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第71話 次の人へ

島から戻った翌日。


会社。


机。


電話。


見積。


ファックス。


何も。


変わらない。


佐伯。


「課長、北辰の件」


「あとで見る」


「今日中です」


「知ってる」


小野寺。


「お土産は?」


「ない」


「島まで行ったのに」


「仕事」


「有給でしたよね」


また。


それ。


私は。


少し笑った。


夜。


203号室。


机。


青い大学ノート。


〈次の人へ〉


開く。


最初。


細い字。


〈分からないなら、分からないと書け〉


次。


〈次の人は、私より賢い必要はない〉


〈勇敢である必要もない〉


〈最後まで行く必要もない〉


私は。


止まる。


最後まで。


残る。


それを。


少し。


自分の役目のように。


思い始めていた。


ノート。


続く。


〈やめてもいい〉


〈戻ってもいい〉


〈家庭を選んでもいい〉


〈怖くなったら捨ててもいい〉


〈それも、次へ渡すことだ〉


私は。


椅子にもたれる。


「厳しいな」


次。


別の筆跡。


太い。


〈最後まで残ることに意味を作るな〉


その下。


また別。


丸い字。


〈私は帰りました〉


〈それでよかった〉


三つ。


少なくとも。


一人ではない。


誰かから。


誰かへ。


渡った。


私は。


最後のページを開く。


余白。


広い。


何か。


書ける。


でも。


書かない。


まだ。


書けることが。


ない。


窓。


風。


静か。


壁。


白い。


染み。


増えていない。


時計。


見る。


二時十三分。


ではない。


二時十一分。


私は。


少し。


笑う。


本を開く。


普通の夜。


それが。


良かった。


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