47 ノロケと思ったらノロケ
「今日のゲストは逆ドッペルゲンガーこと星見 桜子さんと妹さんこと玖来 菊花さんです」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火と学校の昼食休みの時に、席を向かい合わせで食事なんて状況なら間違いなく。
何故かその食事風景に後輩が二名ほど紛れ込んでいる。上級生のクラスなんだけど。
七ちゃんお構いなく続ける。
「髪切りました?」
「いえ、切ってはいませんね」
「切ってないよ」
いやマジそういうのどうでもいいから。
烈火は弁当に箸をつけながら単純にして重大な問いを振る。
「で、なにしに来たの」
「いつかの約束通り、お話を聞かせてくださいお兄さん」
星見は箸を置いて身を乗り出した。
ちなみに食べているのは自作っぽい弁当である。可愛らしく小さな弁当箱で、少女趣味が垣間見える。
一方で購買のパンを齧る妹、菊花は補足を加える。
「桜子はね、お兄ちゃん。ノロケ話が好きなんだって。少女マンガを読むノリで人の話を聞いて回ってひとりで勝手に悶えるメルヘンなの」
「きっ、菊花ちゃん? そういうことはあまり……」
「まあ先にぶっちゃけたほうが話を聞きだしやすいよ」
「そうだけど……恥ずかしいよ……」
うう、と身を縮こませる。色っぽい外見の割にシャイなんだな。
烈火はちらと妹へと視線を遣る。
「星見の来た理由はわかった。けどお前はなんで来てんだよ」
「付き添い。あとお兄ちゃんに会えるならあたしは理由なんていらないから」
「……うん、そうだったわ」
「玖来さん! 嫌ならちゃんと嫌と言いましょう!」
菊花とは犬猿の仲。七ちゃんが吼えるようにして声を出す。
ふん、と菊花は鼻で笑う。
「ちょっと神代先輩? うるさいですよぉ? 食事中くらいはそのお喋りな口を残飯処理にでも回しててくださいよぉ」
「残飯じゃありません! 私が愛情込めて作ったお弁当です!」
「そうかなぁ。お兄ちゃん、本当はあたしのお弁当のほうがよかったんじゃないかなぁ」
「そんなわけがないでしょう! 玖来さんはいつも私のお弁当をおいしいおいしいと平らげてくれます!」
わーきゃー、言い合うふたり。
を放置して、烈火は星見の方と向き合う。
「あっちはあっちで忙しそうだし、こっちはこっちで話すか」
「えっと……はい」
一瞬、いいのかという顔をした星見だったが、すぐにふたりの口喧嘩の剣幕に首肯以外の選択はないと悟る。
「ってもノロケ話を聞かせて欲しいか。そう言われると難しいな」
いつもは別段意識を割り振らずに勝手になってるらしいし。けど、烈火としてはどれがどれくらいのノロケになるのかわかっていなかった。本人的には普通の話をしているという感じだ。
「その発想の時点でノロケだと思いますよ」
「えっ、これもノロケ?」
「ええ、ノロケです。妬けてしまいますね」
「あー――」
「「おい、なにいい雰囲気してんだよ」」
その嗅覚は恐るべし。
いがみ合っていたはずの七と菊花は瞬間で手を組んで剣呑な風情でこちらへ振り返る。
烈火は神速で顔を逸らす。言い訳する。
「別にいい雰囲気じゃない」
「本当ですかぁ?」
「桜子、お兄ちゃんに色気ださない約束だったでしょ」
「そういうつもりはなかったんだよ?」
各々、尋問されて昼休みは終わってしまったという。
ノロケ話はまた今度。
その時には妹さんとは停戦協定を結ぼう。七ちゃんはそう決めたのでした。
停戦協定でダメージ……。




