31 学ラン
「玖来さん、そろそろ夏服にしないんですか? ずっと学ラン着ていますと見てるこっちが暑いんですが」
神代 七が変なことを言うのは日常である。
特に彼氏の玖来 烈火と一緒に登校している時は、会話の中にすぐに放り込んでくる。
「……おれは学ランが好きなんだよ」
「で、ギリギリまで夏服は着たくないと? 冬服なんてもうクラスでも玖来さんだけですよ?」
現在七月中旬。そりゃそうだ。
ちなみに七は最近までは烈火に付き合って冬服を着ていたが、もう限界。夏服引っ張り出して涼しげだ。
「いいか七、七ちゃん。お前にとって代名詞がパーカーなら、おれにとっての代名詞は学ランなんだよ。これ着てないと誰だろうって言われるんだよ」
「……私が玖来さんがなにを着ていてもすぐにわかりますよ」
「ほんとかよ、七ちゃん人の顔覚えるの苦手だろ」
「苦手ですが玖来さんの顔だけは確実に覚えていますし、勘違いなんて絶対しませんよ」
断言されるとちょっと照れる。
いや、烈火だって七がどんな服を着ていても一発で見分けられる自信はあるが。彼女は目立つ紫銀の髪だし。
「おい、今すごいガッカリすること考えませんでしたか」
「いや?」
そっぽ向いても誤魔化されない。
ならば勢いで誤魔化そう。烈火は叫んでみる。
「ともかくおれは学ランを着続ける! たとえおれ以外の全ての人間が夏服にしようと、孤高に冬服で暑苦しさを周囲に発散させ続けてやる!」
ぎらぎら太陽に向けて宣言する烈火。完全に意地になっている。こういうどうでもいいところで固執し続ける辺りは非常に子供っぽい。
と考える七に、賛成の声。後ろから駆け寄る反対意見が打って出る。大声で叫ぶから現れる者がある。
「ノロケ以外まで振り撒く気か、見損なったよ烈火くん!」
「うん? 小日向?」
「おはよう、烈火くんに神代さん」
それはクラスメイトの小日向 圭であった。中性的な顔立ちに、か細い体つきを夏服で覆っている。
彼は別に男子用の制服は違和感なく似合っているが、それと同じくらい女子用の制服も似合いそうともっぱらの評判の男子である。
あと特徴をあげれば、彼はヒートアップしやすいタチだった。
「それで烈火くん、冬服を続ける気らしいけど、周りの意見もとりいれて欲しい。君がひとり真っ黒の学ランを着ているだけでクラスメイト四十名が暑苦しい気分に襲われるんだよ。もとからイチャコラしてボクたちに精神的な殴打を連打しているのに、君はどれだけクラスメイトを苦しめれば気が済むんだ!」
「いや……でも……おれの代名詞的なところあるし……」
「君の代名詞はロリコンだろう!?」
「小日向、お前、冷静になったらすげぇ謝れよ!?」
「今はオーバーヒート中だからごめんね!? それもこれも日頃君たちがイチャついて、今さっきもイチャついて、そしてイチャついてるからだよ!?」
「そこについては悪かったよ。七も謝っとけ」
「あっ、はい。ごめんなさい」
「そんなイチャ混じりの謝罪なんかいるかー! どうせなら一日、イチャつくのをやめてくれ! 切実にお願いするよ!」
そこで熱が冷めたらしい。小日向は深いため息をひとつ吐く。
それから三秒間停止して――即行で頭を下げる。
「ごっ、ごめん烈火くん、神代さん。また変なこと叫んじゃったね、最近暑くなってきたらか我慢がきかなくなってるのかなぁ。うん、本当にごめんね。じゃあボク先に行くから、また教室でね」
たったった、と小日向は去っていく。
毎度毎度、嵐みたいな奴である。
七は若干の真剣味を帯びる口調で考察する。
「あの人、実は多重人格なんじゃないですか?」
「割と酷いこと言ってやるなよ。おれたちのせい……らしいし」
「今回は玖来さんの学ラン意固地が大きいでしょう。どうするんですか、一応、校則の上では一年中学ランでも可能は可能ですが」
「……着替えるよ」
なんかもう、疲れた様子で観念する烈火でありました。




