第11話 席にいた男
午前中は注文が重なった。
「北辰、三十追加です」
「在庫は?」
「十二」
「十八発注。納期確認」
返事を待たず、佐伯が動く。
自分の判断で会社が動くことを、私は嫌だと思わなくなっていた。
十一時四十七分。
小野寺が古い防災訓練資料を持ってきた。
〈平成十六年度 防災訓練実施要領〉
消防署提出用の事務所平面図に、当時の社員名が記されている。
現在の私の席にあった机。
文字を拡大する。
〈営業課 河西正臣〉
佐伯へ聞いた。
一瞬だけ動きが止まった。
「昔いた人ですよ」
「いつ辞めた?」
「亡くなりました」
「原因は?」
「事故です」
「海?」
「違います」
「川?」
「……そう聞いてます」
夕方、小野寺が古い社員名簿を見つけた。
河西正臣。
〈死亡退職 2004年8月11日〉 〈社外事故〉 旧住所 〈字水上203〉
八月十日の古いFAX。
02:13。
森山受領。
翌日、河西死亡。
その日の午後、会社裏で煙草を吸っていると、風のない田んぼの中を一度だけ冷たい風が抜けた。
煙は用水路とは反対、会社側へ流れた。
翌日午前十時十五分。
本社総務を名乗る女性から電話があった。
「旧備品整理の件で、田所から伺いまして。古い社員資料も現地で整理した方が早いと思います」
「お名前は?」
「久世です。久世志乃と申します」
電話を切る。
メモ用紙に書いた〈久世志乃〉。
窓は閉まっている。
紙が、ふわりと机から落ちた。
エアコンだろう。
そう思った。
翌日。
久世志乃は予定どおり三崎物産へやって来た。




