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廃城のメイド  作者: 北都
13/26

『主とメイド』

「さて、まずは説明して頂けますか」


 万一に備え、ヒナ様をミズキ様に匿ってもらい正解だったようです。

 城に誰もいないため、賊に襲われることは想定していましたが、顔見知りの相手に襲われるのは想定外でした。

 

 私の前には、縄で縛った見知らぬ少女と見知らぬメイド、それと半泣きのモニカ様。

 開けることが出来ない城門にさぞ苦労されたことでしょう。私が見つけた時、三人とも服は汗にまみれ、見るに耐えない姿でした。疲れ切っていた為か呼吸も荒く、乱れた服装や外見に余裕を回す気力すらなさそうでした。


 城が襲われたのは危機管理が万全でなかった私の落ち度ですが、襲った理由くらいは聞いておきたいものです。


 モニカ様は正座をしながらうなだれております。時折、横にいる少女をちらりと見ては、深いため息を繰り返している。恐らくですが城を襲う発端となったのは彼女が原因でしょうか。勝気な態度で私を見る少女の隣には、怯えるメイドがいました。


「ひぃ!」


 これで何回目でしょうか。その怯え切った悲鳴は。私が見るたび、このメイドは絞り出したような悲鳴を上げては顔を背けます。それなのに、彼女はいつの間にか顔を上げ、私の髪を見上げてくるのです。彼女は、きっと私が赤髪鬼であることに気が付いているのでしょう。とはいえ、そんなに怯える必要はないと思うのですが。


「ちょっと! いい加減この縄解きなさいよ! それと私の剣を返して!」


 まあ、彼女のように出会い頭に剣を振り下ろされるよりはマシですが。両手を縄で縛られながらも強気に私を睨み、自分に不利な今の状況でも怯むことがない。子供には不相応な剛胆さは舌を巻くものがありますが、場の空気を読むことも大事ですよ。


「質問しているのは私です。ここで何をしようとしていたのでしょうか」

「何を? 決まっているじゃない。鬼退治よ」


 直球ですね。偽りのない言葉は好きですよ。


「なるほど、私の首を獲りに来たという訳ですか。ならば自分の首を獲られる覚悟もできていますよね」


 目を白黒させる少女。まさか想定外でしたか? 己が殺そうと思っていた相手が手心を加えるなど、そんな都合の良い話が転がっているわけないでしょう。


「だから、言ったじゃないですか」


 モニカ様は今にも泣き出しそうな声で抗議を始めました。


「レッカさんは、こういう人ですって言ったじゃないですか。相手が顔見知りだとか、関係ありませんよ」


 完全にとばっちりのようですね。なんだか、いつも貧乏くじを引いていませんか。この人。


「目的はお金ではないでしょう? あなたの身なりを見る限り、金銭に困る生活をしているようには見えません」

「さすが見る目がありますよ貴方。このお方は、なんとヒイラギ家の令嬢、ツバキ様ですよ」

「存じません」


 メイド服に身を包んだ彼女。ようやく喋ったかと思えば、今度は目を丸くしています。


「……本当に?」

「嘘はついておりません」

「私たちを生かしておけば、身代金とかもらえちゃうかもしれませんよ」

「必要ありません。それより、貴方達の本当の目的を仰っていただけませんか? 今まで沢山の冒険者を見てきましたが、少なくとも金欲に目がくらんだ人でないのは見ればわかります」

「わかっていただけましたか!」


 モニカ様、目を潤ませるのは辞めて頂けないでしょうか。ついでに身をよじる様にして近づいてくるのも辞めてください。

 未だに強気に睨む少女は悔しそうに気に歯を食いしばっています。この様子では問答したところで素直に喋るとも思えません。喋らないのであれば排除するに越したことはないでしょう。

 一歩を踏み出した私に突然、声をかけてきたのはメイドでした。


「えーと、手柄を手に入れるのが目的でした」

「ちょっとシニョ!」


 シニョと呼ばれた彼女は、少女の声に体をびくりと震わせましたが、顔には笑みが浮かんでいました。


「金ではなく手柄が欲しくて、私を討つと? ……巷を賑わせている赤髪鬼を倒したともなれば、冒険者として名が売れると考えた訳ですか」

「その通り! が、冒険者としての名声が欲しいわけじゃないんですよ。これが」

「いい加減にしなさいよ、アンタ」


 少女とはいえ、人の上に立つものとしての才能をお持ちのようです。

 恨めしい主人の声に、今まで平然としていたシニョも流石に肝を冷やしたようで、笑顔がひきつっています。まあ、主人が喋りもしないことをぺらぺらと答えてしまえば、仕方の無いことでしょう。


「欲しいものは名誉……。一応、納得しました。ですが解せないこともあります。そちらの戦力は一人。その程度の力で私を倒せるとでも」

「こっちには三人よ!」

「それって私も戦力に入っていますか。道案内だけの約束でしたよね」

「アンタね。それでも冒険者なの! 根性見せなさいよ」

「無茶言わないでください!」


 頭痛がしてきました。


「それに、レッカって言ったわね。私なんか相手にもならないというの? ずいぶんと見くびっているのね!」

「相手の実力を測ることすら出来ない人の言葉など、私の耳には届きませんし、武器を奪われたのはどこのどなたですか」

「そうですよ。ツバキ様。命は大事にするべきです。無駄死になど上に立つものがする行為ではないでしょう。それに、私が十人いても、レッカ様には絶対勝てませんよ。マジで無理です」

「シニョ! 誰を様付けしてるのよ! アンタ、どっちの味方?!」

「ちょっと二人ともケンカしないでください。目の前にいるのは、あの赤髪鬼ですよ。レッカさんの強さについては散々言い聞かせたじゃないですか。突然、襲い掛かってきた賊にも怯まず一蹴した挙句、穴に叩き込み埋葬した冷血、無法の……。あのレッカさん。なんで剣に手をかけているんですか? ちょっ、待ってください。抜かないで、抜かないでください! お願い、お願いですから!」 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「もういいです。すでに殺す機会は失いました。主も貴方も殺す気はありません」

「本当ですか?」

「ええ、約束しましょう。貴方の主の命を守ろうとする行為に免じて」


 思いかえせば、一歩踏み出した私に彼女が声をかけたのは、一つの賭けだったのかもしれません。私の殺意を見抜き、話術で切り抜けようとした……。

 話術……? それほど大層なものでもなかった気がします。


「シニョの行為に免じてって、アンタ何かしたの」

「……こう言うところも愛おしく見えるのでしょう?」

「その通りです」

「ちょっとなに二人だけで会話しているのよ。私にも解るように説明しなさいよ」  


 相手にするのは時間の無駄。ここはさっさと帰っていただきましょう。


「シニョ。捕らわれた演技ももう必要ありませんよ」

「ばれていました?」

「ばればれです。言ったはずです。私は沢山の人を見てきたと。貴方が何を考えて、何をしようとしているのかなど見てればわかります。とりあえず、その腰に刺さった武器を抜かなかったのは正解だったと思いますよ」


 シニョは幾度となく私を見ながら武器へ手を伸ばしていましたが、私の視線に気づくと、さっと手を引っ込めるほど慎重に行動していました。おそらく私の隙を伺い、一刀のもと切り伏せる算段だったはず。ですか、その程度の考え、私にはお見通しでございます。


「お嬢様。やっぱダメです。私に勝ち目なんか一切ないです。さっさと逃げましょう」

「帰るのであれば追うような真似はしません。あの方達もお仲間でしょう。どうぞ一緒にお帰りくださいませ」


 ……なんでしょう。この間は。私何か変なことでも言ってしまいましたか。


「誰よ。あの方達って、どういうことよ」

「どういうことも何も、ツバキ様。あの集団のことですよ。シニョが打ち漏らした時のことを想定して、策を用意していたのでしょう」


 私が指をさした先、そこには十数人ほどの集団が私たちがいる方へと近づいてきていました。


「なによアレ。私、知らないわ」

「とぼけたことを」

「本当です。私は二人以外案内をしていません」

「モニカ様。貴方まだいらっしゃったんですね」

「レッカさん。私につらく当たってません?!」


 そんな無駄話をしている間に、集団の姿がはっきりと見えるほどの距離までと近づいてきました。どういう手筈になっていたかは知りませんが、ツバキ様達の様子を見る限り、嘘を言っているようには見えません。

 

「あいつ。何でこんな所にいるのよ」

「やはりお知り合いの方でしたか」

「知り合いというか、この場合は敵と呼んだ方が正解かもしれませんね」

 

 シニョは二本の短剣を握りしめ、飄々とした態度で集団を見据えていました。


「誰の敵でしょうか」

「そりゃ勿論、ツバキ様ですよ。偉い方々は何かと敵が多いものですから。たとえ親族、兄弟であったとしても、しのぎを削る世界にツバキ様は身をおいているのです」

「要は身内の争いという事ですね。それでは私はこれで失礼します」

「ちょ、ちょっとレッカさん」

「私には関係のないことですから。モニカ様、貴方が何を言いたいのか察しはつきますが、やめておきなさい。それに貴方が死ねば、ヒナ様は悲しむでしょう。それは私が望むことではありません。この戦いは、多勢に無勢。争いは程なく終わります。それが終わり次第、私は街へ戻ります」


 城門の扉を開き、モニカ様を中へと招き入れいれます。


「先に言っておきますが、建物内への立ち入りは禁止とさせていただきますから」

「せめてツバキちゃんだけでも一緒に」

「それを決めるのは彼女です。それに彼女を助ければ、あの集団と貴方が戦うということをお忘れ無く」


 ツバキとシニョの二人は、私の方を一切見ませんでした。

 拒絶されることが当然であるかのように、二人は今の状況を受け入れている。

 扉が閉まりきる直前に聞こえた怒号。それを皮切りにけたたましい金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきました。

 私はメイド服に着替え、城門の上にある見晴らし台に立ちました。

 見下ろした先にいたのは多勢に囲まれながらも、相手を翻弄するシニョの姿。

 

 シニョの両手にそれぞれ握られた小振りな剣。一方で攻撃を受け流し、もう一方で攻撃に転じる二刀流。相手の力を利用して捌いていくとは、見事なお手前です。

 戦場をめまぐるしく動き回るシニョとは対照的にツバキ様は城門の前から一歩も動いておりません。

 相手から見れば、彼女をしとめるのは容易いはずです。それにも関わらず手を出さないということは狩りに夢中になっている、といったところでしょうか。

 狩人から見れば動きを止めた獲物よりも、激しく抵抗する獲物の方が長く楽しめるでしょうから。

 

 奮戦の甲斐もあり、相手の数を三分の一程減らしたようですが、善戦もここまででしょう。個の力で上回っていますが、質ではなく量を武器に襲いかかる相手を前に徐々に押されています。


「シニョ!」


 己の主の声に奮起し、鈍った動きが微かに蘇りますが、劣勢をひっくり返すほどではない。自身の身長を超す相手を前に、全ての力を注ぎこんだのでしょう。武器を振るうのもやっとのように見えます。

 頭の使い方は、相手の方が一枚上手のようです。特に、集団の中に紛れ込んだ首領と見られる男。彼の体裁きや隆起した筋肉。鍛え方からして周りとは段違いなほど動きが洗練されている。


 彼はシニョの死角へと回り込むと、確実に攻撃が入るタイミングで狙いすました一撃を重ねていく。

苦悶の表情を浮かべるシニョを痛めつけるほど下劣な笑みを浮かべる集団。彼女が敗北に近づく度に、多勢の中に広がる笑いが大きくなっていきます。


 蓄積されたダメージは、速さで勝っていたシニョの足をついに止めました。

 勝負は着いた。それでもシニョの手は止まらない。襲い掛かる敵が振り下ろす剣よりも速く剣を振るい、切り捨てていく。相手の力を受け流していた優雅さは欠片も残っておらず、今はただ必死の形相で闇雲に剣を振るっています。

 自身を囲い込もうとする敵がいれば、足をもつれさせながらも走り、敵の一角を切り崩す。己の長所である足を奪われてなお衰えることない気迫。


 年端のいかぬ少女が見せる鬼気迫る姿に、相手は少なからず動揺しています。泥にまみれ、血に汚れ、雄々しく叫ぶ姿は獣のごとく荒々しい。そこにはメイドとしての優雅さや華やかさは微塵もありません。あるのは主を守るというただ一つの忠義のみ。それこそが、彼女を突き動かす理由に違いありません。


 美しいではありませんか。


 忠義という純真な思いを胸に秘めた彼女を前に、せせら笑っていた賊共の顔から笑みが次第に一掃されていく。そうでしょうとも。誰が今の彼女を笑うことができるのか。


 そして、そのひたむきな姿に突き動かされそうになっている私。大事な人を失う辛さは、少しは理解できるつもりです。それを知っているからこそ、彼女は戦い続けている。

 私と同じ志を持つ彼女の命が、あの程度の相手に散らされるのはあまりにも惜しい。


「モニカ様、扉を開けてツバキ様を城内へ」

「え、急にどうしました」

「いいから早くしてください。時間はありませんよ」


 城門の鍵をいきなり押し付けられたモニカ様は、狼狽えながらもツバキ様の元へと走り出しました。急で申し訳ないとは思いますが、こちらも急いでいるので大目に見てください。

 地面を転がり、うつ伏せになったまま立つことすら出来ないシニョへと近づいていく賊の頭領。間一髪のところで間に合いました。見晴らし台から彼女までは多少の距離がありますが、全力で走れば、問題はありません。

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