第十五部 第三章 第7話
兵装庫の扉を押し開け、そのまま床を蹴る。
背部ユニットから青白い魔力が噴き出し、アリスの身体が一気に浮き上がった。
「うわっ……速い!」
《出力上げすぎないで! Ver4より制御が粗いから!》
「分かった!」
光の翼を広げ、アリスは要塞へ迫る敵部隊へ向かって加速した。
要塞北東では、森から姿を現した魔国軍の大部隊が外郭結界へ向けて進軍していた。
その後方では大型の魔術陣が幾つも展開され、遠距離魔術が断続的に要塞へ放たれている。
その上空へ、一条の青白い光が飛び込んだ。
「――そこまで!」
アリスは一気に急降下し、《ルミナ=コード》を抜き放って先頭部隊へ振り抜いた。
青白い斬撃が地面を走り、進軍していた先頭部隊を左右へ吹き飛ばして隊列を大きく崩す。
「なっ……!?」
「何だ!?」
突然の攻撃に魔族たちが足を止め、後続も前方の混乱に巻き込まれて進軍速度を落とした。
《アリス、止まった!》
「このまま行く!」
アリスは空中で体勢を整え、《ルミナ=コード》を構え直した。
「ここから先は、一歩も行かせない!」
背部ユニットが再び光を放ち、アリスは一気に加速して敵陣の側面へ飛び込んだ。
一人を切り払い、その勢いのまま身体を回転させて次の敵の武器を弾く。
「くっ!」
想像以上にVer3の出力が高く、アリスは僅かに姿勢を崩しかけた。
それでもすぐにスラスターを調整し、体勢を立て直す。
《出力、少し落として!》
「分かった!」
再び振り抜いた斬撃が青白い光を引き、敵の前列を少しずつ後退させていく。
「何者だ……!」
「ヴァルキリー……?」
敵兵たちの間にざわめきが広がった。
だが、その混乱は長く続かず、前方の兵士たちが左右へ開いていく。
「……来る!」
黒い装甲を纏った魔族たちが、隊列の奥から姿を現した。
先ほどまでの兵とは魔力量が明らかに違い、斧、槍、剣を構えた複数の精鋭がアリスを囲むように広がっていく。
《アリス、気をつけて。こいつら、さっきまでとは違う》
「……うん」
アリスは息を整え、《ルミナ=コード》を握り直した。
正面の魔族が地面を蹴り、巨大な斧を唸らせながら振り下ろした。
ガキィンッ!
「くっ……!」
アリスは剣で受け止めたが、重い衝撃が腕を抜けて身体を僅かに沈ませる。
「重い……!」
どうにか踏みとどまったものの、その僅かな停滞を敵は見逃さなかった。
背後から槍が閃き、同時に側面からも別の刃が滑り込んでくる。
「っ!」
アリスは背部ユニットを噴かして強引に身体を逃がした。
だが完全には避けきれず、装甲の側面が削られて火花が散る。
《アリス、右!》
上空から魔弾が降り注ぎ、アリスは《ルミナ=コード》を振って二発を弾いた。
しかし残った一発が肩へ直撃し、身体が地面へ叩きつけられる。
ドォンッ!
「……まだ!」
アリスは地面を蹴って起き上がり、その勢いのまま反撃へ移った。
だが振り抜いた《ルミナ=コード》は敵の魔力障壁に受け止められ、深く斬り込むことができない。
「硬い……!」
斧兵が再び踏み込んで巨大な斧を振り下ろし、アリスは横へ跳んで直撃を避けた。
直後、斧が叩きつけられた地面が大きく砕ける。
《このままだと囲まれるよ!》
「分かってる!」
離れようとすれば別の敵が進路を塞ぎ、斧、槍、剣、魔術が連携してアリスを少しずつ追い込んでいく。
ガンッ!
「っ!」
正面からの剣を受けた直後、今度は横から伸びた槍を弾き返す。
ギィンッ!
だが、その僅かな隙へ死角から斬撃が入り、白銀の装甲へ火花が走った。
「くぅっ……!」
アリスは数歩押し戻され、乱れた呼吸を整えながら《ルミナ=コード》を構え直す。
《アリス……このままじゃ押し切られる》
(……うん)
一人ひとりが強いだけではなく、相手は複数での連携にも慣れている。
明らかに劣勢だったが、それでもアリスの背後には守らなければならない要塞があった。
「……退けない」
アリスは《ルミナ=コード》を握り直す。
次の瞬間、正面から斧が振り下ろされると同時に、左側からも槍が迫った。
「……っ!」
どちらかを避ければ、もう一方へ飛び込む位置だった。
その瞬間、アリスの内側で何かが弾けた。
膨大な魔力が一気に全身から溢れ、周囲の音が急速に遠ざかっていく。
同時に、迫っていた敵の動きが今までよりも遥かに遅く見えた。
「……これ……」
金色の髪が根元から少しずつ白銀へ染まり、蒼い瞳にも淡い銀の輝きが混ざって蒼銀へと変わっていく。
装甲の上から白銀の魔力が重なり、《ヴァルキリーVer3》の青白い紋様も呼応するように強く発光した。
《……アリス、白銀化した》
(……うん)
振り下ろされる斧も、横から迫る槍も、その向こうから飛んでくる魔弾も見える。
アリスは静かに息を吐き、《ルミナ=コード》を握り直した。
「――遅いッ!」
白銀の光を纏った刃が振り抜かれ、正面の斧を大きく弾き返す。
そのまま踏み込んだアリスは、横から迫っていた槍兵の武器を根元から切り飛ばした。
「なっ!?」
アリスは身体を捻り、背後から飛んできた魔弾を白銀の障壁で受け止める。
「はぁぁぁっ!」
さらに前へ踏み込み、白銀の残光を引きながら精鋭たちの間を駆け抜けた。
一人の武器を弾き、次の敵を蹴り飛ばし、そのまま三人目へ《ルミナ=コード》を振り下ろす。
先ほどまでアリスを囲んでいた精鋭部隊の陣形が、一気に崩れた。
《今の出力、さっきまでと全然違うよ!》
「……まだ、止めないと!」
アリスは荒い息を整えながら、《ルミナ=コード》を構え直した。
白銀化によって力は大きく上がっているが、目の前にはまだ多くの敵兵が残っている。
白銀の光が戦場を駆け抜ける中、魔国軍の後方にいた巨躯の魔族がアリスの姿を睨みつけていた。
黒い甲冑を纏い、大剣を握ったその魔族は、周囲の兵とは明らかに異なる雰囲気を持っている。
「……あの光……」
周囲の兵たちも動きを止め始めた。
「まさか……」
指揮官らしき魔族の瞳が大きく見開かれる。
「レティシア・ファーレンナイト!? なぜここにいる!」
その叫びが周囲へ広がり、敵兵たちの間に動揺が走った。
「レティシア……?」
「まさか……!」
一方、要塞側でも白銀の光を見つけた兵士たちがざわめいている。
「あの光……!」
「レティシア様……?」
「戻ってこられたのか!?」
アリスはその声を聞き、思わず白銀の光を纏った自分の手を見た。
(……私を、レティシアだと思ってる……?)
《アリス》
(うん)
《今の姿、レティシアとかなり重なって見えるんだと思う》
アリスは一瞬だけ戸惑った。
自分がレティシアだとは思っていないし、少なくとも今の自分にはそうだと言い切れる根拠も何もない。
それでも、この誤認によって敵の動きが鈍っているのなら。
「……いい」
《アリス?》
「今はレティシアだと思われても構わない」
アリスは《ルミナ=コード》を構える。
「ここを守れるなら、それでいい!」
その言葉とともに、白銀の魔力が再び強く輝いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白かった」と思っていただけましたら、ブックマーク・★評価・リアクション・一言感想のどれか一つでもいただけると、とても励みになります。
ありがとうございました!




