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第84話 彼女の選択

翌日。


昼休み。


知らない番号。


電話。


出る。


「富樫さんでしょうか」


女性。


年配。


「はい」


「昔、駅前にあった店、覚えています?」


店名。


聞いて。


思い出す。


彼女と。


何度か。


飲んだ。


店。


もう。


ない。


「店主の娘です」


「何か」


「父の荷物を整理していて」


少し。


間。


「あなた宛ての封筒が出てきました」


午後。


仕事。


長い。


終業。


店主の娘。


会う。


駅から。


少し。


離れた。


小さな喫茶店。


封筒。


古い。


黄ばんでいる。


表。


〈富樫さんへ〉


字。


分かる。


彼女。


間違えない。


「父が渡し忘れたのか」


娘。


「たぶん」


「いつ頃」


「十年以上前です」


それだけ。


十分。


受け取る。


開ける。


最初。


〈ごめんなさい〉


読む。


止まる。


彼女の父。


怒った。


会社。


立場。


問題。


三崎物産。


私。


将来。


全部。


書いてある。


でも。


途中。


違う。


〈父に反対されたから、ということにした方が、あなたも私も楽だと思いました〉


私は。


ゆっくり。


読む。


〈でも、本当は私が選びました〉


指。


止まる。


〈私は、あなたと一緒に行く勇気がありませんでした〉


次。


〈あなたが悪いわけではありません〉


〈私も悪いと思っていません〉


〈ただ、私は自分の生活を選びました〉


最後。


〈好きでした〉


それだけ。


私は。


長く。


座る。


娘。


「大丈夫ですか」


「はい」


「昔の恋人?」


「まあ」


「会います?」


反射。


「いや」


早い。


自分でも。


少し。


驚く。


「いいです」


今。


どこ。


結婚。


してる。


してない。


子ども。


いる。


いない。


生きてる。


たぶん。


調べられる。


でも。


しない。


それは。


彼女が。


選んだ。


生活。


私が。


確認する必要はない。


帰り。


駅。


風。


少し。


人。


多い。


私は。


手紙。


鞄。


入れる。


ずっと。


金で。


引き裂かれた。


そういう話に。


していた。


その方が。


分かりやすい。


私は。


被害者。


彼女も。


被害者。


悪いのは。


父親。


金。


会社。


誰か。


それで。


全部。


説明できた。


でも。


違った。


彼女は。


選んだ。


私を。


選ばなかった。


ではない。


父親を。


選んだ。


でもない。


自分の生活を。


選んだ。


私は。


立ち止まる。


改札。


前。


人。


右。


左。


流れる。


どちらへ。


行くか。


みんな。


自分で。


決めている。


たぶん。


でも。


右と左。


だけじゃない。


立ち止まる。


戻る。


階段。


上がる。


店に。


入る。


帰らない。


そういうのも。


ある。


私は。


少し。


笑う。


「人って」


誰に。


言う。


でもない。


「勝手に意味、作るな」


自分に。


言った。


駅前。


古い時計。


視界。


入る。


十八時十七分。


今日は。


見なかったことに。


しない。


でも。


意味も。


付けない。


そのまま。


歩く。


彼女は、私を選ばなかったのではない。彼女自身を選んだのだ。


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