第43話 森山の住所
森山孝一。
住所。
本社記録。
古い。
だが。
更新履歴はある。
現在も。
住所欄が残っている。
年賀状でも。
送るのか。
私は。
久世と行った。
郊外。
住宅地。
新しい家。
表札。
〈田辺〉
インターホン。
四十代くらいの女性。
「森山さん?」
「前の住人ですか?」
「分かりません。うちは六年前に中古で買ったので」
不動産会社。
登記。
前所有者。
法人。
その前。
森山孝一。
「いつまで」
「十五年ほど前までですね」
それだけなら。
普通だ。
近所。
向かい。
老人。
「森山さん? いたよ」
隣。
女性。
「そんな人、いました?」
二軒先。
「森山さんね。奥さんが綺麗な人だった」
向かいの老人。
「独身だったよ」
食い違う。
でも。
十五年前だ。
記憶なんて。
そんなものかもしれない。
「顔、覚えてます?」
写真。
老人。
「この人だな」
隣の女性。
「知らない人です」
二軒先。
「若い頃は、こんなだったかしら」
全部。
曖昧。
だから。
怪異とは。
呼べない。
帰る前。
久世が。
郵便受けを見る。
「富樫さん」
内側。
錆。
古いシール。
剥がした跡。
指で。
こする。
薄く。
文字。
〈森山〉
「住んでた」
私。
久世。
「少なくとも、その名前は残っています」
庭。
風。
弱い。
家の裏。
古い物置。
田辺さんに。
許可をもらう。
中。
何もない。
棚。
釘。
壁。
鉛筆。
細い線。
一本。
二本。
三本。
四本。
五本。
私は。
触らない。
「また五本」
久世。
「はい」
「意味は?」
「分かりません」
「それでいい」
物置を。
出る。
「久世」
「はい」
「森山は今、どこにいる」
「分かりません」
「生きてる?」
「記録上は」
私は。
その言葉を嫌った。
「記録上」
便利すぎる。
帰り。
駅。
ホーム。
向かい側。
白いシャツ。
黒いズボン。
男。
立っている。
顔。
柱の陰。
私は。
息を止めた。
以前。
ここで見た男。
森山に。
似ていた男。
「森山」
声に出す。
電車。
入ってくる。
車体。
視界を。
遮る。
数秒。
通過。
向こう側。
誰も。
いない。
久世。
「見ました?」
「見た」
「顔は?」
「見えなかった」
「森山さんだと思いますか」
私は。
首を振る。
「似ていた」
それだけ。
今度は。
それだけにした。




