第36話 予想外
「俺を呼んだのは、お前たちか」
私は久世へ聞いた。
会議室。
二人。
久世は。
「違います」
「証拠」
「あります」
初めて。
彼女から。
出した。
黒いファイル。
会社のロゴはない。
表紙。
何もない。
「何これ」
「私たちの記録です」
「私たちって」
「まだ言えません」
「便利だな」
ページ。
河西正臣。
観測開始。
一九八九年。
森山孝一。
観測開始。
一九九八年。
その後。
何人か。
名前。
知らない。
そして。
富樫十兵衛。
ページ。
薄い。
〈接触予定対象外〉
私は読む。
もう一度。
〈接触予定対象外〉
「対象外?」
「はい」
「じゃあ何で君が来た」
久世。
ページをめくる。
〈二〇二六年六月二十六日 三崎物産後任確定〉
〈富樫十兵衛〉
その下。
赤字。
〈該当なし〉
〈経路不明〉
〈確認要〉
「私が三崎へ行った最初の理由です」
「俺を誘導するためじゃない?」
「最初は違います」
「じゃあ」
「なぜあなたが来たのかを調べるため」
私は笑った。
「暗黒側も知らない」
「その言い方、嫌いです」
「でも合ってる?」
「だいたい」
「久世」
「はい」
「君たち、俺を呼んでない?」
「呼んでいません」
「榊は」
「違います」
「森山」
久世。
止まる。
「分かりません」
「河西」
「無理です」
「向こう側」
久世は。
すぐには答えなかった。
「それも」
「何」
「分かりません」
私はファイルを見る。
「君たちは何でも知ってると思ってた」
「知りませんよ」
久世。
笑わない。
「だから見たいんです」
この人たちも。
知らない。
向こう側を開こうとしている人間ですら。
私がなぜ来たか。
知らない。
「怖くなった?」
久世が聞く。
「少し」
「私もです」
「いつから」
「あなたが二〇三号室へ入った日から」
「染み?」
「違います」
「何」
久世は。
私を見る。
「風が吹いたから」
その夜。
私は。
久世を。
少しだけ。
信用しなくなった。
そして。
少しだけ。
信用した。




