第76話 呼び名
「帰ってください」
久世。
声。
低い。
客人。
灰色のスーツ。
振り返る。
「久しぶりですね」
久世。
拳。
握る。
「知ってる人?」
私。
「知ってはいません」
「じゃあ」
久世。
言葉。
選ぶ。
「知っている種類です」
種類。
嫌な。
言い方。
客人。
私を見る。
「彼女たちの組織では」
「はい」
「あなたみたいなのを、何て呼ぶ」
客人。
少し考える。
「使者と呼ぶ人もいます」
「誰の」
「その呼び名には、答えが含まれすぎます」
「じゃあ違う?」
「違うとも言いません」
久世。
「だから嫌なんです」
客人。
「何が」
「答えたように見えて、何も確定しない」
私。
少し。
笑う。
「俺たちと同じだな」
久世。
睨む。
客人。
笑わない。
「暗黒側?」
私。
久世。
「富樫さん」
止める。
客人。
窓。
見る。
「人は、分からないものを方角に置きますね」
こちら。
向こう。
暗黒。
風。
「便利だから」
私。
「はい」
「あなたは、そっち?」
客人。
「私は、あなた方がそう呼ぶものに近いと観測されることがあります」
「所属?」
「その言葉も、少し違います」
「人?」
長い。
沈黙。
「その質問は」
客人。
「私にも簡単ではありません」
私は。
怖い。
でも。
今。
席を立たない。
「何しに来た」
「見に」
「何を」
「あなたを」
「五番目だから?」
客人。
首。
少し傾ける。
「まだ、その番号を大切にしているのですか」
腹。
立つ。
「悪い?」
「いいえ」
「203は?」
客人。
「数字そのものに、私が確認できる力はありません」
言い方。
森山と。
似ている。
「じゃあ意味ない?」
「そうは言っていません」
いい。
逃げる。
でも。
正確。
「人が意味を作った?」
「人が意味を作り、その意味で行動した」
「それはある」
「はい」
久世。
「何を評価してるの」
客人。
「評価はしていません」
久世。
一歩。
後ろへ。
客人。
その動きだけ。
見る。
「存在するものを、存在しないことにしない」
「受け入れるってこと?」
私。
自分で。
言う。
客人。
長く。
私を見る。
「その言葉を、美しくしすぎています」
胸。
刺さる。
「受け入れるとは」
声。
普通。
「愛することでも」
「許すことでも」
「肯定することでもない」
「では」
「消せないということです」
会議室。
静か。
「殺人者も」
「いる」
「災害も」
「起きる」
「あなたも」
「いる」
「私も」
「いる」
「それを」
客人。
「存在しないことにしない」
私は。
何も。
言えない。
強い。
弱い。
ではない。
別。
「でも」
私。
「いるからって、正しいとは限らない」
客人。
初めて。
声を出して。
笑った。
久世。
さらに。
顔。
硬くなる。
「面白い」
客人。
ドアへ。
「また来る?」
「分かりません」
「あなたも?」
客人。
少し。
止まる。
「はい」
その答え。
意外だった。
出ていく。
久世。
椅子。
座る。
手。
震えている。
私。
「何だった」
久世。
「呼び名なら、いくつもあります」
「正体は?」
彼女。
首。
振る。
「知りません」
その方が。
怖かった。




