39 怖い話が聞きたいんじゃない、オチが聞きたいんだよ
「夏ですし怪談大会開催しますか」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
烈火は一度、窓から空を眺める。青く澄んで陽光が眩しかった。
「こんな真昼間から、御天道さんに見守られながら?」
「イエス。夜にお月様と怪談なんてしたら怖いでしょう」
「怪談って怖い話じゃなかったっけ」
「怖い話ですよ? でも怖いのは嫌なので、怖くない状況下で怖い話をすると上手い具合に話だけを汲み取れるじゃないですか」
「なんか違うような……」
まあ、怖い話で背筋凍らせることによる納涼もありといえばありか。そして一番暑い昼時に涼みを求めるのも納得できる。
烈火も了承したと見て、七は自ら言いだしっぺとしての責任を果たす。話をはじめる。
「ではともかく私から行きますね」
「おお」
こほん、と咳払い。ノドの調子を整え。声音をできるだけホラーっぽく低く静かに抑える。
「あれは、月明かりも薄いとある夜のことでした……」
「……」
うわ、こわっ。
なんか朗読――読んでないけど――すげぇ上手いんだけど。七ちゃん多才だな、おい。
「とある女性が、夜道をひとりで歩いていたんですよ。
明かりも少ない田舎道ですから、人気もなければ車もロクに通りません。心細くて、女性は少し早足で家路を辿っていました。
すると遠くからライトが照らします。すかさず道の端に寄って、通り過ぎるのを待ちます。その待っている間は、実は女性は小さく安堵していました。人の存在が嬉しかったのでしょう。
ですがその安堵も車の停止で恐怖に変わります」
抑揚をつけて、静かながら話の起伏に応じて声音を制御する。
烈火をして雰囲気に飲まれそうになる。
「なんで目の前で知らない車が止まるのでしょう。ここは道の真ん中で、止まるような理由は見当たりません。
まさかなにかの犯罪? 自分が狙われて? 女性は怖くなって脚が竦んでしまいます」
「あれ、なんか毛色変わってない? ホラー? 怪談?」
無視。
「そして車のドアが開きます、そして現れたのは――」
ここで目一杯の溜めをいれて、決定的な一言を放つ。
「彼氏!」
「怖くないというか、オチがクソ」
「…………」
「…………」
烈火の一瞬の寸評によりぶった切られた。
七はめげずにもう一度。
「一枚、二枚、三枚――あれ? 女性は気付いてしまいます」
「なに続ける気だよ……」
「しまった、今日は勝負下着ではない!」
「だからどこがホラーだ!」
こいつ怪談とかホラーのことちゃんと理解してんの? わけわからん話になってるぞ。なんも怖くない上にクソほどつまらん。
烈火は容赦なく批判をぶちこむ。
「もう展開が稚拙だし、接続が意味不明だし、わけわからんわ」
「まあ、今即興で考えた話ですし」
「お前、即興かよ……」
自分から発案しといて、怪談考え付く前に決行しちゃったのかよ。ノリで生きすぎだろ。
七はそれにと釈明をひとつ。
「でも、女性的にはホラーですよ。勝負下着を着るべき時に間違えてしまうなんて……一生の不覚と言えます」
「おれ男子だし共感できない上にやけに生々しい話で嫌だ」
「もう! 文句ばっかりですか。じゃあ玖来さんもさぞ面白い話ができるんですよね、期待しますからね、はいどうぞ」
「…………」
ほう。喧嘩を売るか。
烈火は面白いの部分をガン無視して声音を低くに設定して発する。
「あれは確か……」
烈火はガチで怖い話をして震える七ちゃんを眺めて楽しんだのでした。




