第66話 本人確認
音。
廊下。
コツ。
コツ。
革靴。
三人。
入口を見る。
男。
白いシャツ。
黒いズボン。
五十代。
いや。
六十代にも見える。
写真。
防犯カメラ。
電話。
いくつも。
重なる。
「森山孝一?」
私。
男。
少し笑う。
「そう呼ばれています」
「本人確認になってない」
「社員証は、もう使えませんから」
声。
電話と。
似ている。
それだけ。
久世。
立つ。
「森山さん」
男。
「久世志乃」
「知ってる?」
「名前は」
榊。
一歩。
前へ。
「榊真理を知ってるか」
男の目。
少し。
動く。
「知っています」
「どこにいる」
「分かりません」
榊。
拳。
握る。
でも。
動かない。
私は。
止めない。
榊自身が。
止まった。
「富樫十兵衛」
男。
今度は。
私を見る。
「五番目」
「そう言われてる」
「違います」
「何が」
「あなたは五番目ではありません」
久世。
「写真の裏にも、同じ言葉が」
あの写真。
〈五番目ではない〉
私。
「書いた?」
森山。
「いいえ」
「じゃあ、どういう意味」
男。
無番席を見る。
「五番目という呼び方は、便利だった」
「候補が五人だったから?」
「そういう時期もありました」
「最後に残る人?」
森山。
少し考える。
「そう呼ぶ人もいました」
全部。
少しずつ。
逃げる。
答え。
「じゃあ俺は」
「富樫十兵衛です」
「それだけ?」
「今は」
嫌いじゃない。
答え。
でも。
信用はしない。
「一九八九年の紙」
私は言う。
「俺の名前が書いてある」
森山。
初めて。
笑わない。
「見せてください」
「知らない?」
「知りません」
「本当?」
「本当だと証明する方法はありません」
久世。
「便利ですね」
森山。
「そうですね」
時計。
十五時十八分。
森山。
「北洞口へ行くなら、今です」
榊。
「なぜ」
「潮が上がる」
「地図を知ってる?」
「昔、作りました」
「島の?」
「一部を」
一部。
また。
全部ではない。
私は。
地図。
時刻。
見る。
干潮。
今。
「行く」
久世。
「信用するんですか」
「しない」
榊。
「じゃあなぜ」
「潮は信用できる」
森山。
少し。
笑う。
先に歩く。
四人。
今度は。
見える。
四人だった。




