34 あの妹の友達
「連れてきましたよ、星見さん。玖来 菊花さんの兄であり私の『彼氏』であるところの玖来 烈火さんです」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火が学校で隣にいる時は、授業の合い間にある短い休み時間ごとに言ってくる。
廊下の隅で烈火と七と、それから星見 桜子の三名は膝をつき合わせる。
どういう三角形だろうか、これは。三角関係ではないのは確かだが。
その中でどうすんべ、と沈黙する烈火と七である。どうしてこういう状況になったのか、ふたりにはわからない。
なので呼び出した本人である星見が、最初におずおずと口を開く。
「菊花ちゃんの、お兄さん、ですよね」
「……あ、はい」
控えめな声だ。声量はあまり大きくないのに、聞き取りはしやすい。意思が通った声だからだろうか。
「わたしは菊花ちゃんの友達の、星見 桜子と申します。突然お呼び立てしてしまってごめんなさい」
「いや、いいけど、そうか友達。菊花の友達か……。
えっ、菊花の友達!? あいつ友達いたの!?」
「うわ玖来さんが酷いこと言い出しました」
「いやだってあいつだぞ? 妹に友達がいたことに軽い感動と深い安堵を覚えたわ」
またなんか兄みたいなことを……いや彼は兄だった。
というか割とブラコンのケがあるような、七は小さく警戒を抱いた。
ひとしきり思いを噛み締め終えると、烈火は話を戻す。未だに用件すら聞いてはいない。
「その妹の数少ない友達が、えっと、おれになにか用?」
「……別に菊花ちゃんの友達は少なくはないですけど、えっと」
友人の名誉を守る発言だけして、そこで星見は少し言葉を迷う。躊躇う。
「その、申し上げにくいんですけど、お兄さんはそちらの神代先輩? とお付き合いしてるんですよね」
「まあ、そう」
「ラブラブです」
先から牽制の台詞が目立つ七である。
そんなに逆ドッペルゲンガーが怖いか。まあ確かに噂に違わぬ色気とおっぱいだけども。あと控えめな性格もグッドだ、烈火のツボを抑えている。
星見はなんだか微笑ましそうに続ける。
「では最近、学校中で噂のイチャつきまくってるカップルというのは、おふたりなんですね」
「……は?」
噂ってなに。聞いたことないんですけど。イチャつきまくってるってなんだよ。
咄嗟に烈火の口は空っとぼけることを選択する。
「人違いじゃないか?」
「でも、噂の外見に一致しますし、先ほどから端々にノロケとイチャが見えてますが」
「…………」
存外ズバっと斬り込んでくるタイプだった。
ここから言い逃れは厳しいだろうか。烈火は沈黙の内に思案を走らせるが、それが言葉となる前に横からフレンドリーファイア。
「はい、噂のカップルですよー」
「七ちゃん!?」
「あ、やっぱりそうですか」
見遣ればなんか七は嬉しそうだった。烈火との仲良し具合が公認で皆の知るところなのは、彼女的には嬉しいらしい。
「というか噂流したの私ですからね」
「はっ!? なんで!?」
「そりゃ玖来さんが他の女性の方と一緒にいたらすぐに私の耳に入るようにですよ」
「うわぁ……」
うちの彼女、浮気は絶対許しませんの人だったよ。
それは普通だけど、対処が怖いって。学校全体巻き込んで監視体制を整えないで、お願いだから。
そんな烈火と七のやり取りに、くすくすと星見は笑う。
「噂通りの仲の良さですね」
「……そりゃどうも。で、それがどうしたんだ。おれと七が仲良しで、それを確認してなんかあるのか」
まさか烈火のことが好きで告白しに来たけど、彼女持ちと前振りで確認したかったとか。
……ないな。
烈火はそんなにモテる方ではないし、第一、今の星見の表情は酷く穏やかで眩げだ。悪感情は見受けられない。
では一体。星見は言う。
「今度、お話聞かせてください」
「? 話って、どんな」
「ノロケ話です」
「え?」
普通、それを聞くとみんな怒りだすんだけど。
「わたしはそういうお話を聞くのが好きなんです。自分が恋愛できないから、他の人のお話を聞いて楽しむんです……えっと、変、ですか?」
「いや変ではないけども」
代替行為の一種だろう。
しかし何故この美人おっぱいが恋愛できないんだ、他の男の目は節穴か。なんなら烈火が、
「…………」
心の中を読むことはできないはずなのに、七ちゃんは物凄い表情で烈火を見つめていましたとさ。




