第81話 四人目の筆者
青いノート。
閉じたはずだった。
でも。
眠れない。
時計。
二時二十六分。
さっきまで。
壁に。
佳奈の声があった。
今は。
白い。
いつもの壁。
私は。
机へ戻る。
ノート。
開く。
自分が書いた。
最後の一行。
〈まだ、残れるかは分からない〉
少し。
恥ずかしい。
でも。
消さない。
その前。
相原澄江。
河西らしい字。
森山らしい字。
まだ。
誰のものか分からない字。
何度も。
見た。
指。
止まる。
空白。
一ページ。
前から。
何も書かれていない。
そう思っていた。
でも。
紙。
少し。
凹んでいる。
横から。
机の灯り。
当てる。
影。
ある。
文字。
ではない。
傷。
いや。
圧痕。
上の紙に。
強く書いた跡。
子どもの頃。
学校で。
やった。
鉛筆。
探す。
ない。
シャープペン。
芯。
横にする。
薄く。
擦る。
少しずつ。
出る。
数字。
〈1989.8.11〉
私は。
手を止める。
島。
河西。
あの夏。
同じ年。
次。
〈名前を決めた〉
その下。
ゆっくり。
文字。
出る。
〈富樫十兵衛〉
手。
止まる。
「……俺?」
違う。
一九八九年。
私は。
子ども。
三崎物産も。
河西も。
森山も。
知らない。
次。
〈本人ではない〉
思わず。
声。
出る。
「そうだよな」
安心。
していいのか。
分からない。
続き。
〈次に来る者を、そう呼ぶ〉
〈理由はない〉
〈仮の名が必要だった〉
私は。
椅子。
背中。
つける。
仮の名。
富樫十兵衛。
私ではない。
誰かが。
未来の人間を。
そう呼ぶために。
先に。
置いた名前。
それだけ。
なら。
予言ではない。
選ばれた。
でもない。
少し。
楽。
その次。
紙。
薄い。
圧痕。
途中。
消える。
角度。
変える。
灯り。
近づける。
最後。
一行。
出る。
〈ここですることがある〉
楽になった分。
そこだけ。
残る。
何を。
誰が。
ここ。
どこ。
三崎物産。
203号室。
島。
こちら。
向こう。
それとも。
別。
私は。
考える。
やめる。
今。
分かるのは。
名前。
先にあった。
本人。
後から来た。
その二つ。
窓。
閉じている。
風。
ない。
壁。
白い。
時計。
二時三十一分。
何も。
起きない。
私は。
圧痕の写真を撮る。
ノート。
閉じる。
名前。
表紙には。
ない。
私の名前なのに、私のために書かれた名前ではなかった。




