第39話 行かなかった男
五番目。
河西。
森山。
私。
その前。
久世が見つけた。
一九七七年。
三崎物産。
責任者候補。
五人。
最後。
第五候補。
赴任せず。
代わりに。
第六候補。
記録上。
初めて。
「六人目」
私。
名前。
宮原修一。
現在八十二歳。
生存。
会いに行った。
古い一戸建て。
庭。
朝顔。
老人。
私を見る。
長い。
「三崎物産から来ました」
「そうですか」
「富樫といいます」
宮原。
目を細める。
「ああ」
「何です?」
「今度は」
胸。
嫌な感じ。
「あなたなんですか」
榊に初めて会ったときと。
似た言葉だった。
「何が」
「入りなさい」
居間。
扇風機。
麦茶。
「私は三崎へ行くはずでした」
「五番目」
宮原。
驚く。
「よく知ってますね」
「でも行かなかった」
「行けなかった」
「なぜ」
「風です」
私は。
何も言わない。
「赴任前日。台風でもないのに強風で電車が止まりました」
翌日。
道路。
倒木。
翌々日。
また電車。
「三日」
「はい」
会社は。
急いでいた。
第六候補へ変更。
「偶然では」
「当時はそう思いました」
「今は」
宮原。
麦茶。
飲む。
「逆でしょうね」
「何が逆」
「運が悪かったんじゃない」
窓。
風鈴。
鳴らない。
「助かったんです」
「何から」
「知りません」
「河西を知ってる?」
「名前だけ」
「森山」
宮原。
顔。
変わる。
「会ったことがあります」
「いつ」
「私が行かなかった翌年」
「何を話した」
「なぜ行かなかったか」
「森山は何て」
宮原。
思い出す。
「そうですか、と」
それだけ。
「そのあと」
「帰り際に」
宮原。
私を見る。
「妙なことを言いました」
「何」
「次は、風のない人を探します」
背中。
汗。
「風のない人?」
「意味は分かりません」
私は立つ。
玄関。
宮原が呼ぶ。
「富樫さん」
「はい」
「風が吹いているうちは」
「何」
「行かない方がいい」
「どこへ」
老人。
笑う。
「それを私は知らないから」
助かったんですよ。
外。
風。
強い。
私は。
その風に。
初めて。
腹が立った。




