第52話 山の工場
山道。
車。
久世。
運転。
榊。
助手席。
私は。
後ろ。
「何で俺が後ろ」
「酔います?」
久世。
「子供扱いするな」
榊。
「寝てもいいですよ」
「二人とも嫌い」
町。
消える。
道。
細くなる。
目的地。
旧・東山製紙。
門。
錆。
看板。
文字。
半分。
消えている。
鳥。
虫。
風。
弱い。
「入っていいの?」
榊。
「所有者には連絡済みです」
「いつ」
「昨日」
「仕事早いな」
久世。
「こういう時だけ」
「余計です」
工場。
広い。
機械。
ほとんど撤去。
床。
油。
紙の粉。
古いレール。
事務棟。
机。
棚。
帳簿。
鼠。
「うわ」
久世。
「課長、弱いですね」
「鼠は嫌い」
「向こう側より?」
「比較するな」
奥。
事務室。
窓。
割れていない。
机。
三つ。
埃。
厚い。
引き出し。
伝票。
輪ゴム。
錆びたクリップ。
何も。
特別ではない。
榊。
「配送記録を探します」
久世。
棚。
見る。
私は。
机。
見る。
一本。
ボールペン。
紺色。
透明な軸。
企業名。
白い文字。
〈東央事務用品株式会社〉
知らない。
それだけなら。
普通。
昔の販促品。
机から。
取る。
ペンの下だけ。
埃が。
少し薄い。
「久世」
「はい」
「東央事務用品って知ってる?」
「いいえ」
「榊」
「知りません」
「東山製紙の取引先?」
榊。
古い帳簿。
めくる。
「今のところ、出ていません」
私は。
ペンを。
胸ポケットへ入れた。
「持って帰るんですか」
久世。
「会社名、調べる」
「証拠品では?」
「まだゴミだ」
「課長らしいですね」
「褒めた?」
「いいえ」
帰り。
会社。
夕方。
席。
小野寺。
「お帰りなさい」
「ただいま」
机。
電話メモ。
一本。
使う。
さっきの。
ボールペン。
〈田所 折返し〉
書こうとする。
出ない。
「インク切れか」
小野寺。
「捨てます?」
「いや」
もう一度。
ぐるぐる。
出ない。
紙。
変える。
出ない。
私は。
ペン先を見る。
青い。
小さな。
インクの玉。
ある。
それでも。
紙には。
何も。
残らなかった。




