46 この世界には不要なもの
「玖来さんの戦闘能力ってラブコメには本当に一切合財無駄極まりないですよね」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火と一緒に登校している時は、会話の中にすぐに放り込んでくる。
烈火はなにげない風情で欠伸しながら答える。
「まあ戦闘しないしな」
「ジャンル違い甚だしいですよね。バトル漫画に帰ったらどうです」
「バトル漫画から帰って来たんだが」
勝ち取って帰って来たんだが……。
「玖来さんの戦闘能力を明確にわかりやすく言えば異世界トリップものの主人公を張った程度の戦闘力ですね」
「わかりづらいわ」
「では前作主人公」
「今回も主人公だが」
「うーん、謎の武術を使うくらいの強さ」
「……まあ、それが一番まともかな」
「言っておきますけど玖来さん、謎の武術を使うっていうのは既におかしいですからね」
「えっ」
なにがおかしいの?
そういうお家の事情を背負った少年なんて、日本中探せばどこかにいるだろう。そう、玖来 烈火である。確かに希少であろうことは認めるが、それでイコールおかしいというのは酷い烙印の押し方だと思うのだ。
「その理屈はどうでしょう……」
「まあ、ともかくなんかあったら言えよ? 物理的に解決してやる」
「それはそれは頼り甲斐のある言葉で惚れ直しそうですが」
「が、なんだよ」
七としては少し不安げ。確かに烈火の強さは知っているが、それでも人間であるという点は拭いきれない。
そう、つまり。
「そんな玖来さんもトラックの衝突で死んでしまうんですよね」
「そりゃ人類だしな、死ぬわ」
「それが私には怖いですよ。玖来さんは私が生きるためなら、平気で自分の命を投げ打ちそうですから」
「……極力ふたりとも生き延びるように努力するが」
「ほらこれです。私を安心させるためにも絶対ふたりで生きると言って欲しいものです」
そんな確約できないことを断言できるほど面の皮は厚くない。
烈火は困ったように眉を下げる。
「お前意味不明なところでネガティブだよな」
「ごめんなさい」
そこで謝るか。
なに、なんかあったの?
「いえ。なんか話題の流れで、別れを連想してしまいまして」
「……はぁ。よし、今日は手を繋いで登校しよう」
「え、恥ずかしいのでは?」
「触ってると安心すんだろ? 羞恥心より彼女のが大事だ」
この手が繋がっている間は、絶対に離れ離れにならないから。
烈火は赤面しながら歯の浮いたような台詞を吐いて、もはや自殺したくなった。どこの色男だよ、気障野郎だよ。
だがまあ、七が悲しむのなら我慢しよう。
自殺も、無論に事故死だって他殺だって絶対に死んでなんてやるものか。烈火はそう誓っていたのでした。




