甲斐無さに絶望する俺に、一人の男が声を掛けた。
「サンキューな…ごみ溜め」
そいつは廃人でありながらテイマーをしていた男だった。
「お前のおかげでちょっと元気出たわ…ほら、あいつらもさっきよりはマシな顔だ」
そう言う廃人を尻目に、俺は先程声を掛けたテイマー共を見る。
え?変わってる…?変わって無くない…?相も変わらず絶望してない…?
「俺、頑張るわ…念獣…欲しいからさ…」
男は夢を語る。
酷く浅い、それでいて幸せな夢を。
……お前なら出来るよ。
憧れを持つ男の姿は、どうしようもなく眩しいものだ。
俺達はいつまでも待つ。冨樫先生の復活を。いつの日か、完結するその日を夢見て―――!




