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第六部 第一章 第7話

 翌日――。

 クラリス・ノーザレインは、王立魔導学院研究部門の権限を通じて、王都へと文書を送る準備を進めていた。

 宛先は、ファーレンナイト王国中央情報局。


 申請内容は、極めて明快だった。


 対象は、王国西部演習地跡地。

 《バロール・ビースト》亜種の発生現場にして、異常魔力干渉と未解析の術式痕跡が未だ残留する地点。

 危険性と同時に、調査価値が極めて高い――否、放置すれば王国全体に影響を及ぼしかねない、最重要案件。


 だが、その手続きを始める前――。


 クラリスは学院本棟一階、重厚な石造りの廊下を足早に進み、事務局の執務室へと向かっていた。

 高い天井と分厚い壁に囲まれた廊下は、足音を鈍く反響させ、学院という組織の“重み”を否応なく意識させる。


 執務室の扉を開くと、窓際から差し込む午後の光が、帳簿や文書の束に斜めの影を落としていた。

 室内には紙とインクの匂いが満ち、実務と責任が積み重なった空気が漂っている。


 応対に出たのは、白髪交じりの事務局長だった。

 細縁の眼鏡越しに向けられる視線は冷静で、その声音には一切の感情を排した事務的な響きが滲んでいる。


「クラリス講師。中央情報局宛の文書……ですね」


 差し出された封書に目を落とし、事務局長は静かに続ける。


「内容は察しますが……王国管轄の案件となると、学院の権限だけでは通りにくい。ご承知の通りです」


 それは忠告であり、同時に牽制だった。

 “無理筋ですよ”と、遠回しに告げている。


「承知しています」


 クラリスは即座に答えた。

 声色は穏やかだが、そこに迷いは一切なかった。


「ですが、この件は王国の問題である以前に、学院演習中に発生した事例です。指導監督下で起きた以上、学院としての記録と説明責任を残す必要があります」


 一歩も引かぬ調子でそう告げ、用意していた文書を机上へと差し出す。

 封蝋には、王立魔導学院研究部門の正式印。

 さらに目を通せば、学院長、副学院長、研究部門責任者――必要な署名はすでにすべて揃えられていた。


 事務局長は無言のまま書面を手に取り、ゆっくりと目を通す。

 ページをめくるたび、紙の擦れる音だけが室内に響いた。


「……なるほど」


 しばしの沈黙の後、事務局長は低く息を吐く。


「形式上は、確かに問題ありません。学院主導の“調査要請”として、中央情報局へ回付することは可能です」


 だが、と言葉を区切り、視線を上げる。


「返答が来る保証はありません。中央がどう判断するかは、向こう次第です。それでも?」


「構いません」


 クラリスは即答した。


「必要なのは、結果ではなく“手続きを踏んだ事実”です。学院として、この事案を軽視しなかったという記録が残れば、それで十分です」


 その言葉に、事務局長は一瞬だけ視線を細める。

 研究者としての執念。

 そして、学院という組織を背負う覚悟。


 両方を見抜いた上で、深くため息をついた。


「……あなたは、相変わらず理屈が通っている」


 そう呟きながら、封書を受け取り、机の引き出しから公式印を取り出す。


「では、中央情報局宛に、学院経由で正式に転送しましょう」


 重々しい音を立てて、封書に学院の公式印が押される。


 次の瞬間、文書は転送用の術式陣へと収められた。

 青白い魔力光が円陣を走り、封書の輪郭が淡く揺らぐ。


 そして、一瞬の光の収束とともに――王都へ。


 ――こうして、王立魔導学院の名を冠した正式な調査依頼は、確かに中央情報局へと届けられた。


 それが、静かに、しかし確実に――

 次なる局面を動かす一手になるとも知らぬままに。


 だが――その返答は、予想していたよりもはるかに早く、そして冷淡だった。


 ――「現地は軍管轄区域に指定されており、当面の立入調査は全て制限されています」


 余計な修辞も、説明もない。

 ただそれだけが、乾いた公式文として淡々と記されていた。


 クラリスは文書を手にしたまま、しばらく何も言わずに視線を落とす。

 紙の白がやけに眩しく感じられ、そこに刻まれた文字だけが浮き上がって見えた。


 やがて、静かにそれを机上へ伏せる。


「……事実上の拒絶、ね」


 ぽつりと漏れた声には、怒りも動揺もなかった。

 あるのは、冷えた刃で状況を切り分けるような、徹底した分析の響きだけ。


 淡々と事実を受け止めるその調子の裏で、しかし彼女の眼差しの奥には、微かな苛立ちとも焦燥ともつかぬ感情が燻っているようにも見えた。


 向かいに座っていたアリスは、その微細な変化を敏感に感じ取り、わずかに眉を寄せる。

 机上に置かれた文書――王立魔導学院事務局を通じ、正式な手続きを踏んで提出した調査申請と、その返答――を見下ろしながら、小さく息を吐いた。


「……ファーレン側が、意図的に調査に圧をかけてるってこと?」


 言葉は短い。

 だがそこには、学院生としての不安ではなく、一度戦場を経験した者の直感が込められていた。


 あの一文は、単なる形式的な拒絶ではない。

 ――「近づくな」という、はっきりとした意思表示。

 そう告げられているように、アリスには思えた。


 クラリスはすぐには答えない。

 伏せた視線のまま、指先で文書の端を静かに叩く。


 トン。

 トン。


 規則正しい音が、沈黙の中で妙に耳に残る。


 やがて、低く抑えた声で言葉を継いだ。


「それもあるでしょうね。……でも、単なる圧力じゃない」


 指を止め、ゆっくりと顔を上げる。


「ティアナ公女殿下が着任した時点で、現地の調査権限は“王族直属”に切り替わっている。つまり――学院や研究部門が、正面から口出しできる段階は、もう過ぎているの」


 淡い光を宿した瞳は、冷ややかに研ぎ澄まされていた。


 アリスはその視線を真正面から受け止め、唇を結んでから短く言い放つ。


「学院経由じゃ、もう届かない。……私たちは、最初から蚊帳の外ってわけね」


 その言葉は鋭く、紙の端を裂くように空気を断ち切った。


 クラリスはわずかに息を吐き、口元に苦みの走る笑みを浮かべる。

 苛立ちではない。

 観測者として、状況を正確に把握した者だけが浮かべる、冷静な笑みだった。


 だが、その奥底には、「このままで終わらせる気はない」という固い意志の影が確かに潜んでいる。


 クラリスは小さく頷き、淡々と続ける。


「でも……別の方法ならあるわ」


 そう言って、机の引き出しを開け、新しい文書を取り出す。

 そこには、すでに別系統の封蝋が用意されていた。


「ミラージュ王国経由よ」


 アリスの視線が、自然とその封蝋に向く。


「王国間の“共同演習”という名目で、ミラージュ側が“関係調査員の追加派遣”を要請する。そうなれば、ファーレンも完全には無視できない」


 クラリスは文書の端を指でなぞりながら続ける。


「ティアナ公女殿下が現場責任者になっている以上、その調整権限も、形式上は彼女に委ねられているはずよ。王族同士の調整、という形になる」


 そこで、ふと手を止める。


「……そういえば」


 思い出したように、机上の別の報告書を引き寄せた。


 それは、彼女が所属する〈ミラージュ王国魔導技術開発局 第二研究室〉宛てにまとめていた文書。

 ファーレンナイト側からの照会に応じて編纂された、正式な回答資料だった。


 件名は、《ミラージュ古代遺跡》における過去調査の続報について。


 ファーレン側が正式に閲覧許可を求めてきた案件であり、クラリス自身が中心となって資料をまとめ上げたものだ。


「……この件、使えるかもしれない」


 クラリスの瞳が、細く、鋭く光を宿す。


「ファーレンが“こちらの資料”を必要としているなら、こちらも“関係調査員の派遣”を条件として提示できる。情報交換という形なら、表立って拒絶はしにくいはず」


 アリスはその意図を即座に理解し、小さくうなずいた。


「つまり、ミラージュの外交窓口を通して、研究所から正式に要請を上げる……」


「ええ」


 クラリスは即座に肯定する。


「第二研究室からの技術的回答として、王国外交局に働きかけてもらう。そのうえで――」


 言葉を区切り、アリスを見る。


「“学院の協力者”じゃない。“ミラージュ王国魔導技術開発局の派遣員”として、私たちが現地に入る」


 室内の空気が、静かに、しかし確実に動いた。


 正面突破が拒まれたなら、側面から。

 それも、合法で、形式を整えた上で。


 アリスはゆっくりと息を吐き、唇にわずかな笑みを浮かべる。


 クラリスは新たに整えた文書を手に取り、静かに立ち上がった。

 紙の束は薄い。だが、その中に詰め込まれた情報と意図は、決して軽いものではない。


「……よし。これを研究所経由で提出するわ」


 落ち着いた声だった。

 だが、その奥には、ここで引き下がるつもりが一切ないという意思がはっきりと込められている。


 彼女が所属する〈ミラージュ王国魔導技術開発局 第二研究室〉は、国内でも王国間外交に最も近い立場にある研究機関のひとつだった。

 表向きは高度魔導技術の研究・検証を担う学術機関。

 しかし実際には、各国との技術協定や情報交換、共同研究の調整を行う、半ば外交機関に近い役割も担っている。


 クラリスはその立場を最大限に利用した。

 研究成果の共有という名目で文書を整え、そこに「追加調査員派遣要請」を抱き合わせる。

 露骨な要求ではない。

 だが、意図は明確だった。


 書簡は即日で発せられた。

 研究所の正式ルートを通じ、王国外交窓口へと回される。


 ――だが。


 翌日、戻ってきた返答は、想定していた以上に冷ややかなものだった。


 第二研究室の責任者であるドラン博士が、眉間に深い皺を刻みながら、机上に封を切った文書を広げる。

 白髪交じりの頭をわずかに振り、低く息を吐いた。


「……残念だが、外交窓口からの返答は“時期尚早”の一点張りだ」


 視線を文書に落としたまま、淡々と続ける。


「ファーレンナイト王国がすでに現地を軍管轄区域に指定している以上、こちらから積極的に追加派遣を要請するのは、政治的に角が立つ……との見解らしい」


 研究者というより、長年外交の空気を読んできた調整役としての言葉だった。


 報告を受けたクラリスは、机の前で腕を組み、沈黙のまま目を伏せる。

 怒りはない。

 驚きもない。

 ――予測の範囲内だった。


 その横で、アリスが小さく息を吐く。


「つまり……“動くな”ってこと?」


 ドラン博士は即答せず、言葉を選ぶように一拍置いてから、ゆっくりとうなずいた。


「直接的な拒否ではない。だが、“今は触れるな”“様子を見ろ”と暗に牽制しているのは確かだ」


 眼鏡越しの視線が、二人を静かに見据える。


「向こうとしても、学院や研究所レベルからの要請を、正面から受ける気はないのだろう。王族直属の調査が始まった以上、主導権を渡すつもりはない」


 クラリスは唇を引き結び、わずかに眉を寄せた。


「……やっぱりね。学院経由では届かない。研究所からの外交経路でも、形式的に押し返される……」


 ここまで来ると、答えはひとつしか残っていなかった。


 アリスはしばらく考え込み、やがて、ふとある人物の顔を思い浮かべる。

 自然と、その名が口をついて出た。


「……フィオナ王女殿下に頼んでみるのはどう?」


 クラリスが顔を上げる。


「今は外交任務で休学中だけど、ミラージュ王国の王族としてなら、話を通せる立場にいるはず」


 一瞬の沈黙。

 そして次の瞬間、クラリスの声が即座に返った。


「それだわ」


 迷いのない即答だった。


 彼女はすぐに端末を起動し、王族直通の連絡手段を呼び出す。

 研究所の正式回線とは別に、極めて限られた者しか使えない暗号化通信。


 アリスと並んで画面を確認しながら、要点を整理していく。


 ――学院経由の申請は拒絶されたこと。

 ――研究所からの外交ルートも封じられたこと。

 ――現地調査が、軍主導で進められていること。


 それらを簡潔にまとめ、最後に一文を添える。


 ――《王立魔術学院側、ならびに魔導技術開発局 第二研究室からの調査申請が拒絶されました。演習地跡の調査支援について、ミラージュ王国側からの正式申請という形で動けるよう、王室としてのご助力をお願いできませんか?》――


 送信。


 それから、数時間も経たないうちだった。


 端末に淡い光が走り、着信を告げる。


 表示された文面を見た瞬間、アリスの表情がわずかに緩んだ。


『了解しました。こちらで調整を図ります。王国として正式な申請書を送るよう、魔導技術開発局と連携を取りました』


 一拍置いて、続く一文。


『……アリスさん。くれぐれも、無茶だけはしないようにね』


 差出人――フィオナ・ミラージュ。


 公的な承認文の末尾に、そっと添えられたその私的な言葉が、アリスの胸に静かに、そして確かに温もりを灯した。


 ――まだ、道は閉ざされていない。

 そう、はっきりと告げられた気がした。


 そして翌日。


 ミラージュ王国魔導技術局の封印を施された書簡が、王都アステリアを発ち、正規外交便としてファーレンナイト王国王都へと届けられた。

 宛先は、王国の中枢――宰相府。


 白と深青を基調とした封蝋には、ミラージュ王国王室庁の正式印。

 そこに重ねられた魔導技術局の紋章は、単なる研究報告ではなく、国家間の意思表示であることを明確に示していた。


 書簡の冒頭には、簡潔かつ冷静な文言が並ぶ。


 ――「王国間合同演習の延長調査に関し、当王国より数名の調査官派遣を希望する」


 理由は学術的検証。

 名目は合同演習の補足調査。

 だが、その裏にあるのが、演習地跡に残された異常魔力と《バロール・ビースト》亜種の存在であることを、宰相府の誰もが理解していた。


 添付された申請者名簿には、二つの名が記されている。


 ――クラリス・ノーザレイン。

 ミラージュ王国魔導技術開発局 第二研究室所属。


 そして、調査支援要員として。


 ――アリス・グレイスラー。


 その名を見た瞬間、宰相府の応接室には、わずかな沈黙が落ちた。


 即日で開封された書簡は、複数の高官の手を経て慎重に検討される。

 王国軍の管轄。

 すでに着任している王族指揮官。

 他国研究員の立ち入りがもたらす政治的影響。


 すべてを秤にかけた末、判断は宰相府単独では下されなかった。


 最終的な裁量は――現地責任者へ。


 そして数刻後、学院へと返送された王印入りの返答書には、短くも重い文言が記されていた。


 ――「ティアナ・レイス・ロアウ公女殿下の判断により、特例的に入域を許可する」


 続く一文が、その“条件”を明確にする。


 ――「現地での行動は、すべて現場指揮官の監督下に従うこと」


 書簡を読み終えたクラリスは、しばらく無言のまま、その羊皮紙を手にしていた。

 指先に伝わる、独特の硬さ。

 それは、正式な許可であると同時に、決して自由ではないことを示す感触だった。


 やがて、彼女は小さく息を吐く。


「……通ったわ」


 声には安堵よりも、覚悟の色が濃い。


「特例、だけどね。それでも十分よ。――私たち、再び現場に入れる」


 アリスはその言葉を真正面から受け止め、静かに息を整えた。

 そして、はっきりとうなずく。


「ありがとう、クラリス。……それから、フィオナにも」


 クラリスはわずかに笑みを浮かべるが、それは研究者の達成感というより、綱渡りを終えた者の表情だった。


「ええ。彼女の支援がなければ、ここまでは動けなかった。王族としての影響力を、正しい形で使ってくれた……感謝しないとね」


 二人は言葉少なに視線を交わし、静かにうなずき合う。


 再び踏み込むのは、

 かつての演習地。

 そして、記憶と歌声と魔力が交錯した場所。


 ――“記憶”と“真実”が眠る現場へ。


 もう、後戻りはできない。

 それを理解した上で、二人は確かに歩き出す決意を固めていた。


 ――アリスが依頼をお願いしてから、数時間後。


 遠くミラージュ王国の王都アステリア。

 夕刻を迎えた王宮の一角、外交任務用に割り当てられた執務室に、フィオナ王女は一人籠もっていた。


 高い天井から吊るされた魔導燭台が、淡い金色の光を落とし、机上に積み上げられた書類の山を照らしている。

 羊皮紙に刻まれた文字は、外交文書特有の簡潔さと重みを帯び、読み進めるほどに責任の重さを実感させた。


 フィオナは一通の申請書に視線を落とし、小さく息を吐く。


「……やっぱり、これね」


 指先で文書の端をなぞりながら、静かに続ける。


「ミラージュ王国名義の正式申請。しかも、合同演習の延長調査という形……これなら、ファーレンナイト王国も簡単には突っぱねられないはず」


 言葉は冷静だが、その奥には読み切った者だけが持つ確信があった。


 窓の外では、沈みゆく夕陽が王都の城壁を赤銅色に染め、長い影を街並みに落としている。

 その光が差し込むたび、フィオナの横顔には王族としての凛とした輪郭が浮かび上がった。


「クラリスさんの判断は正しいわ」


 独り言のように、しかし迷いのない声で続ける。


「演習地で起きたことは、学院だけの問題じゃない。ミラージュでも同様の異常が観測されている以上、これは王国間の安全保障に直結する案件……学術調査という名目であっても、外交が関与する正当性は十分ある」


 一瞬だけ言葉を切り、フィオナは書類の隅に記された名前に視線を落とす。


 ――アリス・グレイスラー。


 その名を胸中でなぞり、わずかに表情を和らげた。


「……アリスさん。あなた、また無茶をしているわね」


 叱責というより、心配が滲む声音だった。


「でも……放っておけない、か」


 彼女は静かに鐘を鳴らす。


 澄んだ音が執務室に響き、ほどなくして側近が姿を現した。


「関係部署に連絡を。魔導技術開発局、外交局、王室庁――すべてよ」


 声ははっきりとしていた。


「王国間調整は慎重に進める。でも、時間はかけすぎない。ファーレン側が“軍管轄”を理由に態度を硬化させる前に、こちらから正式な布石を打つ」


 側近が一瞬だけ目を見開き、すぐに深く頭を下げる。


「承知いたしました。至急、手配いたします」


 足早に執務室を後にする背中を見送り、フィオナは再び窓辺へと歩み寄った。


 夕焼けに染まる空を見つめながら、静かに息を吸い込む。


 その眼差しには、王族として背負う責務だけではなく、

 かつて学院で共に学び、言葉を交わした友人たちを想う、確かな温度が宿っていた。


「……私は外交官であり、王女よ」


 小さく、しかし確かな声で言い聞かせる。


「でも同時に、仲間を見捨てるつもりもない。――その両方を、きちんと果たすわ」


 机上の文書にそっと手を置き、フィオナは決意を固める。


 この一手が、

 学院と王国、そして再び動き始めた“異変”の流れを、確実に前へ進めると――

 彼女は疑っていなかった。

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