↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
569/579

第十五部 第三章 第10話

《……ふふっ》


 突然、アリスの頭の中でフローラが笑った。


(何?)


《なんか二人とも、すっかり歴史改変クラブじゃん》


「ちょ、ちょっとフローラ!」


 思わず声に出してしまい、アリスが慌てて口を押さえる。


「歴史改変クラブ?」

「……え?」


 アリスがゆっくりレティシアを見る。


「今……何て?」

「歴史改変クラブ、と聞こえたが」


「聞こえたの!?」


《え?》


 今度はフローラまで驚いた。


《ちょっと待って。レティシア、私の声聞こえてるの?》


「……フローラ?」


 レティシアが周囲を見回す。


「うそ……本当に聞こえてる……」


《私にも分かんないんだけど!?》


 その瞬間、アリスのすぐ隣で淡い光が揺れた。


「えっ?」


 細かな光の粒が集まり、ゆっくりと人の輪郭を作っていく。

 アリスが目を見開く前で、その光は半透明の少女の姿へ変わっていった。


「フ、フローラ!?」


《あれ?》


 現れた本人が、自分の両手を見て首を傾げる。


《……何これ》

「私に聞かないでよ!」


 レティシアも目を見開いたまま、目の前に現れた少女を見つめていた。


「……フローラ」


《あ、やっぱり見えてる?》


 フローラは自分の腕を左右へ振ってみる。

 光の輪郭は動きに合わせて揺れるものの、身体の向こうには石壁が透けて見えていた。


《実体じゃないみたい。たぶん、思念が外に見えてるだけ》

「たぶんって……」

《だって私も初めてなんだもん》


 アリスは額へ手を当てた。


「何で今になって……」

《知らないよ。私だってびっくりしてる》


 レティシアが一歩近づき、半透明のフローラをじっと見つめる。


「姿も、よく似ているな」

《そりゃフローラだからね》

「だが、こちらにいるフローラとは雰囲気が違う」

《まあ、いろいろあったから》


 フローラは少しだけ笑ったあと、突然胸を張った。


《というわけで!》


「何が、というわけなの?」


《アリスと一緒にいる三百年後側のフローラ、ただいま登場!》


 両手を広げた瞬間、周囲に浮かんでいた光の粒がぱっと弾けた。


「自分で演出したの!?」

《せっかく見えるようになったんだから、登場くらい派手にしたいじゃん》


「いや、今さっき自分でも驚いてたよね!?」


《それはそれ、これはこれ》


 アリスが頭を抱える横で、レティシアが小さく吹き出した。


「……なるほど。君がいつも話していたフローラは、こういう性格なのか」

「そうなの……」

《ちょっと、何その言い方》


「だって本当でしょ!」


 レティシアはしばらく二人を見ていたが、とうとう堪えきれずに声を上げて笑った。

 先ほどまで部屋に残っていた重い空気が、その笑い声とともに少しずつ和らいでいく。


《それで、さっきの話だけど》


 ひとしきり笑ったあと、フローラがアリスとレティシアを交互に見る。


《私は、アリスが今日やったことを間違いだとは思ってないよ》


「フローラ……」


《だって、あそこで動かなかったら要塞は落ちてたかもしれないし、オルトだってどうなってたか分からない》

《少なくともアリスは、その未来を知ってて見てるだけなんてできなかったでしょ》


「……うん」


《だったら、それでいいんじゃない?》


 フローラはいつもの軽い調子で笑った。


《何が起きるか分からないなら、その時また三人で考えればいいよ》


「三人?」


《そう。歴史改変クラブ》


「まだそれ言うの!?」


 アリスが即座に突っ込む。


《せっかくレティシアもいるんだから三人でしょ》

「勝手に人数増やさないでよ!」


 レティシアは笑いながら、二人を見ていた。


「私は悪くないと思うが」

「レティシアまで!?」


《ほら、レティシアも加入希望》

「希望してないでしょ!」


「いや、まだ何も言っていないぞ」


「そこで否定してよ!」


 アリスの抗議に、フローラが楽しそうに笑う。


《よーし、それじゃクラブのスローガンも決めよう》

「決めなくていい!」


《『歴史は書き換えるものではない――上書き保存するものだ!』》

「何それ!?」


 レティシアが首を傾げる。


「上書き保存とは何だ?」

「そこ説明しなきゃいけなくなるから!」


《いいじゃん、分かりやすくて》

「こっちの世界じゃ全然分かりやすくないよ!」


 フローラが声を上げて笑い、レティシアも意味は分からないままアリスの慌てぶりにつられて笑った。

 重い話をしていたはずなのに、いつの間にか三人の間には柔らかな空気が戻っている。


「……歴史改変クラブという名前はともかく」


 しばらくして、レティシアが改めてアリスを見る。


「これから先、君が知る歴史と違うことが起きるのなら、私もその意味を一緒に考えたい」


 アリスは黙ってレティシアを見つめた。


「君一人に、三百年分の未来を背負わせるつもりはない」

「……でも、私が知ってることなんて全部じゃないよ」

「それでいい」


 レティシアは迷わず答えた。


「分かることだけ教えてくれ。分からないことは、一緒に考えればいい」


《うん。それが一番いいと思う》


 フローラも頷いた。


 アリスは二人を見比べた。

 まだ不安は残っているし、自分が何を変えてしまったのかも、その先に何が待っているのかも分からない。


「……それでも、ちょっと怖いけど」


《ほら、また考えすぎてる》


「え?」


《アリス、それ何回目?》


 フローラが腰に手を当てる。


《無理かもって言いながら、結局やるのいつもアリスじゃん》

「そ、それは……」

《学院の時だって、ダンジョンだってそうだったでしょ》


 アリスが言葉に詰まる。


《今日だってそう。Ver3動くか分からないって言いながら乗って、一人で敵の本隊に飛び込んで要塞を守ったし》

「……それを言われると……」


《でしょ?》


 フローラは得意げに胸を張る。


《『私でいいのかな』って言ったあとに、一番派手なことやるのがアリスなんだから》


「そんな言い方しなくてもいいじゃん……」


 頬を赤くして視線を逸らすアリスを見て、レティシアも小さく笑った。


「私も、フローラに同意だな」


「レティシアまで……」


「君は自分で思っているより、ずっと前へ進む人間だ」


 レティシアは一度言葉を止め、アリスをまっすぐ見つめた。


「だからこそ、周りも君を信じられるんだと思う」

「……私を?」

「ああ」


 アリスはすぐに返事ができなかった。


 偶然ここへ来ただけだと思っていた。

 自分はこの時代の人間ではなく、歴史を背負ってきたわけでもない。


 それでも、今日ここで戦うことを選んだのは自分だった。

 結果として、知っている記録とは違う景色が今、目の前に残っている。


「……本当に、未来を変えられると思う?」


 アリスの問いに、レティシアは少しだけ考えた。


「分からない」


 迷いのない答えだった。


「だから、今ここで答えを決めるつもりはない」

「……」

「これから起きることを見ながら、その都度自分たちで選んでいけばいい」


 レティシアが手を差し出す。


「だから、これからも一緒に考えてくれないか」

「……未来のことを?」

「ああ」


 アリスは差し出された手を見つめた。

 すぐには触れず、ほんの少しだけ迷う。


 けれど、レティシアは急かさなかった。

 半透明のフローラも、今度は茶化さずに黙って見守っている。


「……うん」


 アリスは小さく笑い、レティシアの手を取った。


「私に分かることなら、ちゃんと話す」

「ああ」

「それで……分からないことは、一緒に考える」

「そうしてくれ」


 レティシアの手は温かかった。

 その温もりを感じながら、アリスの肩から少しだけ力が抜ける。


「ありがとう、アリス」


「……私の方こそ」


 二人が握手を交わした瞬間、横でフローラが勢いよく両手を上げた。


《はい! 歴史改変クラブ、正式発足!》


「だからその名前はやめてってば!」


《えー、もう三人とも合意したじゃん》

「してない!」

「私は別に構わないぞ」

「レティシア!?」


 アリスの叫びに、レティシアが声を上げて笑った。

 半透明のフローラも楽しそうに笑い、三人の声が静かな夜の要塞へ小さく広がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。