42 不意打ちに弱い
「玖来さん、エロいことしませんか。しましょうよ」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
学校でよくもまあ、そこまで明け透けに下ネタ放てるもんだな。もはや感心する烈火であった。
だが返す言葉は冷ややかにして冷淡。一瞬の肯定の余地もないのだと厳然と言い張る。
「……高校生でそれは早いって。せめて大学生になって成人してからにしよう」
「大学行ったら行ったで次は就職してからって言いそうですよね」
「……それはそれでいいだろ」
「よくないですよ!」
「玖来は進学するんだな。神代さんと同じとこ目指すのか?」
「「っ!?」」
いつものように割とアレな会話をしていたふたりに、あっさり割り込む男。
空気の読めないクラスメイト木下 辰太である。
「おまっ、いきなり混ざってくんなよ。せめて声かけろよ」
「え、かけたじゃん」
「混ざったんだよ、声かけはその前に自分も混ぜてと言い出すことだ! あ、ほら、七ちゃんが唐突の出現にビビって縮こまってるじゃねぇか!」
安心しきった対話中に不意の不意打ちに身を縮めて震える七。想定外に弱い女子である。
とりあえず震える肩を抱いて慰める。
「大丈夫、大丈夫だぞ七」
「ぅぅ、玖来さぁん」
こういう七も小動物みたいで可愛いな。烈火的には割と役得である。
目の前でイチャつかれてイラつくのは自然の摂理。
辰太は肩を寄せ合うふたりに拳を見せ付ける。
「おい、ちょっとぶん殴っていいか玖来」
「お前のせいでこうなったんだから自業自得として受け止めろ馬鹿」
その理屈はどうなのだろうか。役得だったのではないのか。
しかし辰太は神妙な顔で納得する。
「そっ、それもそうか、すまんな神代さん。まさか俺のボイスは女子を怖がらせてしまうものだったのか、通りでモテないわけだ……」
「勘違い入ってるけど、まあ反省してくれるならなんでもいいや」
烈火は何故だか偉そうであった。
そんな烈火のノリもあっさり無視して辰太は勝手に自分の話題を続けていく。
「で、結局、玖来は神代さんと同じ大学行くのか?」
「あー、検討中」
「優柔不断だなお前は」
辰太の言葉に反応して、ようやく七ちゃん復帰。口を開く。
「いえ、違いますよ木下さん。玖来さんは迷ったりはしない人です。つまり曖昧な返事は答えたくないということです」
「へぇ、彼女はよくわかってるんだな……」
「うるせぇよ」
あっさり言葉の裏まで見透かされて、烈火は七ちゃんに嘘はつけないと思い知らされたのでした。




