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ぶちギレ御免っ!! などと息巻く愚かな呪いの子

「こんな状況で対話かよ」


「うむ。一応、『軌跡の残骸』は警戒せんとな」


 古代魔法の中でも位の低い『軌跡の残骸』に警戒する必要があるのか、とキルトは抵抗を続けながら疑問に思う。熱の帯びた腕から抜け出そうと止めどなく魔力を操作するが、先程までの綻びは見えない。


「これでも私は戦略兵器なので、一対一には向いておらん」


 兵器。この言葉を聞いたキルトは、背筋に走る怖気を抑えられなかった。つまり彼が攻撃体制に入れば、ここ一帯が破壊される事を表している。古代の技術を集結させた兵器ならば、それも可能だろう。


「この平和な街で破壊体を使う程、儂は外道ではない。穏便に事を済ませたいのだが、そろそろ魔力を納めてくれんか」


「どいつもこいつも、ワシって自称する奴にはロクな奴がいねぇ」


 ファメルソウドにしても、このネムサールも。人の意見を聞かずに押し付けてくる。ネムサールに関しては暴力をちらつかせてくるので更に悪い。


「まあ、場合によってはアリスと名乗る娘は殺すつもりだがな」


 ーー爆発するように、『向こう側』の魔力が弾けた。


 感情に呼応して、思考を認識する前に体が動く。


「ウラァアアアア!」


 記憶に蓄積されたあらゆる経験が形となり、再現された。


 限界を超えて絞り出される魔力を具現化して、全身から刺を出すように射出。悲鳴を上げるように鳴り響いた金属音が聴覚を混乱させるが、既に混乱の海に身を浸したキルトはそれを無視する。


 再現するのは、ゴブリンロードの暴虐だ。ネムサールの怪力を捩じ伏せる為に、人間に許されたギリギリの強化を自分に施した。


「む、再現の域にまで達していたか」


 未だ余裕を見せるネムサールの手を抉じ開けて逃れる。理性を失った瞳で睨み、地の底から這い上がってくるような低い声を出した。


「テメェはコロスぞ、魔王」


「やはり対話は無理であるか。ならば、意識を刈り取ろう」


 先に動いたのはキルトだった。ミコトの速度と魔力操作を真似て、懐に飛び込む。『軌跡の残骸』を以てしてもミコトの動きを完全に再現する事は不可能だが、それでも最大限の力は発揮できる。


「遅すぎて反応に戸惑ってしまうぞ」


 肘の辺りから魔力が噴出され、加速した平手がキルトに迫る。既に攻撃の体勢に入っていたものの、避けられないと見て防御の意味で左腕を構えた。ゴブリンロードの鎧をイメージして具現化された魔力は、硬度は遥かに劣るものの形にはなっている。


 迫り来る圧力は、暴風となってキルトを襲う。鎧に亀裂が走り、衝撃が体を吹き飛ばした。そのまま壁にぶつかり、崩れ落ちる。


「思考能力は低いのか、正常な判断か出来ていない。儂と戦い勝てるとでも思ったか? お主、儂が絶対に破壊体を用いないと、傲っておるな。確かに外道ではないが、必要とあらば使用するのが魔王であるぞ」


 勝てない。少し強いだけの人間が、上位者の魔王に勝てる要素など無かった。


 でもーー


「テメェがアリスを殺すって言うのなら、俺は戦う」


 ネムサールの思惑は概ね予測出来る。アリスを殺す理由も、魔王にとって必要な事の一つだと。


「テメェの道理なんてブッ飛ばしてやるよ」


 それでも、抗わなくてはならない。絶対的な存在である魔王と戦う理由など、アリス以外には無かった。家で待ってくれている彼女を殺させない。僅かでもその可能性があるのなら、全力で否定する。


 きっとネムサールは蟻を触る程の手加減をしているはずだ。その証拠として、今の一撃で死ななかった。本当ならば体が弾けてもおかしくはない。被害らしい被害もなく、キルトは立ち上がれる。


「失言であった。あの娘を殺す可能性は一パーセントにも満たない」


 今の時代には存在しない数字を用いて説明するネムサールに、キルトは魔力の渦を作りながら舌打ちをした。


「ゼロじゃなかったら、それで十分」


 再び、世界の遅延が始まる。これで魔王と同等の反応速度になったとは思わないが、気休めにはなる。渦を自分が中心となるように集めて、とある人物の再現を行った。


 キルトが知る限りでは最強の人物。過去、キルトに手を差し伸べてくれた彼の技術を、身に集めた。


 魔王が上位者だと理解していて、ネムサールはそれを自覚している。だから、キルト相手にあり得ない程の手加減をした。そこが付け入る隙となる事も分かっていても、ネムサールは余裕を見せていた。


 圧倒的な差からくる傲慢を叩き潰す。


 自分に宿る可能性を発現させる渦の魔法。それは、格上を倒す事に特化したものだが使いどころは間違っていない。既に脳は過度な負荷がかかり悲鳴を上げている。絶え間なく続く吐き気を誤魔化し、魔法を解放した。


 ーー彼は、『渦の反証』と言っていた。


 断続的に爆発する憤怒が、キルトが扱える『軌跡の残骸』の限界を越えさせている。外傷は無いものの、内部はヒビが入り、壊れる寸前だ。


 地面を蹴る足も、振り上げる腕も、キルトの意識から離れていた。脳が命令を出して、認識するまでの間さえ隙になってしまう。


 距離を詰め、攻撃範囲にネムサールを入れる。それは同時にネムサールの領域に侵入するという事だ。まず、攻撃の速度では勝てない。おそらく、ほぼ被弾するはず。


 『軌跡の残骸』が、魔王の動きを予測して反応した。一瞬の後に来る平手は不可避。ならば備える為、いち早く防御に移った。


 しかし、反応していたはずのキルトの速度を飛び越えて、攻撃が飛んできた。刹那の間も与えられず、キルトはほぼ防御が出来なかった。


「がァっ……」


 肺の空気が外に出る。極限まで手加減されたはずなのに、先程と同じように吹っ飛ばされてしまった。何度挑んでも勝てる気なんてしない。


 ーーやっぱり、弱ぇなぁ。


 だからこそ、『渦の反証』は応えてくれる。


「む……!?」


 無から最大に。加速されたキルトはネムサールに向かっていく。視界による認知に頼っているのなら、キルトの体が肥大したかのような錯覚を受ける。弱い生物の抗いに戸惑っている隙に、牙を剥き出しにした。


 渦を巻く魔力は、相手の力をそのまま返す。魔法が発動されてしまえばどういう状況であっても動ける、かなり受け身であり奇襲性の高い魔法だ。今なら、一撃を入れられるはず。


 残った魔力を全て攻撃に集める。ミコトのように流れるような速攻は不可能だから、一撃だけは最大まで威力を高めよう。


 息を鋭く吐き出し、勢いを殺さず押す力で拳を突き出した。金属の軋む音が鼓膜を揺らす。最も守りが薄い部分を全力で殴り付けたが、傷ひとつ与えられない。


「クソッタレがァ!」


 あらんかぎりの怒りを、激情に駆られた次の攻撃に繋げようとする。だが、ネムサールはそれを虫でも払うかのように薙いだ。


「怒りはその者を強くするが、弱くもする。間違った思考をしているお主が、儂に傷を付ける事は叶わん」


 今度こそ、巨大な手で壁に押し付けられ拘束された。もう反撃の余地は残っていない。気付けば、青の魔力は徐々に溶けていく。『向こう側』の魔力が枯渇し、キルトの戦闘手段は失われた。


「もう対話はせん。一方的に話し、済んだら気絶させる」


 全身から力が抜けていく感覚と、大切なナニかが奪われる喪失感に項垂れる。アリスの為に勝てなかった自分を責め、悔しさが支配した。アリスを殺す、そう言った目の前のクズを今すぐ殺さなくてはならないのに、力が足りない。


 絶望的な差を感じ、キルトは唇を噛んだ。口の中に広がる血の味は、身に覚えがある。何度味わったものだ。奮起して何かを成し遂げられるのなら、この世に悲劇なんて無い。


 


 

 

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