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これが選択と言う

 相談した結果、このままいく事にしました。


 間の話は機会があれば書き直して投稿するかもしれません。

 酷薄な表情をして、魔力を全身に広がらせた。行うのは、基本戦術と言っても良い強化魔法。視界は澄んでいき、体が軽くなる。上昇した嗅覚が、風で送られてくる甘い匂いを嗅ぎとった。


「まぁ、効かないか。ちょっとでも同情してくれれば良かったんだけどな」


「テメェの詰まらねぇ身の上話で同情なんかするかよ。ーーどうせ嘘だろ」


「バレたか。あぁ、嘘だ」


 それが合図となり、キルトは手に持っていた袋を相手に投げた。紐で結ばれていた部分がほどけて、中身が霧散する。それは、とある植物を粉状にしたものであった。空気中に広がる事で、あらかじめ掛けていた魔法が解放される。


 その植物は元々、薬として用いられるものだ。本来の効果はさておき、これには僅かな刺激臭が含まれており、魔法で増幅させていく。嗅覚で感じるものであるその刺激臭からは痛みは感じない。だけど、相手の隙を作り出すには充分であった。


 一瞬だけ、御者の男は鼻に意識を向けて顔を逸らす。その隙間に捩じ込ませるように拳を、彼の顔に叩き付けた。軟骨がひしゃげる鈍い音と顔にめり込んでいく肉を押すような感触。


 上半身を後ろから引かれたように倒れていく御者を見ながら、ナイフを逆手に持ち御者の体を追っていく。仰向けに倒れた御者の手を足で押さえ込み、左手で胸を押しナイフを首筋に当てた。


「素人が俺に勝てると思ってたのか?」


 五秒も経たぬ内に拘束された御者の表情は、闇に隠れて確認出来ない。それでも、息を吐く声が僅かな静寂を破った。


「はぁ。これでも元は冒険者なんだけどな。遺跡にも潜ってたんだ」


 その時、繋がれていた馬が興奮したのかキルトを威嚇する。これが御者の仕業だと直感的に悟ったキルトは、すぐさまその場から退いた。遅れて、嘶きと共に棒のような脚がキルトがいた場所の空気を切り裂く。


 対策をしたいたのか、そう思い舌打ちを一つ。だが、キルトが有利なのは変わらない。直前のやり取りから、御者がキルトの戦闘能力よりも遥かに劣るのは目に見えている。


 再び拘束すれば良いと判断したキルトは、逆手に持ったナイフを構えた。立ち上がろうとしている御者はとても強化魔法で身体能力を上げているとは思えない程に遅い。


 腰を回転させ、体重を乗せた蹴りを下段に放つ。ちょうど、立ち上がろうとする御者の腹を目掛けた峻厳な一撃は思惑とは反し、空を切った。


 刹那、何が起こったのかを理解したキルトは目を見開かせる。


 急に相手の動きが加速して蹴りを回避、更には手に持った刃物をキルトに繰り出してきた。軸足を崩して体全体を後退させながら体勢を整える。足を交差させるような不格好とも言える体勢のまま、牽制気味にナイフを横に薙いだ。


「テメェ……」


 睨み付けるキルトを嘲笑うかのように、御者の男は鼻を鳴らした。


「こういう戦い方もあるんだよ、現役冒険者」


 、一度は捕まるリスクを負ってでもキルトの油断を誘い込んだ。手を打っていた、とは言ってもあまりに危険が大きすぎる。


 強化魔法を発動していない状態からの、急な解放は油断をしていたキルトにはあり得ない程の加速に見えてしまった。おそらく、気構えていれば対処した上で打ち勝てたであろう、拙い強化魔法だ。しかし、使い方があまりにも絶妙過ぎる。


 戦闘能力こそキルトが圧倒しているものの、間違いなく目の前の男は強いと確信した。才能が無いからこそ、力の使い方や相手の隙を作る戦法、言葉一つにしても考えられている。


「冒険者を諦める必要なんか無かったんじゃねぇか?」


 この言葉に対して相手は反応する。確信をしながら、キルトは声を発した。間を作るために。


「いやぁ、遺跡はそこまで甘くはないんでね。いくら策を弄して、考え抜いてとして、どうしようもないもんはどうしようもない」


 相手は警戒の体勢をしつつも、明らかに隙が出来ている。この手の敵にまともな戦闘を仕掛けても、裏をかかれるだけだ。その辺りの駆け引きに疎いキルトが取るべき行動は、相手の思惑に乗ることだった。


 問答無用で仕掛けた場合、取り返しの付かない策に弱い。ここはある程度、罠の可能性を潰していくしかなかった。相手からの攻撃が無い以上、周りや御者を観察する暇はある。


 しかし生憎と、感覚の強化をする程の余裕は無いだろう。こちらが様子を探っている事は相手も承知で、またそれは相手も同じのはずだ。そういう意味では後手に回ってしまった印象は拭えない。


 心底、袋を用意して良かったと思う。こちらも何か策がある、準備は怠っていないと思わせているからだ。心理の合間に打てた楔は大きく、それが場の一時的な膠着を促していた。


 はっきり言って、この場で使える手は他に無い。ある意味、後手に回る事を覚悟してここに来ていた。詰めの甘さと、己の頭の悪さに吐き気がする程の後悔を抱くがどうにか飲み込む。


 キルトと御者の配置は、入り口側に立っているのがキルトで奥に佇んでいるのは御者。ならば逃げる可能性は低く、相対している以上は戦う他ない。だけどキルトには殺意はなかった。その事がどう影響するかは分からない。


 あくまで防御と威嚇用に持っているナイフが小さく感じる。どこか頼りないものであるかのように、徐々に収縮していく錯覚を受けた。だからキルトはナイフを強く握り直した。殺さず生け捕りにする決意を固める為に。


 思考を仕草に出さないよう注意して、キルトは御者との会話を進めていく。


「俺の体力を削る為に何かしてただろ。テメェの仕業か」


 何気なく、場を繋ぐだけの質問。どこか見落としは無いか、この間にも瞳を動かして辺りを観察する。


「いや、俺じゃない。そんな真似、俺に出来るはずないじゃないか」


 その言葉に、キルトは驚きを隠せなかった。どうせはぐらかされると思っていたのに対し、御者は素直に答えた。否応なくキルトの思考はそちらへ持っていかれる。


 ここで情報を渡す意味を考えた時、その真意に気付いたキルトは忌々しげに闇に紛れる男の姿を睨んだ。あるいは、この動揺が相手の狙いなのかもしれない。だとすれば狙いは面白いように的中していた。


 さらさらとした風を受け流しながら、抗うことなく身を預ける。


「そりゃ良かった。テメェの役割は俺達の行動を制限する為だったのかよ」


「流石に暗殺は含まれてない。金で雇われてるだけだ、命は惜しい。あの化け物染みた女に殺される未来しか見えないからな」


 御者が言う女とはミコトの事であろう。確かに、下手な真似をすればミコトは容赦なくその剣で斬ってくるはずだ。



「確かに、テメェじゃ幾つ命があってもミコトには勝てないだろうぜ」


「俺では、な。そもそも、こんな事態になる事が想定外だったんだ。あんたと戦うのも、本来の役割には無い。その辺は別の奴に任せるさ」


 また一つ、情報が流れた。


 打てば出てくる情報は、キルトの心を乱していく。それでも、敵としてキルトは言葉を続けた。


「殺意のある奴が何言っても、ふざけてるとしか思えねぇよ」


「ーー逃げられないからな。あんたを殺す以外に選択肢は無いのさ」


 土を擦る音。風に混じる甘い香り。暗闇で身動ぎをする影。夜は更けていき、月が姿を表す。元々、そこにあったはずなのに月はどこか遠く、世界を越えてきたように地上へ光を注いでいった。


 一陣の風がざわめきを起こし、それをきっかけに御者は動き始めた。


 



 とある事情により今週と来週の更新頻度は下がります。

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