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第56話 点検口

翌日。


会社。


朝。


机。


透明な袋。


ボールペン。


東央事務用品株式会社。


普通に。


書ける。


〈富樫十兵衛〉


青。


〈二〇三〉


青。


〈昨日〉


青。


何でも。


書ける。


私は。


袋へ戻した。


それでいい。


再現しないものを。


規則には。


しない。


午前。


見積。


電話。


納期。


昼前。


小野寺。


「課長、今日も出るんですか」


「午後だけ」


「また海?」


「点検」


「何の」


「古い施設」


「趣味、悪くなりましたね」


「仕事みたいなもんだ」


「有給ですよね」


細かい。


午後。


潮見観測所。


久世。


榊。


私。


昨日と。


同じ。


海。


崖。


錆びた階段。


違うのは。


ヘルメット。


長靴。


懐中電灯。


榊。


「今日は開けます」


「安全?」


「確認できる範囲では」


「便利な言葉だな」


「正確な言葉です」


地下。


鉄の扉。


〈導水路点検口〉


昨日。


床にあった。


青い線。


見る。


ある。


短い。


一本。


私は。


ボールペンを。


袋ごと。


出す。


並べる。


色。


似ている。


久世。


「同じインクに見えます」


「見えるだけ」


「はい」


榊。


しゃがむ。


線。


爪で。


軽く。


こする。


落ちない。


「古い」


「分かる?」


「少なくとも、今朝引いた感じではない」


「昨日かも」


「それも否定できません」


いい。


否定できない。


扉。


榊。


鍵。


回す。


普通に。


開く。


カチ。


向こう。


暗い。


湿気。


水の音。


私は。


一歩。


入る。


通路。


コンクリート。


幅。


人が二人。


並べるくらい。


配管。


錆。


天井。


低い。


壁。


白い矢印。


〈取水〉


〈排水〉


普通の。


点検表示。


青い線。


床。


続いている。


昨日の一本から。


奥へ。


細い。


途中。


消える。


また。


出る。


「誘導?」


久世。


「そう見える」


「追います?」


私は。


少し。


考える。


「線を追うんじゃない」


「では?」


「通路を確認する」


榊。


小さく。


笑う。


「同じでは」


「違う」


先。


分岐。


左。


〈取水〉


右。


表示なし。


古い図面。


榊。


照らす。


「右は載っていません」


「また?」


「またです」


水。


右から。


聞こえる。


私は。


耳を。


澄ます。


海の音。


ではない。


細い。


流れ。


右。


床。


青い線。


一本。


左。


線。


ない。


久世。


「右ですね」


「何が」


「線」


「だから?」


久世。


黙る。


私は。


左を見る。


右を見る。


「今日は」


榊。


「ここまで?」


「いや」


右。


一歩。


入る。


「線がなくても、右を選んだ」


「理由は?」


「水の音」


普通。


それで。


十分だった。


通路。


二十メートル。


先。


金属棚。


壁。


古い。


点検箱。


蓋。


〈昭和六十四年度〉


「一九八九」


久世。


「ですね」


箱。


開く。


中。


濡れていない。


紙。


一冊。


作業日誌。


表紙。


〈潮見観測所 導水路点検〉


私は。


めくる。


八月。


十日。


十一日。


十二日。


十一日のページ。


ある。


名前。


五人。


その下。


一行。


役割欄だけ。


〈立会〉


氏名。


空欄。


私は。


数えなかった。


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