第16話 点検口
翌朝。
会社へ行くと、業者が来ていた。
早い。
「手配したの誰?」
小野寺が首を傾げる。
「本社じゃないですか?」
久世に電話する。
「私です」
「早すぎない?」
「昨日、帰る前に頼みました」
「仕事できるね」
「褒めても何も出ません」
業者が鉄板を外す。
錆びたネジ。
金属音。
中。
配管ではなかった。
空洞。
奥へ続いている。
直径三十センチほどの古い管。
コンクリート。
「これ何です?」
業者も分からない。
建物の外へ向かっている。
久世が昼前に到着した。
古い建築図面と、市役所でもらった暗渠図を重ねる。
「水上用水の支管かもしれません」
「会社の中まで?」
「昔、この辺りは農地です」
管の入口。
内側に。
黒いもの。
煤。
私は指で触ろうとした。
「触らないで」
久世が腕を掴んだ。
初めて。
彼女から私に触れた。
「何か分からない」
「そうだな」
手を離す。
一瞬だけ。
距離が近かった。
久世はすぐにしゃがみ、ライトで奥を照らす。
「何かあります」
棒の先へ粘着テープを巻き、引き寄せる。
紙。
いや。
写真。
水に濡れたように波打っている。
古いポラロイド。
三人の男。
会社裏。
一人は若い佐伯。
一人は森山。
もう一人。
社員名簿の写真で見た。
河西正臣。
裏。
日付。
〈2004.8.10〉
そして。
〈一回目 失敗〉
私は息を止めた。
「佐伯さん」
呼ぶ。
佐伯は写真を見た。
顔色が変わった。
「これ、どこに」
「壁の中」
佐伯は椅子へ座った。
「話してください」
長い沈黙。
「知らないんです」
「写ってる」
「写真は知ってます。でも、何をしてたかは知らない」
「この日、何があった?」
佐伯は額の汗を拭いた。
「河西さんに頼まれたんです。二人を写真に撮ってくれって」
「二人?」
「河西さんと森山さん」
「なぜ」
「記録だって」
「何の」
「聞いてません」
佐伯は写真を指した。
「でも、この文字はなかった」
〈一回目 失敗〉。
「じゃあ誰が」
「知りません」
私は写真を見る。
森山。
河西。
二人とも。
カメラを見ていない。
写真の右端。
何もない場所。
そこを見ている。
「ここに何が?」
佐伯は首を振る。
「そのときは何も」
「そのときは?」
佐伯が黙る。
「翌朝」
声が小さい。
「河西さんがいなくなった」
事務所の窓が。
ガタッ。
一度だけ鳴った。
風。
写真の端が浮く。
久世の指が。
写真を強く押さえた。
私はそれを見た。
「久世さん」
「はい?」
「風、嫌い?」
彼女は少しだけ間を置いた。
「髪が乱れるので」
それだけだった。




