第十話 席順表
203の金属プレートは、古いスチール机の備品番号らしかった。
経理の藤井に聞くと、総務の備品台帳は二階の資料室にあるという。
青いバインダー。
〈スチールデスク 片袖〉 取得年月 1991年4月 配置 営業部 備品番号 203
普通だった。
ただし備考に、
〈配置変更 2004.8〉
とある。
同時期に他の机も動いていた。席替えなら当然だ。
だが203だけ、変更前後の配置先が書かれていなかった。
午後、取引先の東亜機工の部長が、森山を知っていると言った。
「変わった人でしたよ。数字じゃなくて、時間に細かかった」
森山は何度か「二時十三分に電話します」と予告し、本当にその時刻に電話してきた。
「理由は?」
「線が合う、とか言ってたかな」
夕方、会社裏の灰皿で、私は森山の真似をして煙草へ火をつけ、吸わずに煙を見た。
佐伯が来た。
「森山さんも、よくやってましたよ」
「何を見てた?」
「煙を」
「聞いたことある?」
「一度。向こうが動くと分かるって」
その夜、残業で一人になった私は机の裏をスマートフォンのライトで照らした。
薄い文字。
〈203 窓側〉
翌朝、小野寺から、その古い机が本社総務の指示で廃棄対象になったと聞かされた。
「昔の席順表って残ってる?」
「あるかもしれません」
「探してもらえる?」
「いつまでに?」
私は答えた。
「今日中に」
森山の前に誰が座っていたのか。
それを私はまだ知らない。




