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第13話 水上

久世は翌日も三崎物産へ来た。


午前中、私たちは市立図書館へ向かった。


平屋に近い古い建物だった。


入口の脇に朝顔。


自動ドアの内側は冷房が効きすぎている。


郷土資料室。


町史、住宅地図、昭和の航空写真。


久世は迷わず棚を選んだ。


「来たことある?」


「ありません」


「それにしては早い」


「こういう資料、どこも置き方は似てます」


昭和五十年代の地図。


旧字名。


〈水上〉。


あった。


ただし、私が想像していた場所とは違った。


水上は一地点ではない。


細長い。


旧河川に沿って伸びる土地だった。


北から南へ。


現在の三崎物産。


フレッシュマートみなみ。


私のアパート。


三つの場所を。


かすめるように。


一本の帯が通っている。


「線だ」


声に出た。


久世が私を見る。


「何がです?」


「いや」


森山。


線が合う。


私は地図を見た。


昔ここには川があった。


正確には川ではない。


農業用の水路。


さらに古い地図では、もっと幅がある。


昭和三十年代。


〈水上用水〉。


現在は大部分が暗渠になっていた。


地面の下。


「だから海の音がした?」


私は呟いた。


「何です?」


「何でもない」


久世は追及しない。


それがありがたかった。


地番203を探す。


旧地番図。


〈水上203〉。


場所は。


現在のフレッシュマートみなみの裏手。


倉庫。


私は黙った。


「知ってる場所ですか」


久世が聞く。


「スーパーの裏」


「行ったことが?」


「ある」


「何がありました?」


私は答えなかった。


久世は地図へ視線を戻した。


「なら、今は聞きません」


図書館を出た。


外。


熱気。


駐車場の白線が眩しい。


車へ向かう途中。


久世が言った。


「水路の管理記録も見た方がいいですね」


「どこにある?」


「市役所の農政か土木」


「詳しいな」


「総務ですから」


二度目だった。


午後、市役所。


古い暗渠台帳によれば、水上用水は1990年代から段階的に地下化されていた。


2004年8月。

一部補修工事。


期間は8月9日から11日。


備考。


〈異常湧水により中断〉


「湧水?」


職員に聞く。


「昔の記録なんで、詳しくは」


「雨は?」


「気象記録を見る限り、降ってないですね」


雨のない真夏。


地下から水。


帰り。


久世が運転した。


「富樫さん」


「はい」


「ここから先、調べるなら順番を決めた方がいいです」


「順番?」


「人の記憶は変わります。でも公文書は、変更された痕跡が残る」


「河西さんの奥さんより先に記録?」


「私はその方がいいと思います」


正しい。


だから私は頷いた。


交差点。


赤信号。


車内は静かだった。


エアコンの吹き出し口から冷たい風。


久世が突然。


それを閉じた。


「寒い?」


「少し」


信号が青になる。


私は気づかなかった。


閉じたはずの吹き出し口から。


細い風が。


私の手帳のページだけを。


一枚。


戻していた。


そこには。


〈河西美津子〉


と書いてあった。

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