第78話 保留
夜。
203号室。
久世。
三度目。
麦茶。
二人。
「組織を離れます」
私。
「決めた?」
「まだです」
「離れるって言った」
「離れる方向で考えています」
「決めてないな」
「はい」
窓。
カーテン。
静か。
「客人」
私。
「何者」
久世。
壁。
見る。
「昔は、上位接触者と呼んだ時期もあります」
「上位?」
「序列ではありません」
「じゃあ何が上」
「私たちの手続きが通用しない」
「殴れる?」
久世。
見る。
「そういう発想、嫌いです」
「例え」
「物理的に触れた記録はあります」
「効いた?」
「結果が残っていません」
「消された?」
「分かりません」
また。
それ。
でも。
今回は。
怖い。
「俺」
私。
「怖かった」
久世。
「でしょうね」
「でも、いた」
「はい」
「なら、存在は認める」
「信じる?」
「別」
久世。
私を見る。
「敵なら?」
「敵だと確認できたら、敵として扱う」
「味方なら?」
「味方だと確認できた範囲で」
「暗黒なら?」
「それが何か分かったら」
久世。
少し。
笑う。
「面倒ですね」
「知ってる」
「私は」
彼女。
麦茶。
見る。
「向こうを見たい」
「知ってる」
「客人に近づけば」
「見える?」
「そう考える人が、組織にはいました」
「君は?」
久世。
答えない。
「俺のために残るなよ」
「え」
「組織のためでも」
「はい」
「客人のためでも」
「はい」
「向こうを見るためでも」
久世。
顔。
上げる。
「それは、私の理由です」
私は。
止まる。
「なら」
「はい」
「その理由は、自分で持て」
久世。
長く。
黙る。
「課長みたい」
「課長だよ」
そのとき。
風。
窓。
少し。
鳴る。
カーテン。
動く。
久世。
見る。
私。
「風も、君に決めさせたいのかな」
久世。
すぐ。
首。
振る。
「違うと思います」
「何で」
「風は、そんなに親切じゃない」
私は。
笑う。
「それでいい」
久世。
帰る前。
玄関。
靴。
履く。
「富樫さん」
「何」
「離れるかどうか」
「うん」
「今日は決めません」
「そうしろ」
「命令ですか」
「違う」
「なら」
彼女。
少し。
笑う。
「保留します」
ドア。
閉まる。
部屋。
静か。
私は。
その言葉が。
少し。
好きになっていた。




