第83話 十万円
夜。
203号室。
紙箱。
M-203。
久しぶりに。
全部。
出す。
ライター。
灰皿。
古い写真。
レシート。
小さな紙。
そして。
空いた場所。
十万円。
もう。
ない。
使った。
覚えている。
腹が立って。
その日のうち。
高い酒。
飲んだ。
残り。
何に使った。
忘れた。
「若いな」
独り言。
いや。
若くもなかった。
ただ。
格好つけたかった。
箱。
底。
指。
引っかかる。
薄い。
紙。
剥がれかけ。
納品票。
私は。
ライト。
近づける。
会社名。
三崎物産。
黙る。
もう。
驚くのも。
少し。
疲れる。
古いロゴ。
今と。
違う。
でも。
見覚え。
ある。
「本物か」
写真。
撮る。
久世。
榊。
送る。
数分。
久世。
返信。
〈ロゴは本物だと思います〉
榊。
〈型式は古いです〉
型式。
M-203。
箱。
客先の令嬢。
昔の恋人。
最後。
別れた。
翌日。
ポスト。
十万円。
私は。
ずっと。
父親。
社長。
誰か。
金で。
終わらせた。
そう思っていた。
納品票。
担当。
名字。
一文字。
消えている。
〈森〉
森山。
そう。
考える。
すぐ。
やめる。
森。
森川。
森本。
森田。
いくらでも。
いる。
伝票番号。
一九八九。
ではない。
十何年前。
私が。
彼女と。
いた頃。
その時代。
三崎物産が。
この箱に。
関わった。
それだけ。
「誰か」
声。
小さい。
「俺を見てた?」
返事。
ない。
当然。
箱。
裏。
鉛筆。
小さい。
〈確認のみ〉
私は。
指。
止める。
確認。
何を。
私。
彼女。
箱。
住所。
交際。
誰か。
それを。
見た。
可能性。
ある。
でも。
見ていたことと。
決めていたことは。
違う。
私は。
そこ。
間違えたくない。
昔の私は。
十万円を見て。
すぐ。
物語を作った。
金持ちの父親。
娘。
冴えない会社員。
反対。
別れ。
手切れ金。
分かりやすい。
だから。
信じた。
久世。
電話。
来る。
「見ました」
「どう思う」
「三崎物産が箱に関わった可能性はあります」
「十万円は」
「分かりません」
「恋愛は」
間。
久世。
「もっと分かりません」
「だよな」
「富樫さん」
「何」
「嫌ですか」
私は。
箱。
見る。
「嫌だよ」
「何が」
「自分の恋愛まで、誰かの計画だったみたいに見えるのが」
久世。
黙る。
私。
続ける。
「でも」
箱。
閉じる。
「これは、俺たちの恋愛とは別だ」
「はい」
「誰かが見てた」
「可能性はあります」
「それだけ」
彼女が。
笑ったこと。
私が。
好きだったこと。
喧嘩。
別れ。
あの夜。
それまで。
誰かに。
持っていかれる。
必要はない。
電話。
向こう。
久世。
小さく。
「そこは、残していいと思います」
「何を」
「あなたのものとして」
私は。
箱。
膝。
上。
置く。
十万円。
使った。
箱。
残った。
恋愛。
終わった。
でも。
終わり方の意味まで。
誰かに渡す必要はない。
誰かに見られていたことと、誰かに決められていたことは、同じではない。




