第40話 こちら側
「向こう側は、俺たちを呼んでるのか」
久世。
答えない。
三崎物産。
会議室。
夜。
榊もいる。
初めて。
三人。
同じ机。
「答えて」
私。
久世。
「私たちが確認できた限り」
「うん」
「一度もありません」
静か。
「河西は?」
「自分から近づいた」
「森山」
「自分から」
「君たち」
「自分から」
「榊」
榊。
「同じです」
私は笑った。
「じゃあ何だよ」
資料。
机。
203。
13分。
煙。
五本。
「全部、人間?」
久世。
「203を揃えたのは森山さんです」
榊。
「13分へ合わせたのも」
久世。
「観測手順です」
「煙」
「可視化」
「向こうは」
私は聞く。
「何した?」
二人。
答えない。
「何も?」
久世。
「少なくとも、私たちが確認した最初の記録では、こちら側から開いています」
ぞっとする。
怪物が。
呼んだのではない。
少なくとも。
記録の上では。
人間が。
暗い部屋の扉を。
何度も。
何度も。
開けた。
向こうは。
そこに。
いただけなのかもしれない。
「じゃあ」
私は久世を見る。
「俺を呼んだのは誰だ」
「分かりません」
「君たちじゃない」
「はい」
「向こうでもない」
久世。
少し。
間。
「そう断定できる記録はありません」
「森山?」
榊。
「可能性はあります」
「風?」
沈黙。
窓。
風。
書類。
めくれる。
人事候補。
高橋。
西村。
坂口。
黒田。
富樫。
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
床。
最後。
私。
その下に。
もう一枚。
古い紙。
見覚えがない。
黄ばんでいる。
手書き。
〈富樫十兵衛〉
私は。
動けない。
「何で俺の名前」
久世も。
榊も。
知らない顔。
紙。
日付。
一九八九年八月十一日。
私は。
まだ。
会社員ですらない。
下。
一行。
〈この者には、ここですることがある〉
「誰が書いた」
誰も。
答えない。
私は紙を持ち上げた。
古い。
確かに古く見える。
だが。
紙一枚だ。
偽物かもしれない。
後から書かれたのかもしれない。
「これが本物なら」
久世。
「あなたは、ずっと前から」
「待って」
私は止めた。
「本物って決まってない」
榊。
私を見る。
「日付は」
「日付も書ける」
「名前は」
「名前も書ける」
久世。
少し笑う。
「そうですね」
以前の私なら。
差し出された意味を。
そのまま受け取った。
わかりました。
今は。
違う。
紙が。
私を選んだと言うなら。
まず。
紙を疑う。
窓。
風。
戻る。
弱く。
私は。
その音を聞きながら思った。
ここですること。
それが。
本当にあるなら。
決めるのは。
誰だ。




