36 別にどこでも
「唸れ右腕、吼えろ鉄球! 走れ――勝利への一本道を!」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火と休みに外出する時は、楽しそうに幾らでも。
七ちゃんは絶叫とともにボールを投げ放つ。デートに定番のボウリングである。
「お前、毎回よくもまあ中二で叫べるな、恥ずかしくないの?」
「言った後に激しく後悔しますね。あ、ガーターです」
「……じゃあ言うなよ。そしてドンマイ」
「投げる際に瞬間的にテンションが向上し、熱が滾って声が出てしまうんですよ。アニメの主人公が技名を叫ぶのと同じ原理です」
「そういう理屈で叫んでるのか、あの主人公どもは」
さあ、と素っ気無く七は首を振る。自分で言ったことだろうが、興味失くすな。
ともあれ順番。次は烈火が投げる番。
「きゃー! 玖来さんがんばってー! あの憎き白いピンどもを蹴散らしちまってください!」
「……それは応援なのか邪魔立てなのか」
「どちらでもありますね」
「……」
無言で烈火はボールをレーンへと放る。
あっさりストライク。
七はつまらなさそうな顔をする。
「玖来さん、さっきからストライクばっかりでつまらないんですが」
「え、なんかごめん」
普段はあれだが、玖来 烈火スポーツ系では圧倒的である。
引き換え七はガーターばかりで上手くしてもスペアすらなし。
これは互いに面白くないのでは? 七は提言する。
「やっぱりカラオケにしましょう。カラオケ、シャウトしますよ」
「別にいいけど」
「えっ、最初にボウリングにしようって言ったの玖来さんじゃありませんでしたっけ?」
そんなあっさりオーケーなの?
烈火としては無問題。
「ありゃ少しでも七に運動させようと思ったからだ」
「体調管理までしてくれる彼氏! 素敵です!」
「で、カラオケか?」
「んー」
一瞬の間。そして。
「まあ、おれは別にどこでも七と一緒なら構わんぞ」
「まあ、わたしは別にどこでも玖来さんと一緒なら楽しいです」
「「…………」」
綺麗に言葉が被り、続けて顔を赤くして沈黙するまで一致する。
烈火と七は実に波長の合う仲良しでしたとさ。




