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33 噂をすれば







「女子が選ぶ校内で最も隣に並んで欲しくない女子ナンバーワン星見ほしみ 桜子さくらこさんだそうです」


 神代 七が変なことを言うのは日常である。

 特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣の席にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。

 烈火は突如として明かされた謎の校内ランキングに渋面をさらす。ちょっと事態が飲み込めない。


「誰が」

「だから、私の逆ドッペルゲンガーさんのことです」

「あぁ、そういえばそんな話してたな」


 授業をふたつも挟めばどうでもいい会話内容は記憶の底へと沈む。忘れるわけではないが、取り出すのにちょっと手間と暇が必要になるのだ。

 思い出せばすらすら行ける。


「で、並んで欲しくないって、なに、嫌われてんの?」

「いえ、そうではなく、貶めている表現ではないんです。ぶちまけて嫉妬ですね」


 何故、隣に並ばれたくないのか。

 星見 桜子、高校一年生にして――すっげぇ巨乳なのである。

 おっぱいでかっ! ほんとに高校生かよ……。不倫中の人妻並みに色気あるんだけど! というのは七が情報収集で得たコメントである。


「不倫中の人妻って……なにそれ怖い」

「本当ですね」


 高校生に対する表現じゃねぇだろ、上位過ぎる。

 余計に見てみたくなった――て。


「…………あ」

「どうしました玖来さん」

「その……えっと、もしかしてお前の逆ドッペルゲンガーって、あれか?」

「え」


 目を見開く烈火の視線を辿れば――確かに長身巨乳美人にして妖艶なる女生徒がいた。教室のドアの前でもじもじしていた。


「あ、あの方です。しかしなにをやっているのでしょうか。ここは三年のクラスで、彼女は一年生のはずですが」

「誰か用事がある人がいるのかもな。これはお近づきになるチャンス、中継役を買って出るか」

「待ってください。そんな邪な欲望をよくもまあ彼女の前で垂れ流せますね、ちょっとぶん殴っていいですか」

「……冗談だ。ただ困ってるっぽいし、手助けしてやるべきかなって。うん、先輩として」

「私が行きますから、玖来さんはここで待っていてください」

「いや、おれも――はい、待ってます」


 久々に七の全力の激怒顔がチラついたぜ、怖い怖い。

 で、七が逆ドッペルゲンガー改め星見 桜子のところへと歩み寄る。話す。すぐに帰って来た。


「え、なに、なんで帰ってきたの」

「玖来さんだそうです」

「おれは玖来さんだけど、なに、どういうこと」

「ですから、彼女が探していたのは玖来 菊花さんの兄だそうです」

「菊花の兄はおれだけだぞ」


 うん、と深く頷かれてしまった。

 つまりなにか、わざわざ上級生の教室にやって来てまで探している自分が烈火だったと。


「え、死ぬのはおれのほうだった?」


 笑顔で怒髪天を衝きそうな七を前にして、烈火は少しだけ死を覚悟したのでした。









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