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閑話、鐘を鳴らす星達

 

▼▼▼


「これは、やり過ぎではないのか?」


「いやいや、私は私の役割を果たしているだけさ」


 あまりにも抽象的な世界で、二つの存在が会話をしていた。とても言葉と呼べるものではないが、意思と意味を以て会話を成立させている。


 深海の中と見える者もいれば、溶岩の中と答える者もいる。最も抽象的な意味で言うならば、人々が『向こう側』、空の遥か上といった認識が正しい。


 二つが持つ領域は本来なら相容れず、重なることはない。空白以外のモノを拒絶した世界と、全てが規律と法則によって構成された世界。


「私としても、あの人間と関わるつもりはなかったんだよ。だけど、領域に足を踏み入れられれば関わりたくなるのも私の存在理由だから」


「貴様の狙いは何なのだ。なぜ、我の邪魔をしようとする?」


「とんでもない。私達の敵対は御法度なんだ。その均衡を破る行為は私には出来ないさ。もっとも、君やアレス、リムニアは違うだろうがね」


「拒絶と嫌悪のファメルキスらしからぬ言葉だな」


 話題の方向性を変えたのは、ファメルキスが言った事に対する否定をしないからか、あえて答えをはぐらかしたのか。


「十分、不足なしに私は拒絶しているよ。私の在り方を知っている君なら、理解出来るだろ?」


「それが我の妨げになっている事に気付かない貴様ではあるまい。定めた道筋と、歯車を乱す行為は許さんぞ」


「そんな、リムニアではあるまいし。好んで君の怒りを買う事はしないさ。……あれ、リムニアがソルーナに喧嘩を売ったのは今だっけ? 前だっけ?」


「先だ、馬鹿者。次の世界で喧嘩を売ったのだ。奴の享楽ぶりにも愛想がついた」


 話が逸れてしまっている。時間の流れに高い次元で意味を持たせる彼らの認識は、人間世界の認識と全く異なる。今も、過去も、未来も、彼らにとっては同一のものであった。


「さて、話が逸れてしまった。そろそろ本題? に入ろうじゃないか」


「ああ。貴様が下の世界に干渉し過ぎている事について、だな」


「ん、正確にはどの世界のどの人間を言っているんだ?」


「レイデンムーン。この名に聞き覚えはあるだろう?」


「いや、無いよ。人間を区別するなんて器用な事、私には無理だね」


「そうだったな。では、キルトと言い換えよう。確か、あの世界ではキルトだったはずだ」


「……分からないなぁ。本当に、人間と直接通じたのは一日前くらいだから、忘れてしまった」


「相変わらず生物に関しては馬鹿の極みだな、貴様は。もう少し分かりやすく言うと、下の世界を拒絶する人間だ。近い内にまた会いに来るはずだが」


「あぁ、あの人間か。私にしては珍しく、好意を持って接してやったよ。それがいけなかったのか」


「その通り。キルト・レイデンムーンとアリス・レイデンムーンは既に死んでいたはず。貴様の介入で生きてはいるがな。おかげで不自然な道を造ってしまったではないか」


 明るい意味を込めて、ファメルキスは会話を続ける。命に価値を見出だしていない上位者は、明るい黒の色を帯びて言った。


「良いじゃないか。人間の生き死にで変わるほど、下の世界は脆弱ではないはずだ。あ、でも私の残り滓を奪っていって喜んだたから、案外脆いのかもな」


「……人間とは、世界を構成する為の大事な駒の一つだ。だから、前の世界を滅ぼした時に人間だけは残しておいたのではないか。価値が無いとは、それは上へ喧嘩を売っているのと同義だぞ」


「良い良い、上は失言一つで怒ってこないから。敵対にはならないだろう。まあ、怒ったら怒ったでリムニアと共に盛大に暴れてやる」


 リムニア。この存在に限っては複数の呼び名がある。ファメルキス達は意味が通じやすいリムニア、秘密と真実を司る者として呼称していた。


「それは止めろ。奴の悪戯で彼方の世界が滅ぼされたのだ。おまけに我等と同等の存在を生んでしまった」


「リムニアがする事は本当に面白いな。人間に傾倒する彼には共感出来ないがね」


 嫌悪と拒絶を司るファメルキスは、他のどんな存在にも共感しない。表面上で受け入れる事はあれど、内では嫌悪して拒絶している。


「そんな貴様が、今回は人間に肩入れしているな。下らない事で我を煩わせるな」


「些細な事だ。あの世界の上位者であるドラゴン共よりも、矮小な人間に興味を持っただけの事。それに、君の存在理由を崩す『結果』にはならない」


「結果、か。どうやら、貴様と我の視る結果は違っているようだな」


「そりゃ、私と君の視ているモノは違うさ。君こそ、法と運命のテスカリウキらしくないな」


 あらゆる世界の根底で関与する存在ーーテスカリウキはファメルキスの思念に、拒絶と嫌悪を感じ取った。


「我は道を正しくする為に関与しているのだ。このやり取りも、例外ではない」


「だから、鐘を鳴らす準備をしていたのか。こちらとしては、もう少し大きな規模だと思っていたのだがね」


 鐘を鳴らす、という表現は正しくないかもしれない。だけど敢えて、この意味を持たせた。


「ドラゴン共に直接呼び掛け、更には魔王なんて呼ばれている奴等に気付かせるか。まぁ、私は構わないさ」


 ファメルキス達がいる領域から、下界に関与する事は出来る。それこそ気紛れに生物を滅ぼす者もいるが、彼には均衡が保たれていた。滅多な事では下界に関与せず、互いに争わない。だから世界は保たれ、回り続けている。


 その範囲内ならば、何をしても許される。もっとも、中には均衡を破りたがる存在もいた。秘密と真実のリムニアや、嫌悪と拒絶のファメルキスのような存在は遊戯感覚で均衡を破ろうとする。


「貴様は邪魔をするな。……では、この薄気味悪い領域から出るとしよう」


 重なりあわない世界が分離され、テスカリウキが離れていく。


「拒絶の本質を知らない者達も面白い。ーーキルト・レイデンムーン。お前は認めてくれるなよ。いずれ来る空白を」


 伝わらない事が分かっていても、意思にしてしまう。


「私からも鐘を鳴らしてやろう。ーー贈り物だよ」


 どこまでも邪悪な意思は、下界に鳴り響く。テスカリウキが鳴らした鐘とは違う、負の意味しかない鐘の音を。



 

 大半は悪ふざけ。残りは伏線。回収は遠い未来。無駄な話。

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